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夢幻に光を垂らす稽古場での立ち位置について

10年ぶりの二作品同時演出脳に、やっと切り替わってきました。
noteの更新も、2週間に1本ぐらいが限界だなという感じです。

今日は再演×新作の、新作「YO RU TO RO TO RO」の稽古についてです。
あらすじをどうぞ。

世界中いたるところに、突如「ドア」が出現した。 ドアを開けた人々はどこかへ消え、決して戻ってはこない。 そんなパニックの中、とある地方都市のとあるイベントの中止が決定した。制作途中の巨大モニュメントも取り壊されることとなり、シートをかけられたまま。解体作業の開始を明日に控えた深夜、モニュメントの設計者がふと思い立って現場を訪れると、そこにはすでに何人もの先客がいた。 現場監督、インベント反対派、マスコットキャラクター、モニュメントの幽霊。 地上 70 メートルの足場の上、行き場のない五人はこなかった未来に思いをめぐらす。

https://expo1314.wordpress.com/yo-ru-to-ro-to-ro/

今作はサカイヒロト氏の新作書き下ろし作品。
サカイさんは私が前に代表を務めていた劇団時代に精華小劇場で上演した
「鉄鋼スベカラク」という作品から、舞台美術・映像を中心に関わって頂いています。サカイさんのホームページにも、その公演の写真が残っていました。

https://werewire.wixsite.com/wire/works?lightbox=dataItem-j8aisucl8

まだぺーぺーの若造だった私が、サカイさんに舞台美術をお願いする際に簡単なプロットをお伝えしたところ、喫茶店で向かい合わせで座るサカイさんがシュルシュルと舞台美術のラフ画を描き上げていくのを見て、魔法を見るような感動を覚えました。

「この人と創る空間なら何だって作れるのじゃないか?」という希望を持った瞬間を、ありありと思い出します。2008年頃の事です。今もそんな希望をずっと見せて頂いております。

そんな事もあり、10周年記念公演で新作の執筆をお願いするにあたり、サカイさんの本で演出してみたいという欲求が強くなり、成されたわけです。
思えば長い旅路です。

『YO RU TO RO TO RO』は、あらすじにも書かれているように、解体を目前に控えた巨大モニュメント(70m)の足場(15m)を中心に物語は進んでいきます。
ここに集まる人々は、何かが足りていない人々ばかりです。
埋められない何かを探して導かれるようにやってきた人々。その目的や人生は様々です。

上記千田さんの稽古ツイートですが、「ヘンテコ」と称されています。

ある側面から見れば、確かにかなり「ヘンテコ」です。
ただ、全く道理が通っていない上にヘンテコだとお手上げです。
でもサカイさんの戯曲なのでそんな事はないだろうと、稽古序盤(なんなら中盤まで)から、かなりしっかりと読解の時間を取って臨みました。道理を探す旅に我々は出かけたのです。

そして先日の稽古で、私の中では「ヘンテコ」な世界に射す眩い光を見た気持ちになりました。長かった旅の終わりです。それが始まりです。

戯曲という文学は、俳優と空間によって立ち上げてこそ、はじめてその全貌が見えてくるものです。
でも、闇雲にこの作品を立ち稽古の中でこなしていっても、ただ時間をムダにする可能性が大きかった事もあり、少し時間をかけてみました。

これが大変良かった。

『YO RU TO RO TO RO』は、いわゆる「現実」と表裏一体の、夢幻の世界に触れる作品です。
夢幻の世界には、想像力の沼が潜んでいます。
どこまでもどこまでも想像できるからこそ、怖くて、美しいのに、なんだか笑えたりする。
だから、ある側面から見れば夢幻は「ヘンテコ」でもあるのです。
人の見た夢の話は、道理が通りづらくヘンテコでしか見えない。そんな感じです。

何度も何度も読み、世界の在りようを図解して、座組で話していく中で見えてきた世界には、大きな道理がありました。

まだ道理には行きついていない図解


この道理をこのnoteで全て開帳できれば良いかもしれないが、それはやはりなかなかに難しい。かなり難しい数学の公式を当て嵌めない限り、この夢幻の世界は立ち上がってこないのです。
この戯曲は、どこまで行っても「舞台表現の道理」に準じて書かれているので、文字での説明は全て野暮ったくなってしまうのです。

