ウルトラマンロザリス第三話「誓いの先に」

今からちょうど一万年前、光の国から遠く離れた地球という星は、再び怪獣や侵略者の脅威に曝されていた。地球人の笑顔が奪われそうになった時、遥か遠く、光の国から『彼』はやって来た。『ウルトラマンメビウス』と呼ばれる、若く頼もしいルーキーが。そして今、そのメビウスは、一人の若き勇者を鍛えあげていた。その名は…。

「ウルトラマンロザリス」。


 ハンターナイトツルギ。復讐の鎧を身に纏っていた頃のウルトラマンヒカリの姿。当時の彼は高次元捕食体ボガールへの復讐の為に戦っていた。今でこそ光の国で開発に勤しむ彼だが、その負の歴史が残したものは想像以上に大きかった…。

 ロザリスの同期・カナックは、過去の資料を漁っていた。訓練生の中でもトップクラスの成績を誇る彼だが、同時に向上心の塊でもあった。今よりもっと強くなりたい、という向上心だ。事実、彼の成績もその高い向上心がもたらしたものだと言っても過言ではない。そして今、彼は過去の偉人から強さの秘訣を学ぼうとしていた。だが…。

「何だよこれ…。たった一つの星の為にウルトラマンの使命を忘れて地球を破壊しそうになっただと…?あのウルトラマンヒカリが…。」

 カナックは絶望した。平和を守護するはずのウルトラ戦士が、それもベリアルのように悪を貫いた者とは違い、今は涼しい顔をして正義の為に活動しているウルトラマンにそんな過去があっただなんて…。

「何なんだよ…あの人、こんな過去を抱えてたっていうのかよ…?じゃあもしかして他のウルトラマンにもこんな歴史があるのか…?俺達が教えられてきた正義は…信じてきた正しさって…何だったんだ…?」

 カナックの手元から資料がすり抜けるように落ちる。

 -それが監視カメラに映った、カナックの最後の姿だったー


 カナックが姿を消した。カメラの映像があったので理由こそ判明しているが、何処へ消えてしまったのか…。それは誰にもわからなかった。カナック発見に向けて捜索隊が結成され、その中にはメビウスとロザリスの師弟の姿もあった。

 ロザリスは複雑な心情だった。これだけの多くの人員が捜索隊として遣わされている。これと同じ迷惑を、自分の時にもかけてしまっていて…。隊に入ることで、改めて当時の自分がした事の大きさを実感していた。


 宇宙を飛びながら捜索するメビウスとロザリス。探しながらも、ロザリスはずっと気まずかった。

(あの時の僕も、こんな風にみんなに迷惑かけてたんだなぁ…申し訳ない…。)

 ロザリスは沈黙を貫いた。集中して探している素振りを見せつつ、気まずさをごまかしていた。

「…気にしてる?」

 先に沈黙を破ったのはメビウス兄さんの方だった。ごまかしてたつもりが、完全にバレてたらしい…。

「実はあの時、捜索隊は出ていないんだ。僕一人で探したんだ。」

「…え?そうだったんですか?」

 不謹慎だが、それはそれで寂しいな…。誰も心配してくれなかっ…

「あの時、君がああなってしまった原因の一端は僕だった。だから僕一人で責任を持ちたかったんだ。捜索隊を組もうとした兄さん達を説得してね。」

「え…そこまでしてもらってたんですか…。」

「気にしなくていいんだ。今の君がこうして隣にいてくれるだけで、もう十分に借りは返してもらってるから!」

 そう言ってメビウス兄さんは優しく微笑んだ。ロザリスはそれを聞いて、色んな感情が渦巻き赤面してしまった。


 謎の暗闇。見知らぬ空間でカナックは目を覚ました。自分の信じてきた正義を疑い、光の国を飛び出した所までは覚えている。だが、途中で意識を失ったのか、どうやってこの空間へ来たのか記憶が無い。まさかブラックホールにでも飲み込まれたのか…。

