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採精室で思い出したら、本気の愛だと思う。


採精室、と打って、自然とこのタイトルを思い付いたけれど、一旦保存して検索した。

本のタイトルは、著作権が無い。


一安心して、
両手の親指で続きの言葉を探してゆく。


妊活を始めて、半年位経った頃。
通っていた婦人科から大きめの病院を紹介されて、そこではまず様々な検査をした。

採血、超音波検査は勿論のこと、
卵管造影に、精子の検査。

夫の検査の日。
私の診察が終わり、二人でソファで待っていると、
「旦那さん、検査のお部屋にご案内しますね」
と看護師さん。

「あ、じゃあ、行ってくる」
「あ、行ってらっしゃい」

見送りながら、
なんだか、切なくなった。

採精室の中を実際に見たことは無いけれど、
DVDや雑誌があることは聞いたことがあった。

その中の誰かに、何かに、
一時的にでも興奮を覚える時、
頭の中は殆どその人だ。私は、たぶん居ない。

そりゃ、成人男性皆、
経てきているものだとは分かってはいるけれど。

見送る時に連想してしまうと、
何はともあれ寂しかった。

夫は割りと早めにソファに戻ってきて、
少しだけ疲れた表情だったのを覚えている。

帰りの車内でさりげなく、
「やっぱりDVDとか色々揃ってるんでしょう?」
と聞くと、

「なんかあったけど、何も見てないよ。
◯◯(私)のことを考えたよ。」
と夫が、少し笑いながら言った。


「嘘~!」と笑いながら
本当か嘘か気にならない位、安心した。

不妊の可能性が高まっていくにつれて、
自分の女性としての価値みたいなものが下がっていくように感じていたけれど、
そういった性的な誘惑物に対する畏怖も育てていたらしい。


けれど、夫は初めての病院の初めての部屋で、
手順通りに小さなチューブに入れなければいけなかったのだから、それだけでかなり難儀だったはず。

たとえ、用意された興奮材料を使っていたとしても当たり前に恨みっこ無し、大前提として。


この後。
夫の検査結果は問題無く、
不妊の原因は私であることが明確になった。

という訳で、人工授精、体外受精に進んでいったけれど、その時の採精時は、
本当に私のことを考えていて欲しいと思った。

だって、検査とは違う。

その精子によって出来る受精卵が、
実際に赤ちゃんになるかも知れないから。


だから、魅惑的な映像、写真には、明らかに即効性に劣るけれど、
この際愛の形は問いません、
とにかく“愛”という気持ちを込めて欲しいのです、そう願った。

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