荷物を運ぶゲーム。

本日、深夜に放送された星野源さんのオールナイトニッポンには、あの小島秀夫さんが出演されました。1時間40分というほとんど2時間丸々に近い出演!

クールに見える小島さんは、話し出すと大阪のおじさんそのもののしゃべりで関西人の僕には親しみがありました。

さて、先日発売された「デスストランディング」とはどういうゲームなのでしょうか?

その前にゲーム好きの星野源さんが引き合いに出したのは、やっぱり「メタルギア」

そして、「ボクらの太陽」(残念ながら僕は未プレイ)

「メタルギア」については、人気シリーズであり、今や独立した小島さんの手を離れてしまったが、スパイとなって潜入しながら物語を進める硬派な設定、の中にくだらない小ネタ満載の小島節全開の作風が魅力のゲームだ。

一方「ボクらの太陽」とはゲームボーイアドバンスのカートリッジに太陽センサーを組み込み、太陽の光量によって遊び方が変わるらしい。

小島作品に一貫しているのは、遊びの提供である。しかも「新しい」遊びの提供である。

「メタルギア」という世界観に彩られた空間でプレイヤーは敵とのかくれんぼを楽しむ。警戒音が鳴った瞬間に生まれる「見つかったらヤバイ!」という緊張感は、たとえばロッカーの中に入る事で緩和される。

扉の隙間から見える限定された景色、安部公房の「箱男」さながらの段ボールをかぶる潜入行為。ベッドの下にはいつくばる面白さ。かくれんぼの楽しさを様々な仕掛けで思い出させてくれる。

小島さんが放送で語ったのは、デジタルゲームはコピー品でみんな同じものだから、プレイする人によって楽しめるエンタメを創りたいという事だった。

そこで「デスストランディング」の登場である。

「デス・ストランディング」という謎の現象によって、人々や都市は分断され、繋がりを失った人類は滅亡の危機にさらされている。主人公サム・ポーター・ブリッジズは、孤立し動くことができなくなった人々のために “未来”を運ぶ任務に赴く。

ところで、小島作品への批判としてよくあるのがムービーの多さだ。

ゲームのプレイ部分と一方的に見せられる映画的なムービーのバランスについて。

確かに「メタルギア」はシリーズを重ねる度にムービーの量が増えていった。小島イズムとでも呼ぶべきものがムービーを通じて語られるのだ。

「デスストランディング」もある意味ムービーの連続である。開始2時間くらいまではプレイヤーが自由に操作できる部分はかなり少ない。

しかし、プレイヤーが操作する場面になると映画は体験に変わる。

急な斜面やゴツゴツした岩肌を回避しながら、荷物のバランスを取るためにコントローラーを握る。ただ方向キーを押して進むゲームと違って、荷物は傷つくと評価が下がる。だからプレイヤーは神経を使いながらやっとの思いで険しい地形を抜け、目的地へ荷物を運ぶ。

荷物を運搬する時、プレイヤーは孤独である。

受け取り人の感謝をもらうためだけに一心不乱に目的地を目指す。

なぜ荷物を運ぶのか?

単調な作業から生まれる自問自答。しょせんはゲーム。嫌だったらやめればいい。現実の勉強や仕事に疲れてもなお苦行に近い作業をする必要があるのか?

そんな時、人の足跡を見かける。

それは「この先は危ないよ」という看板だったり、激流の川やクレパスに架けられた橋であったり、斜面を登るはしごであったりする。

ゆるいオンラインと称される誰かの間接的な痕跡を見て人の思いを想像する。別に励ます必要もないのに、後からやって来るであろうまだ見ぬ後輩達への思いやり。途中で断念した誰かの荷物を拾って無念の気持ちを晴らす事もできる。

そうやって残した痕跡には「いいね」をつける事ができ、後からどのくらいの人に評価を受けたか知る事ができる。

小島さんは、そうしてゲームの中で受けた優しさを現実世界にどう活かすのかをプレイヤーの心に投げかける。人は誰かに優しくされると誰かに優しくしたくなる生き物だ。

これってnoteもそうだと僕は思う。noteを書く時、僕らは孤独だ。一人で書く作業を続けていると、何のために書くのか自問自答する時もある。自分のために、誰かのためにと書き始め、まとまらない文章を下書きに保存する時もあるだろう。

noteを始めた時は当たり前だけど、誰も読んではくれなかった。ネットの世界の片隅で僕は突然出現し、広い世界に放り出される。ぽつんと一人。

約二ヶ月を経た今は、ありがたい事にスマホを開くとものすごい数の通知サインが目に入る。「いいね」の代わりの「スキ」が様々なアイコンと共に並んでいる。

そうした痕跡をたどりながら僕も記事を読んで「スキ」を返し、時にはコメントをつける。そこに感じる人の優しさがこの世界を創る。そしてその温かい気持ちを現実世界の誰かに届ける。

放送を聞いたリスナーの中には受験生だけど「もう買います」とか、48時間やり続けて配達依存症になりUber Eatsに登録しましたなど、楽しいコメントがあふれかえった。

サム・ポーター・ブリッジズはこうして、人々に何かを運び、人と人との間にたくさんの橋を架けるのだ。

小島作品はプレイした者の心に何かを残す。彼はゲームという形を借りてこれからも我々にその何かを配達し続けるのだろう。

放送が気になった方は一週間限定ですが、radikoでどうぞ。

小島秀夫さんの紹介はこちらの記事で↓


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