「やあ、お目覚めかな?ウルトラマンカナック君。調子はいかがかな?」

 突然、何者かの声が聞こえた。やがて声のする方から、マゼンタの体をした鎧の巨人が現れた。こいつまさか、メビウス教官が遭遇した…。

「おっと、自己紹介が遅れたね。私の名はガリバー。君の心の声が、私を呼んでいたのでね。望みどおり現れてあげたよ。」

「…呼んでねぇ。それにお前は敵だろう?俺を使って何をするつもりだピンク野郎…。」

 カナックはガリバーに敵意を剥き出しにする。得体の知れない恐怖が彼を包んでいた。だがガリバーは、なおも余裕たっぷりに話し続ける。

「呼んでいたさ。『誰か本当の正義を教えてくれ』って思っていたろう?それを私なら教えてあげられる。だから現れたのだよ。それに、何も君を私の計画に巻き込もうなんて思ってないさ。私はあくまで君の味方だ…信頼しておくれよ、カナック君?」

「いきなりそんな胡散臭い事を言われても信用できるわけないだろ!大体、その『計画』って何のことだよ!それにな、俺は誰かの力を借りなくたって強くなれる!絆とか言って群れる奴がいるけどな、あんなもん自分一人の弱さを認めてるのと同じじゃねえか!けど俺はそうじゃねぇ!一人でも強くなる!テメェの協力なんていらねぇんだよ!」

 カナックはガリバーに吠える。だがガリバーはそれを聞いて大きくにやけ、一言呟いた。

「…合格♪」


 宇宙を翔ける青い一筋の光。白衣を変化させた白いマントを翻しながら、ウルトラマンヒカリも独自にカナックの行方を捜していた。自分の過去の過ちのせいで起きてしまった事だ。他のみんなに混ざるわけにはいかなかった。

「早く見つけなければ…これは俺の責任だ。俺の…『あの時』の責任…。しかも『また』俺のせいで…。これ以上、俺のせいで犠牲者を出したくない…。」

 ヒカリは焦っていた。もう二度も、自分のせいで誰かを闇に堕としたくはない。せめて、今度こそは自分で止めねば…。『前』は自分が原因になった挙句、何もできなかったから…。


 翔け続ける赤と青の光。メビウスとロザリスは、カナックの残した光の波動を探し続けていた。だが、まるでカナックの痕跡を見つけることが出来ず、捜査は難航していた。こうも手掛かりが見つけられないとなると、これは単なる失踪ではないのかもしれない。何者かの手によって失われたとしか考えられない…。二人は薄々そう感じ始めていた。

「ロザリス、一つ聞いていいかな?」

 突然、メビウス兄さんが尋ねる。突然の事に少し戸惑いつつも、ロザリスは頷いた。

「君が最初、あそこまで力に拘っていたのは何でなんだ?僕にはとても、単純に力を欲していただけには見えなかったんだ。『守りたい』って気持ちを失う程の、余程大きな理由があるのか?」

 ロザリスは少し考えこんだあと、ゆっくりと話し始める。

「…正直、僕自身にもわからないんです。周りの言う通り、父のように戦闘とは別の場所で働く道だってあります。けど、どうしても戦う力が欲しかったんです。何故か、どうしても戦わないといけない気がして…。何か、大切なものが抜け落ちてるような気がするんですよね…。」

「大切なもの?」

「はい。けどそれが何なのかはわからなくて…。安易かもしれませんが、これが『運命』ってやつなんでしょうか…。」

 メビウスはそれを聞いて、何かを察したように一瞬黙りこくる。彼の言う『抜け落ちているもの』。それは運命なんかじゃない。それは…僕の罪だ。

「メビウス兄さん?」

「…ロザリス。やっぱり君の事は、僕が見ていないとダメみたいだ。」

 メビウスはそれ以上は何も言わなかった。いや、正確には言えなかった。一生と言わずとも、彼にこの事を話すわけにはいかない。少なくとも、今の未成熟な彼には…。知らない方が幸せな事もある。そう自分に言い聞かせた。



 闇の異次元空間。カナックとガリバーの対話は続いていた。

「いいねぇ…やはり君は私の見立て通りの男だ。いい目をしている。」

 ガリバーはそう言って、カナックに語り始めた。

「私もね、絆って言葉を君と同じように感じていてね。そして、私は独りで模索したんだ。真の強さ、本当の正義、恒久の平和を。そして私はその答えを見つけた…さあ、それは何だと思う?」

