見出し画像

ああ、なんということだ!!

彼には不思議な能力があった。

ある日、タンスの引き出しを開けると何かのタネが入っていた。少年だった彼は、それがサプリメントに似ていたので、試しに飲んでみた。すると、何だか力が湧いてきた。

それから、彼は引き出しを見ると人目を忍んで開ける癖がつき、たまにタネを見つけると飲んでみた。小学校も高学年になると彼はいつもリレーの最終走者に選ばれるほどに足が速く、また腕力も頭脳も平均よりはるかに優れていた。

高校生になると、容姿も良く、おしゃれさに磨きがかかり、周囲からは癒しの効果があるともてはやされた。

彼が人気のあったのは女性だけではなく、周囲の毒気を抜いたり、ムードメーカーでもあったので、退屈な授業でも眠気を吹き飛ばす冗談を合間に入れるなど、男子生徒や先生方からも評判が良かった。

一流大学にも合格し、数々の女性とも付き合い、学生時代を謳歌した。

やがて社会人になり数年が経つと、それまでの経験を基に起業した。しかし、若さには似合わないレベルの規模であったため、うまくは行かなかった。

学生時代、何事もとんとん拍子に進めてきた彼は挫折に弱かった。

それから彼は豹変した。転職を繰り返した挙句、スキルが高い彼は数々の悪事に身を染めるとこれまでが嘘のように成功した。ある時は金持ちの女性に近づき、結婚をほのめかし資金源を引っ張り、またある時はグループ単位で竜巻に巻き込むかのようにおいしい情報を拡散させ財を築いた。

ある日、遺体安置室で年配の刑事が新米に話していた。

「彼は人の情報を巧みに引き出し、飯の種にしていたそうだ。催眠療法という名目で女性にいたずらした事もあったし、とにかく口先から生まれたような男だったそうだよ。何でも彼のトークスキルに触れると電撃を受けたようにしびれて一種の麻痺状態に陥るんだそうだ。守備力を下げて、攻撃するのが得意なタイプだったようだな。さらにどんなにセキュリティの高い鍵も簡単に開けてしまう能力もあったらしい」

「世の中にはそんなに才能に溢れた人もいるもんなんですね」

「全くだ。その才能をいい方に活かせば人生も変わっていただろうに。警察の動きを察知すると、かつて住んでいた街を転々とし、都会の入り組んだ地下街でよく巻かれたそうだから、かなり土地勘もあるんだろうな。しかし、そんな彼も寄る年波には勝てず、ついにお縄を頂戴することになったわけだ。と言っても、もう彼から話を聞くことはできないが。彼には住居侵入罪、窃盗罪、脅迫罪、詐欺罪など多くの容疑がかけられている。子どもの頃は神童と呼ばれたそうだが、宝箱と同じで開けてみないと人生は分からないもんだな」

「本当ですね。才能の一つでも分けて欲しいくらいですよ」

「おっと、そろそろ時間だな。あとは任せよう」

二人が部屋を後にすると、入れ替わりに男が一人現れた。

神父は悲しげな表情で彼を見ると、こうつぶやいた。

「ああ、なんということだ!!あと少しで確実に蘇生する呪文を覚えることができたのに、惜しいものだ」

スキはログインしていなくても押せます!ワンちゃんでも押せるほど簡単です。励みになりますので、ここまで読んでくれた記念に押して下さい。いくつになっても勉強は楽しいものですね。サポート頂いたお金は本に使いますが、読んでもらっただけでも十分です。ありがとうございました。