星降る夜のセレナーデ 第85話 思い出巡り
「志音ちゃんどこへ行きたい?」何となく聞いてみる。
「モヒくんの思い出巡り」チラッと俺を見た。
「えっ?……………」
「モヒくんが通っていた高校とか、不良になった時の遊び場とか………………そんな思い出の場所!」
「えっ?そんな所に行きたいの?」俺はただ困惑する。
「だって、モヒくんの事をもっと知りたいもん」志音ちゃんは唇をモゾモゾとさせている。
「俺の思い出の場所か〜………………」俺はあまり行きたくない所ばかりが頭に浮かんで、クッと眉を寄せた。
「志音に見せるのは嫌なの?」志音ちゃんはメイクした可愛い頬を膨らませている。
「つまんない所ばっかりかもしれないよ?」
「つまんないかどうかは志音が決めるの!」
「分かったよ」俺は諦めるようにハンドル回してアクセルを踏んだ。
しばらく車を走らせる。通っていた秩父の高校へ到着すると、道路から二人で校舎を眺めた。
「モヒくんの通った高校はここなんだ、志音も高校はここにしようかな〜」
志音ちゃんは嬉しそうに、静かな休日の校舎を見ている。すると校門から1人の女性が出て来た。
「あれっ?もしかして浅見くん?」
「えっ!相川さん、どうしてここに?」
「私、先生になってここへ赴任したのよ。今日は日曜だけど、忘れ物を取りに来たの」
「そうなんだ……………」俺はゆっくり頷いた。
相川麗奈《あいかわれな》さんは同級生だった。実は好きな子で、中学の頃はよく2人図書室で勉強していた。しかし不良になった時期からあまり話さなくなってしまった。
「もしかして真人くんの恋人さん?」相川さんはニッコリ志音ちゃんへ会釈した。
志音ちゃんは恥ずかしそうに俯いた。
「今働いている所のお嬢さんで、志音ちゃん」俺は紹介する。
「同級生だった相川麗奈です」ペコリと頭を下げ志音ちゃんを見た。
「とっても綺麗な人だから、彼女かと思ったわ」ニッコリしている。
「志音ちゃんはまだ15歳なんだよ」俺は口角を上げた。
「え〜!!!」相川さんは口を塞いで絶句した。
志音ちゃんは年齢を言われた事に少し不満そうな顔だ。俺はとりあえず場所を変える事にした。
「じゃあまた」そう言って手を振ると車を走らせた。
バックミラーにいつまでも手を振っている相川さんが見える。少しだけ心がチクっとした。
「モヒくん、あの人が好きだったんでしょう?」志音ちゃんは唇を尖らせた。
「え〜………………」俺は素知らぬ顔で誤魔化してみる。
「隠しても分かるもん、顔に書いてあるもん」少し睨んでいる。
「中学の頃は好きだったかもしれないな…………」
「やっぱりそうだ」志音ちゃんは徐に頷く。
「でも、住む世界が違う人だから……………」俺は懐かしい表情になった。
「そうなんだ……………」志音ちゃんは何故か納得したような顔をしてる。
「次はどこ?」志音ちゃんはニッコリ俺を見た。
「ねえ、こんなドライブ楽しい?」俺は不思議に思って聞き直した。
「うん、とっても楽しい」志音ちゃんはしっかり頷く。
「そう…………」俺は次の場所に向かってアクセルを踏んだ。
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