星降る夜のセレナーデ 第77話 3枚のDVD
「そうだ、これを首から掛けて」そう言ってパスを渡された。
俺は関係者のパスを掛けて中へと入る。
「ここは清水アリサちゃんのDVDを3枚買わないと入れないんだよ」小池さんはニッコリした。
「3枚も同じDVDを買うんですか?」俺は何度も瞬きした。
「1枚は見るため、そして2枚目は保存用、そして3枚目は新たなファンを広げるための貸し出し用なんだ、それが『清水アリサファン』なら当たりなんだよ」小池さんは頷いた。
「そうなんですか?……………」俺は不思議な世界に唖然としている。
しばらくすると、清水アリサさんは着替えてサイン会になった、DVDの保存用にはサインをしてもらえる事になっているらしい。不思議な世界だ…………。
小池さんは俺を引っ張って清水アリサさんの前へ来ると、「彼が音楽を作った浅見真人さんです」そう言って紹介した。俺は驚いて緊張し、ぎこちなくお辞儀した。
「あなたが浅見さんなの?」清水アリサさんは少し不思議そうな表情だ。
しかしすぐに立ち上がると、握手を求めて来た。俺はチラッと周りを見た。清水アリサファンはジロッと不審な目で見ている。彼女はマイクを取るとニッコリした。
「皆さ〜ん!DVDの音楽を作っていただいた、浅見真人さんです、今日は応援に来て頂きありがとうございます。皆さん浅見真人さんに拍手をお願いします」高らかに宣言した。
会場は大きな拍手が沸き起こる。ファンの不審な目は一気に優しい目に変わった。
俺はゆっくりとアリサさんのファンへ頭を下げた。
「では出版社で」そう言い残して小池さんは俺を引っ張り外へ出た。
「不思議な世界ですね」俺は眉を寄せて歩いていく。
「あの会場に今日は約1000人のファンが集まってるんだ、その人達が3枚ずつ買うんだよ」そう言って笑っている。
「じゃあ、今日1日で3千枚売れるって事ですか?」
「違うよ、今日は3回ライブがあるんだよね」さらに笑った。
「じゃあ9千枚売れるって事ですか?」
「そう言うこと」
俺は思わず立ち止まった。
「彼女は人気があるから、値段も3800円なんだよ」
「って事は……今日1日で3420万の売り上げと言う事ですか?」
「計算早いね」小池さんは笑っている。
「え〜!!!」俺は固まった。
「そこから真人君に作曲料が支払われんだよ、だから挨拶に行った方が良かったでしょう?」
「はあ……………」俺は呆然としたまま頷いた。
「白河先生はきっとこの状況を見せたかったんだと思うな、次の仕事の為にも」小池さんは口角を上げる。
「そう言う事なんですね」俺は深々と頭を下げ納得した。
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