どうせみんなやっているから自分もいいよね。
テレビのスペシャルドラマをきっかけに読んだ本。
誰でも日常の中でちょっぴり罪悪感を覚えつつもやってしまう行いってあると思います。
たとえば、本当は捨てちゃいけない場所なんだけど、ゴミがいっぱいになっているからそこに自分も捨ててしまうような。
片付ける人の事はほとんど考えないし、仮にそこが公共の場所だとしたら片付ける人がいるからいいんだろうと、仕事なんだし。税金払ってるし。
でも、もし自分が片付ける立場になったらやり場のない怒りに顔の見えない相手を恨みたくなるもの。
そう言えば、近所の自販機のゴミ箱もしょっちゅう缶の山であふれかえっている。
明らかにその自販機で売られていない名称の缶が投函口からはみ出している。
街中のコンビニのゴミ箱もどこかのカップ入りのコーヒーが投函口を塞いでいる。
果ては、投函口自体を持ち上げて、いろんなゴミがぎゅうぎゅうに詰められている。
この小説はそんな人々の何気ない行為が悲劇をもたらすお話。
主人公は新聞記者で多忙な毎日を送りつつも、二歳の幼児と奥さんの三人家族。
そんな絵に描いたような幸せな家族にある日悲劇が訪れます。
ある風の強い日、道路の脇に生えている大木がベビーカーを直撃し、幼児が亡くなるのです。しかも運悪く、渋滞に巻き込まれ、近くの病院には手が回らないと受け入れを拒否され、事件発生から2時間以上も経って遠くの病院に運び込まれるのです。
夭折した息子の悲しみにうちひしがれながらも、彼は責任の所在を追及しようと行動します。
普通に考えれば行政の管理体制が問われそうですが、樹木が倒れた理由は一筋縄では落ち着きません。やがて、様々な人々の悪意なき行為を起因としている事が判明していきます。
このお話のテーマは主人公のこんなつぶやきが全てです。
「みんな少しずつ身勝手で、だから少しずつしか責任はなくて、それで自分は悪くないと言い張る。俺は誰を責めていいか分からなくなってきた。世界中の人全てが敵で、全員が責任逃れをしている気がする」
でも、最後まで読めば、実は。
ドラマの方はむしろ主人公が開き直るような風にも見えましたが、それ以外は原作に忠実で一部の登場人物を省き、地味なシーンを見せ場に変えつつ、なかなか見応えがありました。
個人的には、この小説はドラマのように最初に悲劇的なシーンを持って来て、構成としては読者が主人公目線で事件を追求するうちに真相を知る方が好みでした。
というのも、特に小説では登場人物の内面が描かれるので、読者は先になぜその行為をするに至ったかという理由まで知る事になります。
後半、主人公が新聞記者らしく調査を始めるのですが、一見無関係な個々の行為になぜ?と疑念を抱いても、読者はすでに知っている事ばかりで面白みを感じられません。
もっとも、そんな事は百も承知でそういう構成にしたのだとは思いますが。
ただ、この小説は、もしかしたら自分の背徳的な行為がどこかで誰かに影響を及ぼすかもしれないという、地味だけどもチクリと蚊に刺されるような痛みを伴うお話として、読んだ後もずっと心に残り続ける秀作だと思います。
あの角から誰かが飛び出すかもしれないと思い始めると運転すらできないですが、少なくとも他人に迷惑をかけないよう心がけたいものです。
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