「…何なんだよ。」

「フフッ。それはね、永遠の生命だよ。誰しもに命の終わりというものがある。だが、ひとつきりの命を終わらせるなんて勿体ないだろう?そこで私は力を手にした。死んだものすらも蘇らせる力をね…。そしていずれは全ての宇宙の命を永遠のものとする!…ハッハハ、どうだい、面白いだろう?」

 ガリバーは意気揚々と話す。カナックは聞き続ける。永遠の生命…。そんなものが存在すれば、確かに過去のウルトラマンの過ちはなかったかもしれない。この男の言う事こそ、本当の正義なのか…?

「だが、そうするとウルトラマン達の存在は邪魔になる。誰しもが生き続けられる世界を作ろうとしているのに、彼らは命を奪う事がさも正義かのように振舞い続けているだろう?私はそれを正すために光の国を滅ぼすことにしたんだよ…真の平和は、悪を滅ぼした先にしか無いからね…。」

 カナックはゆっくりと頷いた。今の自分の抱いている疑念。それをこの男なら晴らしてくれるかもしれない。そう感じ始めていた。だが…矛盾してる。


 一筋の青い光。ウルトラマンヒカリは、単身カナックの捜索を続けていた。だが、やはりそう簡単に見つけられる事もなく飛び続けていた。そして、良くも悪くも思いで深い惑星の近くまで来ていた。

「ここに来るのも随分と久しぶりだな…惑星アーブ。」

 惑星アーブ。かつてヒカリが心を通わせ、守ろうとした星。ボガールに滅ぼされて以降は一度しか訪れていないので、本当に久しぶりである。

 ヒカリは1万年振りにその地へ降り立った。かつての生命力に溢れた美しさはもうない。眠るように静かな星として、ただ宇宙を漂っていた。

「聞こえているか…アーブの民よ。私は…あなたのお陰で真の勇者になることができた。地球という遠く離れた青い星を守る為に、あなたが再び力を貸してくれたこと。改めて感謝する。」

 そう言ってヒカリは静かに目を閉じ、手を合わせた。もう二度と会えない、かつて愛した人に。

「…ん?」

 何かを感じる。目を閉じた事で感覚が研ぎ澄まされたのだろうか。明らかにこの星のものではない違和感を感じる。まさか…。

 ヒカリはナイトビームブレードを引き抜き、違和感の正体へ目掛けブレードショットを放った。すると、空中にも関わらず光刃が静止した。まるで、見えない何かに当たるように。ヒカリはさらに距離を詰め、直接ナイトブレードで斬り込んだ。


 ガリバーとカナックのいる空間・コンヴァージョンルームに亀裂が入る。

「どうやら外部からの侵入者か…。やれやれ、こんな死んだ星ならバレないと思ったのだが…行こうか、カナック君。」

「そうはさせるか!彼を返してもらうぞ!」

 逃げようとするガリバーを、空間に侵入したヒカリが制止した。

「既に捜索に出た全員にウルトラサインは送った!もうすぐここに戦士たちが集まる…お前はここで終わりだ!」

「これはこれは…大罪人さんではありませんか…!今回は正義の味方としてお出でになったのかな?」

 ガリバーは依然として余裕たっぷりにヒカリを煽る。

「黙れ!カナックを誘拐した貴様も十分に罪人だろう!」

「ならこの死んだ星はどう説明する?自分で守ると決めておきながら守れず、挙句の果てに憎しみのままに地球とかいう星をも傷つけた…。さらにそのせいで一人のウルトラマンが闇に堕ちた!そしてこのカナック君も今まさにそうなりかけていたというのに…。」

 ガリバーの語勢が強まる。あくまでも自分が正しいと主張しているようだ。だがヒカリも屈しない。

「確かにそれは私の一生の消えない罪だ…。それを否定はしない。だがな、だからこそこれ以上、トレギアのように私のせいで闇に染めさせはしない!カナックを返してもらうぞ!」

