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山のさくら (神戸電鉄 #1)

2020年春、世界は一変した。旅に出ることができない時代が突然やってきた。移動の自由を誰もが享受できるようになり、思い立てばいつでも旅立てる前提がこんなに脆いものだとは思わなかった。

窓を開けて走るガラガラの電車を見ていると、怖くなった。当たり前の日常を失って、その愛おしさに気づかされる。何も起こらないことの大切さを毎日実感する日々だった。

神戸電鉄に限らず、乗客が激減しているのにすべての列車が時刻通りに運転を続けていた。それは、運行をストップすると何か取り返しのつかないことが起こると信じているかのようだった。

ソメイヨシノはとっくに散っていたが、山の桜はまだ残っている。自然の営みは何も変わらず続いていて、そのことが小さな救いだった。仕事の合間、車を降りて、マスクを外して深呼吸をしてみた。

photo : 神戸電鉄 五社~有馬口 2020.4                                                                           OLYMPUS OM-D E-M1Ⅱ M.ZUIKO D ED 12-100mmF4.0 IS PRO

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