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隠れ家の不良美少女 103 桜舞い散る時に

ピザが届くと当たり前の様にハイボールが二人分出てきた。
今夜も泊まりになる事を認識する。
「ねえお母さん、お父さんと知り合って幸せだった?」
希美子さんはハイボールを吹き出しそうになる。
「何?突然!」
「希和は今とっても幸せだけど、お母さんはお父さんと付き合った頃どうだったのかなあって思って」
「勿論今の希和に負けないくらい幸せだったわよ」
「そうなんだ、良かった」希和は嬉しそうに微笑んだ。

俺のスマホが鳴った、和也さんからだ。
「はい一瀬です」
『もしもし、例の曲が出来たので連絡しました』
「そうですか、ありがとうございます」
『データをそちらに送りますね』
「はい」
『今なら手直しや要望も聞けるので、確認したら連絡をください』
「ありがとうございます」スマホを置いた。

「あの曲が出来たんだって」
「えっ、ソラミミの曲?」希和が大きく瞬きする。
「ああ、そうだ」
送られて来たデータを希和のパソコンで再生した。
和也さんがギターを弾きながら歌っている動画だ。

曲のタイトルは『ラプソディは永遠に』と表示されているが、副題として「桜舞い散る時に」と書かれている。
『空耳だったの、貴方の言葉は〜♪………私の心に染みた言葉は〜♪……』
3人で動画を食い入るように見る。
俺は涙がポトリと落ちた。
桜との思い出が頭の中に広がって、俺の心を締め付けた。

とても良い曲に仕上がっている。
俺と桜の話を元に、見事な切ないラブソングに仕上がっていた。
「お父さん凄い」希和がポツリと漏らす。
希美子さんは涙を溜めたままハイボールをグッと飲んだ。

「とっても良い曲に仕上がった、きっと桜も天国で喜んでるだろうなあ」
「そうだね桜子さんもきっと聞いていたと思うよ」希和も涙をいっぱい溜めて俺を見ている。
俺は涙が止まらなくなってしまった。
「和也さんにお礼が言いたいけど、上手く声が出せません」喉を詰まらせながら言うと。「お母さん、お父さんに友希さんの代わりに言ってあげてよ」希和が促す。
「分かったわ」そう言って希美子さんはスマホを出す。
「すみません」俺は頭を下げた。
希美子さんは電話をかけると「とっても素敵な歌ね、友希さんは感激して泣いちゃったから私が代わりに電話したの、やっぱり和也さんは凄いわ」嬉しそうに話した。
そして曲は長谷川さんに送られアレンジされる事になった。

希和の部屋で寝ようとすると、希和が両手を広げて俺を見つめる。
「どうしたんだ?」
「希和が桜子さんの代わりに泣き虫友希さんを慰める」
そう言った。
「恥ずかしがらないで希和の胸で泣いて良いよ」自分の胸をすりすりとさすった。
俺は思わず吹き出してしまった。
希和は思い切り頬を膨らす。
「ありがとうな希和、気持ちはしっかり受け取ったぞ」
「本当に?」首を傾げた。
希和は安心したように俺に抱きついて眠った。

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