 ヒカリはナイトブレードでガリバーに斬りかかった。


「ロザリス!あれは!」

「はい!ヒカリ先生のウルトラサインですね!」

 ヒカリが送ったウルトラサイン。それがメビウスとロザリスの元にも届いた。『惑星アーブにて謎の空間を発見。応援を求む。』というメッセージだ。

「急ごう!ここからそう遠くない!」

「はい!でも、『謎の空間』ってもしかして…。」

「あぁ…きっとガリバーの仕業だろう。早くしないとヒカリが危ない…。」


 二人はトゥインクルウェイで惑星アーブへワープした。遠目に見ると、ヒカリのナイトビームブレードの光が飛び交っているのが見える。もう既に交戦中のようだ。

「ヒカリ!僕だ!」

 メビウス兄さんが先に飛び出す。

「あっ、待ってください!」

 それに反応してロザリスも追いかけた。近づくにつれて敵の姿がはっきり見えるようになっていく。だがその姿はガリバーではなく、宇宙大怪獣ベムスターの姿だった。

「ヒカリ、ガリバーは!?」

「すまない、カナックを取り戻すのが精いっぱいで逃げられた…。ここは私に任せて、二人で奴を追え!」

「ああ、任せろ!」

 メビウスはヒカリに言われるや否や、再び宙へ飛んだ。そしてロザリスもまた、それに合わせて飛び立つ。


「…これで良かったんだな?」

 ヒカリが問いかける。

「あぁ、ご苦労だった。彼らに居られたら面倒なのでね。」

 そう答えたのは、ここには居ないはずのガリバー本人だった。岩陰から姿を現した彼は満足そうな表情を浮かべる。

「彼を返す条件。私との一対一の勝負だと言ったな。本当に私が勝てばカナックを返してくれるんだろうな?」

「あぁ、勿論だとも。約束は守るのが私の主義でね。」

 ヒカリの問いかけにガリバーが答える。あの師弟が来るまでの間、二人で決めたルールだった。そして二人を欺くために、過去にこの地で倒したベムスターを復活させ、戦わせていたのだ。

「じゃあ…戦闘開始と行きますか。」

 ガリバーはベムスターを下がらせ、ヒカリを指で挑発する。ヒカリはそれに敢えて乗り、間合いを一気に詰めて斬りかかった。だがガリバーはそれを悠々と避ける。一振り、二振り、三振りとヒカリは斬り続けるが、ガリバーは敢えて攻撃させているかのように攻撃を全て受け流し続ける。

「貴様、どういうつもりだ…何故攻撃してこない!」

 ヒカリはブレードを真っ直ぐ突き立てながら問いかけた。

「私は貴方達のように暴力で解決するやり方は好まなくてね…貴方が消耗しきるのを待っているのだよ。決して傷つけることなく、私はカナック君をいただく。どうだい、平和的でいいだろう?」

 ヒカリは焦っていた。元々戦士ではない故、長期戦には向かない。あの戦法を貫かれたら明らかに不利だ。そっちがそういう事ならば…。

 ヒカリは構えていた右手を降ろし、ブレードを消失させた。

「…何のつもりだ?」

 拍子抜けしたようにガリバーが問う。冷静なブルー族の彼とはいえ、一度感情的になれば止まることなく戦い続けると思ったのだが…。

「戦う意思のないお前と戦う義理はない。…その代わり、カナックだけは返してもらう!」

「何?」

「後ろだガリバー!」

 背中の方からそう聞こえた。振り返るとそこには、こちらへ猛スピードで向かってくる二人が見えた。ここには居ないはずの、師弟の姿だ。

「貴様…!確かに失せたはz…」

「セャァッ!!」

 言い切る前にメビウスがガリバーを押さえ込み、その隙にロザリスがカナックを連れ去り、ヒカリの後方の岩陰に隠れた。

「何故だ…。ヒカリ貴様…!約束はどうした!」

 倒れ伏しながら、ガリバーが問いかける。

「守るつもりだったさ。だが、お前のような曲者がまともに相手になると思わなくてな…。貴様は約束こそ守ったかもしれないが、やり口が汚い。以前メビウスから聞いた話から考えて、お前が何かすると踏んでいたのだ。そこで、俺はメビウスに目で訴えておいたのさ。」