しかし、観客の皆様は一度しか劇場でその世界に触れる機会がない可能性が多いにあるので(何度来て頂いても嬉しいです)、その一度きりの時間の中で夢幻に潜む想像の闇に垂らす光を稽古場で探していく事が、私に課せられた大きな使命だと感じています。

私は演出をする際によく「筋を通す」という言葉を使います。

https://x.com/hacmoto/status/1710301546594918733?s=20


上記、さっき使いました。

人様が残した戯曲に演出として触れる機会が多くなってきたのですが、演出という関わり方は、作品に筋を通す事に尽きると言ってよいと思っています。
この筋は、数多の演出家、俳優、スタッフによって違った道をたどるでしょう。あの俳優、スタッフがいなければこうは成らなかった、という事は、どの作品に関わっていても少なからずあるものです。

なので、私は演出家としてこの場にいさせて頂く道理は、筋を探り、その筋に触れる為の足場(稽古の手段)を用意し、そこで大いに遊んで頂く為だけの存在と言えるかもしれません。

そこで今作においては、筋を通すだけで少し足りないので、光を垂らす、という言葉のイメージを持ってして演出に臨むことで、この作品を多くの方に差し出せるのではと考えます。

光を、闇は吸い込みます。
闇は、光に消されます。

どこまで光を当てても、きっとどこかで闇は光の届かないところまで広がっている。

宇宙の果てに何があるのか。
地球の底には何があるのか。

そんな問いに挑むのにも似た試行錯誤が、今まさに稽古場で行われているのです。
そりゃヘンテコだとも言いたくなります。
深海魚は、人間からすればとてもヘンテコな形をしているように見えます。
でも、宇宙人や深海魚はそんなこと微塵も感じていないはずです。

むしろ、お前らがヘンテコだろう、と。

『YO RU TO RO TO RO』に広がる闇は、とても広い。
そんな闇を辿る為に用意されているのが、「ドア」という存在です。

この「ドア」は、物語上で別の側面からは「トビラ」と呼ばれています。
「ドア」と「トビラ」。
同じ意味を持つ物体でも、呼ぶ人が違えばその名は変わってきます。
そんな表裏がこれでもかと詰め込まれた作品です。

そんな表裏に、むやみやたらに光を当てても、どう見てよいか分からない。
なので私は演出家として、光を垂らしてみる事にしたわけです。

光を垂らすためには、紐が必要です。
この紐を、いつも演出する時に心がける、筋とします。
多くの戯曲は、筋を通せば観客はその筋を歩き楽しむ事ができます。

しかし『YO RU TO RO TO RO』は、その筋の先に光が無いと、筋道を見誤る可能性が大いにある戯曲なのです。
エッシャーのだまし絵のような「夢幻」地獄に陥ってしまいます。

人間の果てに何があるのか。人間の底には何があるのか。

そんなエッシャーのだまし絵から抜け出す方法は無いのかもしれない。
問いとして、ただ観る人に委ねるのも一つの方法かとは思いますが、今回は光を垂らし、サカイさんが描く夢幻の美しさを出来るだけ堪能してもらいたいと考えています。

それが、「この人と創る空間なら何だって作れるのじゃないか」という希望を持ち、そんな希望に導かれて作劇をしてきた人間が、今出せる答えの一つです。

でもやっぱりヘンテコです。それも楽しい。

https://www.quartet-online.net/ticket/exposd1314

万博設計13/14 10周年記念公演【再演×新作】
「鮟鱇婦人」×「YO RU TO RO TO RO」
●『YO RU TO RO TO RO』●


▶︎会場 ウイングフィールド 〒542-0083 大阪府大阪市中央区東心斎橋2丁目1−27
▶︎日程 2023年
 11/11(土) 鮟鱇 14:00 / YORU 19:00
 11/12(日) YORU 13:00 / 鮟鱇 18:00
 11/13(月) 鮟鱇 13:00 / YORU 18:00


▶︎チケット
 ・YORU一般 前売 3,500円 / 当日 4,000円
 ・鮟鱇一般 前売 3,000円 / 当日3,500円
 ・18歳以下(要証明書) 500円
 ・2作品セット(予約のみ) 6,000円
 ・初・万博観劇 2,800円 
  *初めて万博設計の公演を観劇する方限定のチケット。自己申告制
  *2作品を観劇する場合は5,600円


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