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vol.2 インタビュー : 乾 幸太郎

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乾幸太郎 | Inui Kotaro
1999年 大阪府出身
2024年 京都芸術大学大学院 美術工芸領域 染織テキスタイル分野 卒業

Q
現在までのルーツを教えてください。

A
今は大学院でテキスタイルを専攻しており、今年の春に卒業する予定です。学部時代は教育大学で美術教育を学んでいました。当時テキスタイルに興味がありましたが、学校内では扱っていなかったため、自分で何か出来ることはないかと草木染めを始めました。草木染めを行うのみだと完成したものは布でしかないので、作品として成立させるために刺繍を加えるようになりました元々抽象的なドローイングを好きで行っていたため、ドローイングを刺繍に起こしていくことが作品制作のスタートだと思います。


Q
テキスタイルに興味を持ったきっかけはありますか?

A
学部時代に授業内で絵を描く際に、レースをモチーフに選んだことが今に繋がっています。元々ファッションやレースが好きなためレースを題材に選んだのですが、描くために観察をする中でテキスタイルの構造に興味を持ち始めました。描くことがメインだったのが、実物を扱った制作を行ってみたいと思うようになりましたね。


Q
教育大学は研究のイメージがありますが、実際どうでしたか?

A
美術教育を専攻していたため、実は、実技制作もありました。しかし、指導環境や設備は整っていないため、やりたいことと実際に出来ることのギャップにどうしたら良いのかモヤモヤしていた時期もあります。制作をしたいのにできない。そのようなもどかしさから、自分でやるしかないと考えるようになりました。


Q
テキスタイルで作品をつくることの根幹にはどのような想いがありますか?

A
テキスタイル自体の"もの"としての可能性を考えており、実践を繰り返しながらその方法を模索しています。アーティストとして作品を作るよりも、研究の認識が強いですね。


Q
美術教育とテキスタイルの関係について聞かせてください

A
美術教育におけるテキスタイルの位置は美術工芸の中の染織に値します。論文や美術教育の方法論を辿っても研究があまり活発ではない分野で指導案も少ないのが現状です。染織やテキスタイルはファッションや衣生活、家庭科や総合科に繋がる
ため、美術としてテキスタイルを扱うことの意義が希薄ということもあり、美術教育のテキスタイルの意義を研究したい気持ちがあります。美術教育の中のテキスタイルだけではなく、美術におけるテキスタイルの価値を考察し直す、見直す必要があると考えています。


Q
研究する中で、どのような価値があると考えていますか?

A
まだ答えは出ていませんが、そもそも美術制度は明治時代に作られ、絵画を頂点とした制度上のヒエラルキーが発生しています。現在どのくらい根付いているかは計れませんが、そのヒエラルキーで考えると、テキスタイルを含む工芸は下部に位置します。当時芸術は生活と切り離した高貴なものとして扱うことで価値を設定していましたが、テキスタイルは生活と結びつきが強いことから、人間との親和性の部分に価値を見出せるのではないかと思っています。普段常に服を着ていますが、社会と身体を繋げる役割にもなるし、人と人、人ともの、ものとものの間を繋げる役割がテキスタイルにはあるように感じています。


Q
卒業制作の作品について教えてください

A
これまでの作品は木枠に貼ったり、壁に設置していましたが、支えるものが強固すぎるなと感じるようになりました。木枠は四角いし壁は重くて大きいため、作品との関係性を考えた時に作品以外の要素が強いんです。今回はなるべく自分の手を加えずに、勝手に形が変わる、揺らぐことを理想として模索する中で生まれた作品になります。


Q
絵画のようにもみえますね

A
私の作品は、インスタレーションのような、空間を作っているように思われてしまうことが多く、平面的な絵画作品にすることで、画面に視線が向くことを狙っています。


Q
普段生活する中で、どのようにテキスタイルを感じてほしいと考えていますか?

A
毎日適当に服を着てタオルを使うし、日常生活の中で繊維の凄みについて感じることは少ないです。だからこそ芸術の力を借りてテキスタイルを鑑賞物として取り出すことが、身近に使用している布からテキスタイルの凄みや価値について考えたり感じられるきっかけになる可能性があると考えています。生活に近いことが、絵画とは違うテキスタイルの価値になるのではないかと思います。また、問題意識として消費にまつわることが根底にあるのですが、消費行動や大きな部分に繋がらなくとも、普段何気なく使っているものが実は凄いと知るきっかけや、ちょっとした気づきを作れたらいいなと思っています。


Q
アートに関わる価値についてどのように思いますか?

A
森口邦彦という作家さんの展覧会を見たことが作品制作のきっかけになりました。幼い頃から絵を描くことなどが好きなわけではなく、制作の習慣はありませんでした。展覧会を見たことでモノやデザインの可能性を感じたことが、実際に手を動かすきっかけにもなりました。
作品自体が綺麗、面白いで終わるよりも、鑑賞者としても作る側としても扱うもの自体の可能性について考えられたら良いなと思います。作品を人間の表現から独立したものと捉え、ものとしての価値を考察していくという第三者としてのアートとの関わり方をすることによって、自らの視点が広がることや刺激を受けることに繋がると考えています。



Q
普段の生活で意識している物事はありますか?

A
とにかく糸が好きなので糸を集めています。工業糸がとても面白く、最近は100円ショップなどの身近なところでも残系を買えるようになりました。ネットでもよく探しています。色も素材も扱い方も思っているより種類が多いのも魅力です。


Q
制作の根源や欲求はなんでしょうか?

A
テキスタイルの可能性について研究したいという意識があり、その過程に作品制作が含まれています。研究、実験、結果から考察を続ける中に制作があるイメージです。誰から何を言われようと絵を描いていたタイプの人ではないからこそ制作を形式的に行っている意識があります。芸大の中では作品を発表する機会が定期的にありますが、そこから離れた場合にどうなってしまうのだろうと疑問に思うこともあります。作品を発表することが当たり前の環境ではないからこそ、制作を続けるためのサイクルやレールを自分の中で構築しているようなイメージです。


Q
最後に今後制作を制作する上で挑戦したいことはありますか?

様々な空間で展示をしたいと考えています。ホワイトキューブに限らず、あらゆる場所で展示することで人と人、ものとものを繋ぐなどの関係性について実験を繰り返しながら、様々な文脈からテキスタイルをどのように繋げていくかを考えたいですね。


インタビュアー : 佐藤星那

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