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可愛いキャンペーンガールとイベントで知り合った。

今日から4日間ほどイベント運営のディレクターとして、助っ人に来ている。
俺の仕事は東京ドームでのイベントだが、今回は国際展示場に来ている。
内容はキャンピングカーの展示イベントだ。
オレの仕事はバックヤードの管理。
クライアントと直接会うことも多いのでそれなりに気を遣う現場だ。
朝から主催者や関係者のお弁当を用意したり、飲食のできる共有スペースを作って関係者が休憩できるようにセッティングしている。
アルバイトの子達に指示をしながら、問題が無いか確認していた。

共有スペースに一人の女の子がキョロキョロしながらやってくる。
イベントのコンパニオン達とは一見して違いがある、素朴で地味すぎるのだ。
しかし関係者を示すパスを首から下げているので、不法な進入者では無さそうだ。
肩から色褪せたトートバッグを下げている、一体どんな田舎から出てきたんだろうと思わせるような風体だ。
髪は金髪だが、頭の上の方は黒くなっている、まるでプリンのようだ。

共有スペースに座るとじっと子供のようにこっちを見ている。
どうやら並べているお弁当を見ているようだ。
近づいてみると、少し怯えたような目でオレを見た。
「もしかして……お腹空いてる?」と聞いてみる。
一瞬固まったが、コクリと頷く。
スタッフ用の、おにぎりと漬物が入ったパックとお茶を渡すと、驚いたが直ぐにニッコリと微笑んで会釈をして食べ始めた。
実に嬉しそうに食べている、数日何も食べてなかったのかと思わせるほどだった。

徐々に色んな人たちが共有スペースに入ってきた。
しばらくすると食べていた彼女の携帯がなり、場所を説明してる様だ。
するとスーツを着た人物が、大きなバッグを抱えた女性を二人連れてやってきた。

「スタイリストの松原さん、そしてメイクの藤井さんです」彼が紹介すると彼女は慌てて立って挨拶している。
「初めまして、寒河江凛《さがえ りん》です、よろしくお願いします」
「じゃあ後はよろしくお願いします、私は直ぐに他の所へ行かないといけないので」そう言ってスーツを着た彼は立ち去ろうとしたが、慌てて戻って来た。
「凛ちゃん、社長の言う事をよく聞いてね、絶対に怒らせないよう頑張ってよ」そう言って急足で立ち去る。
残された彼女達3人は控室へと向かった。
凛ちゃんは歩きながら、こっちをチラッと見てペコリと頭を下げた。

会場はファンファーレが鳴り響きオープンすると、一般のお客さんがゾロゾロと入ってくる。一挙に賑やかになり活気が出てくる。
休憩時間になった俺は会場を見て回った。
様々なキャンピングカーが展示されている。
トラックタイプのものやバスタイプ、ワゴン車タイプや車で引っ張るトレーラータイプなど多種多用だ。
照明や音楽、そしてコンパニオンの女の子逹、カラフルな旗などが、賑わいを演出している。
その中でワゴン車のキャンピングカーに目が止まる。
その車の前で恥ずかしそうにチラシを配布していたのは、さっき美味しそうにおにぎりを食べた彼女だ。
大きな胸を強調するような派手目の衣装に、ガッチリメイクされ可愛くはなっているが、どうも何かしっくり来ない感じがした。
話しかけられると、辿々しくうつむき加減に話している。
いかにもこの仕事は向いてない、そうとしか思えない状況だ。
なぜこの子が呼ばれたんだろうと不思議に思った、がしかしそれは分かるはずもないし、オレには関係のないことだ。
そう思ってその場を通り過ぎる。

夕方になって共有スペースを片付け掃除していると、また地味な私服に戻った彼女がやってくる。
「朝はどうも……」恥ずかしそうに挨拶した。
弁当が残っていたので「これ食べる?」そう聞いてみた。
「良いんですか?………」また子供のような目をして見ている。
「これは来賓様用だから豪華だよ」そう言って渡すと、じっーと見ている。
「あ……ありがとうございます」そう言って嬉しそうにトートバッグにいれた。
「お疲れ様でした」そう言って彼女に手を振ると、彼女は何度もお辞儀をして帰って行った。

