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水の生まれる夜に 40 正直者の秘密

その日の夜、二人とも早く食事を済ませてお風呂に入り、綾乃さんが持ち込んだ荷物の整理をしていた。
夜の9時ごろスマホにメールが届く、先輩からだった、少し話したいらしい。
僕はパソコンを立ち上げて回線を開く。液晶モニターには先輩と瑠美さんがにこにこしている。

「どうしたんですかこんな時間に、珍しいですね」僕は不思議になって聞いた。

「悪いな、瑠美がどうしてもつなげってうるさいんだよ」

「こんばんは新君、それから綾乃ちゃんもいるんでしょう?」

「えっ、何言ってるんですか?」驚いて目をパチパチした。

「ほら、いるわけないじゃん」先輩は瑠美さんを横目で見る。

「はい!いますよ、始めまして綾乃です」僕の横に座って微笑んだ。

「ほらー!やっぱりいたでしょう、こんばんは、始めまして瑠美《るみ》です」手を振って微笑んでいる。

「ええ〜……新!一体どうなってるんだ」身を乗り出して聞いて来る。

「あのう……これには色々と訳があって……」

「仁ちゃんほら見て、綾乃ちゃんパジャマだよ、私が言った通り二人で暮らしてるでしょう」留美さんは勝ち誇ったようにニヤリとした。

「はーい、二人で暮らしていまーす」綾乃さんはピースサインをした。

「…………」僕は液晶モニターの前でうつぶせになる。

「綾乃ちゃん、もしかして新君が優しくて誠実なことを見抜いた?」

「はい、優良物件だと思いました」

「コンパやパーティでは分からないけど新君はとってもいい人よ」

「私もそう思います」

「新君おめでとう、ついにいい人が見つかったね、良かったね〜!」瑠美さんは拍手して喜んだ。

「でもなんでわかったんですか?」綾乃さんが不思議そうに聞くと

「だって毎日食事を作っているって聞いてピンときたわ」

「おい新、付き合ってるならちゃんと報告しろよ!」不機嫌そうにふてくされる。

「いえ、まだ付き合っていませんけど……」

「はい、まだ告白されてません」綾乃さんは笑っている。

「新君しっかりしなきゃダメじゃない、こんなチャンスはもう二度と来ないわよ!」

僕はスーッと画面から消えてリビングの畳の上で布団をかぶる。

「新さんふて寝してしまいました」後ろを振り返りながら笑った。

「新君にはちょっときつかったかしら、でも綾乃ちゃんがいれば安心ね」

「ありがとうございます」ペコリと頭を下げている。

「来週の土曜日にそっちへお邪魔したいんだけど大丈夫?」先輩はにこにこしながら聞いている。

「はい大丈夫です、いま私がバイトしてる天空カフェがバーベキューもやってるので、お二人を案内しようって言ってたんですよ」

「ほんと?いいねえ」

「お店のママさんも特別サービスを用意してくれるって言ってました」

「そう、ありがとう綾乃ちゃん、もう大丈夫ね新君も、彼女がそばにいてくれるんだったら」腕を組んでうなずく。

「新、土曜日はよろしくな!」先輩の呼びかけに「はーい」と返事だけした。

綾乃さんがパソコンを閉じると髪をくしゃくしゃにしながらテーブルへと戻って来る。
「瑠美さんはするどいなあ、なんでもお見通しだ」

「そうですね、物事をしっかり見ている人ですね」綾乃さんもうなずいている。

様々な事が急展開で、ジェットコースターに乗ってる気分だ。僕は振り落とされそうで怖くなっている。しかし隣にいる綾乃さんは何事もなかったように鼻歌を歌っている。僕は綾乃さんが可愛いけど少しだけ怖くなった。

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