星降る夜のセレナーデ 第57話 交換条件
俺はDTMを理解する事に専念した。毎日遅くまでモニター画面へへばり付いている。
今日もドラム音源で8ビートを打ち込んでいる。しかしいかにも無機質な音がした。
「う〜ん、ノリのないつまらない音だなあ…………」ため息が出てしまう。
「だって生のドラムとかけ離れてるもの………」志音ちゃんがモニターを覗き込む。
「あっ志音ちゃん、おかえりなさい」俺は意識が自分に戻った。
「おかえりじゃないよ、もう夜だよ」少し呆れ顔だ。
「そうかごめんね、先生は?」
「リビングで譜面を書いてるよ」
「そうか、俺が夢中になってたから、先生はリビングで仕事してるんだね、申し訳ないことをしてしまった」俺は体を起こし髪をかき上げて大きく息をした。
「それよりそのドラムじゃどうにもなんないよ」呆れ顔だ。
「どうしたらいいんだろう?」俺は眉を寄せて志音ちゃんを見る。
「よく見て、そしてよく聞いて」志音ちゃんはドラムセットの前に座った。そして徐に8ビートを叩いて見せた。
「ハイハットシンバルも強弱があるし、スネアは叩いた後に小さいけど装飾音が鳴ってるでしょう?」志音ちゃんは解りやすく、強調して叩いてくれた。
「そうか、ただリズムを叩いてるだけじゃあないんだ!」俺は目からウロコだ。
「分かった?」志音ちゃんは少しだけ口角を上げる。
「解りました志音先生!」そう言ってモニターを見ると強弱や装飾音をつけてみる。
打ち込んだドラムはかなりノリが良くなり心地よくなった。
「後はエコーとか効果をつけたらいいんじゃない?」志音ちゃんは頷く。
「なるほど」俺は直ぐにエコーを響かせた。
「かっこいいじゃん、ライブのドラムみたい」志音ちゃんはニッコリしている。
俺は何度も頷いた。
「志音先生、やっぱり俺にドラムの叩き方を教えて下さい」俺は手を合わせてお願いする。
「いいわよ、でも条件があるわ」少し首を横にした。
「どんな条件ですか?」
「教える代わりに、月に一度ドライブへ連れて行く事!」
「なんだ、そんな事でいいんですか、だったら喜んで」俺は何度もピコピコと頷く。
「やったあ!これで毎月ドライブに行ける」志音ちゃんは喜んだ。
二人でリビングへ出てくると、志音ちゃんは早速交換条件を話している。
「真人くん、大丈夫なの?」美夜子さんが心配そうに確認した。
先生は「う〜ん」少し考えている。
「そうだ、志音、真人くんにピアノと譜面の読み方も教えてあげてよ」
「え〜!ドライブ1回でピアノも教えるの」口を尖らせる。
「じゃあ、どうしたら良いんだい?」先生は志音ちゃんを覗き込んだ。
「じゃあドライブは月に二回にしてよ」志音ちゃんは俺をジロっと見る。
「志音ちゃん無理は言わないのよ」美夜子さんが嗜めた。
「俺は教えてもらえるなら月に2回でも全然構わないですけど」ピコっと頷く。
「えへへ、契約成立だね」志音ちゃんはニタリとした。
「志音ちゃん、忙しい時には月に一回にしてあげたら?」美夜子さんが聞いた。
「いいよ、忙しい時は月に一回でも」ゆっくり頷く。
俺は音楽への道が開けたような気がした。
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