翌日、また彼女は地味なままで共有スペースへ入ってくる。
オレは「おはよう」と声をかけてまたスタッフ用のおにぎり弁当とお茶を渡した。
「おはようございます」彼女は嬉しそうに受け取った。
彼女は早速嬉しそうに食べた。食べ終わると名刺を差し出す。
その名刺にはYouTubeのマークと旅するプリンと書いてある。
「へー、ユーチューバーなんだ」
「はい、まだなったばかりでほとんど見てくれる人は少ないんです」寂しそうに呟く。
「なるほど、それでここのイベントに出てるんだね」
「はい、私のキャンピングカーを作った会社の展示コーナーでで宣伝してるんですけど、どうして良いかわかんなくて」
「なるほど………」オレは何となく事情を理解する。
「今日は衣装やメイクも自分でやらなくちゃいけないし………」うつむいた。
オレは何とかできないかと考える。

「そうだ!プリンちゃん、魔法の言葉を教えようか?」
「えっ………」
「何にでも『ありがとう』って元気に言うんだ」
「えっ?」
「名刺を受け取ってくれたら『ありがとう』写真を一緒に写ってくれたら『ありがとう』何にでも『ありがとう』って、そして言った後はニコッとして握手してごらん」
「…………」彼女はしばらく考えている。
「それなら私にも出来るかもしれません」少しだけ表情が明るくなった。
「騙されたと思ってやってごらんよ」
「はい」彼女はまたペコリと頭を下げて楽屋へ向かった。

休憩時間になるとプリンちゃんが気になったので彼女を見に行く。離れたところから見てみると、昨日とは打って変わって元気だ。そして彼女の周りには人垣ができている。
彼女はお客さんと一緒に写真を撮って、嬉しそうに握手をしていた。
オレは少しだけホッとした。

その日の夕方、彼女は共有スペースへ走ってやってきた。
「ありがとうございました、今日は凄くみんなが集まってくれてサインまで求められました」満面の笑みだ。
「良かったねえ」
「はい、今朝のアドバイスのおかげです」そう言ってペコリと頭を下げる。
「はい、お弁当」そう言って差し出すと、さらに嬉しそうな表情だ。
「あのう………お名前を聞いて良いですか?」
「一瀬です」IDカードを見せる。
「一瀬さん、ありがとうございました」彼女はまた深々とお辞儀した。
「明日が最終日だね、頑張って」そう声をかける。
「はい。頑張ります」そう言ってお弁当をトートバッグに入れ、嬉しそうに手を振って帰っていった。

最終日になった、やはり彼女は地味な私服のままで共有スペースへやってくる。
しかし表情は随分明るくなったような気がする。
「おはよう、はい朝ごはん」そう言っておにぎりを渡すと彼女はニコニコと受け取った。
「ありがとうございます」そう言って嬉しそうに食べている。
食べ終わると目をパチクリとしながら言った。
「ありがとう、って本当に魔法の言葉なんですね」
「そうだね、ありがとうと言われて悪い気はしないだろう?」
「はい」
「それに、大した事をしてないのに『ありがとう』って言われたら、何かしてあげたくなってしまうからね」
「そうですね、おかげでイベントも少し楽しくなりました」
そう言って笑った。

休憩時間になったのでまた様子を見に行った。
彼女はキラキラと輝いてとても可愛かった、そして沢山の人垣ができている。
オレまで嬉しくなった。

夕方オレはバタバタとバックヤードの撤去をしていた。
共有スペースはすでに無くなっている。
彼女はキョロキョロと探している。
「プリンちゃん、お疲れ様!」声をかけると慌てて駆け寄ってきた。
「あのう………」彼女はスマホを出している。
おそらく連絡先を交換したいのだろうと思った。
しかし、そこへ本部から『直ぐに戻ってください』とインカムのイヤーホンから呼び出しがかかる。
「ごめんプリンちゃん、本部にすぐに来るように連絡が来ちゃった」
「えっ………」寂しそうな表情だ。
「またきっとどこかで会えるだろうから、その時はよろしくね」そう言って手を振って本部へ向かう。
プリンちゃんはずっと見えなくなるまで手を振っていた。
「プリンちゃん、これからも頑張って」そう心の中で呟いた。

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