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星降る夜のセレナーデ 第120話 先生の涙

帰り道で先輩の店へ予約をした。みんなで食事をしたいと思い、ピアノのある部屋を貸し切る事にする。みんなでアイランドへ向かった。
マスターは美夜子さんを見て固まっている。

「優様…………」

先生と美夜子さんはワインを飲んでいる。俺は運転があるので志音ちゃんとジュースを飲んだ。
ローストビーフやソーセージ、などのオードブルとサラダをつまみに志音ちゃんの『お帰りパーティ』が進んだ。

俺は先生のワインを追加注文しにマスターの所へ来る。

「真人、優様にサインとか頼めないよねえ…………」

「頼んでもいいけど、2度と来てくれなくなるかもしれませんよ」

「そうだね、サインはいらない!」マスターは大きく頷いた。

しばらくして酔ってきた先生は「志音のピアノが聴きたいなあ……………」ポツリと漏らした。俺はマスターに目で確認すると志音ちゃんへ頷く。

「とーたんはわがままだね」そう言ってピアノの前に座った。

そしてゆっくりとピアノを弾き始める。

曲はなんと『潮騒のシンフォニー』を美しいピアノ曲にアレンジしたものだった。
先生は驚いて固まる。そしてしばらくすると大粒の涙をポトポトと流した。
美夜子さんも目頭を押さえている。
先生と美夜子さんの思い出の曲は、志音ちゃんのアレンジで美しく引き継がれた。
店内には家族の思いと優しい音色がメロディに乗って広がっていく。
志音ちゃんは音楽の勉強を真剣にしている事が、そしてその成果が一瞬で理解できた。

「志音……………」先生は涙を拭いて拍手した。美夜子さんも深く頷いて拍手した。
俺は志音ちゃんのピアノと、この状況に感動して手が痛くなるほど拍手した。
志音ちゃんは弾き終わると、微笑んでカーテンコールの挨拶のようにゆっくりとお辞儀した。

「今夜は最高だ!……………」先生は何度も頷いている。

帰り際にマスターが俺に言った。

「真人は遠い人になったんだなあ……………」そう呟く。

ログハウスへ帰ってからも先生はワインを飲んでいる。
明日ロンドンへ戻ってしまう志音ちゃんに名残惜しそうだ。

「志音、もう十分に音楽は勉強したんじゃないの?もう帰ってきてもいいんじゃ無いの?」

「とーたん、残り1年じゃない、志音は中途半端はいやよ」

「そうかい?」

「パパ、酔いすぎじゃないの」美夜子さんが優しく言った。

「酔わずにはいられないよ〜…………………」

先生はそのままソファーへ倒れ込んだ。

俺は家族水いらずがいいと思って帰ることにする。

「モヒくん、帰っちゃうの?」志音ちゃんは少し寂しそうな顔だ。

「泊まるわけには行かないし」俺は何となく呟く。

美夜子さんは俺を見ると「泊まってもいいわよ」そう言ってニッコリした。

「えっ!…………」俺は固まった。

それを見た志音ちゃんは微笑むと「また明日ね」そう言った。

俺はペコリと頭を下げてログハウスを後にした。

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