 ヒカリはそう言って、ガリバーに近寄る。

「あの時、ヒカリが嘘を言っているのが目を見てわかった。これは僕らを、理由があって欺いている時の目だと。だから僕達はここから離れるフリをして、遠くから勝機を伺っていたんだ!」

 続けてメビウスもそう語った。そのメビウスに押さえられるガリバーは愕然としていた。

「バカな…何故言葉も交わさず意思疎通できている!?」

「フッ…愚問だな。俺達の仲だからだ!」

 ヒカリがそう強く答えた。

「貴様ら寄ってたかって卑怯だぞ…それでも貴様らはウルトラマンか?」

 その問いに、まるでガリバーを煽るかのように、ニヤッと微笑みながら答えた。

「悪いなぁ。俺は…大罪人だ。」



「カナック、大丈夫か?」

 三人の後ろで、ロザリスはカナックに話しかけた。どうやら生きてはいるようだが、何故か不審な程に静かだ。

「なぁロザリス…お前はいいよな…光に選ばれて、崇高な師匠までいて…。俺にはもう、信じられる正義も、何もない…。」

 カナックはそう言って肩を落とす。自分を誘おうとするガリバーの正義と、元々信じてきたウルトラ戦士の正義。そのどちらを信じればいいのか、カナックは揺れ動いていた。

「バカヤロー…。お前が言ったんじゃないか。『自分の好きなようにしてりゃいい』って。だったらお前も、自分の信じたものを貫けよ!『ブルー族』の僕でも、自分のなりたい姿に近づけてる!お前だって、最初に信じてた正義があるんだろ!?ならそれを貫けばいいだろ!レッド族がナヨナヨしてんじゃねぇ!」

 ロザリスは思いの全てをカナックにぶつけた。だがカナックは、それを聞いてもなお悩んでいる様子だった。


「ロザリス、危ない!」

 メビウス兄さんの声が聞こえた。それに反応しそちらへ振り返るが、それより先にエネルギー波を食らい吹っ飛ばされてしまった。ガリバーのものか…。

「よくもロザリスを!」

「どうやらカナック君をこちらへ向かい入れるにはまだ早かったらしい…。また来るよ…。」

 そういってガリバーは例の空間を発生させて移動し、メビウスの拘束から逃れる。空中へ移動したガリバーは、両手からエネルギーを地面に放出した。

「さすがに何もせず帰るには無様過ぎるな…。せいぜい過去の亡霊に苦しむがいい…ウルトラマンヒカリ!ダークネス…ライフ・コンヴァージョン!」

 その声に呼応するように、地面から妖しい光が浮かび上がる。そこから二体の何かが現れる…。

「ハッハハハ!私が苦しんだ分の借りは返させてもらうよ!あっはははは…。」

 そう言い残し、ガリバーは異空間へ逃げてしまった。

「待てガリバー!」

 ヒカリはナイトブレードを素早く引き抜き、ブレードショットを放つ。だが、もう既にどこかへワープしたらしく、光刃はどこかへ飛んで行ってしまった。

「ヒカリ…これは…!」

 メビウスが驚き、ヒカリに呼びかける。ヒカリがその地面を見直すと、そこには…。

「ボガール…!それに…お前は…。」

 高次元捕食体ボガール。かつてメビウスと二人でやっと倒した強敵だ。そしてその隣にいたのは…ツルギだった。否、正確にはツルギを象ったアーブの民の怨念の集合体…かつてヒカリがその身に宿していた鎧そのものだった。


 メビウスとヒカリは戦闘態勢に入る。相手とは二対二。睨み合いが続く中、ヒカリはメビウスにそっと告げた。

「メビウス…できることなら、俺は両方と戦いたい。だがな…ここはツルギとやらせてくれ。奴は俺自身の罪…そのものだ。自分の手でもう一度清算させてくれ。」

 それを聞いたメビウスは静かに頷いた。

 ボガールの咆哮を合図に、全員が走り出し、同時に赤と白のマントが宙を舞った。


 メビウスは勢いそのままにボガールにタックルを仕掛ける。だがその体躯の丈夫さを持って、その威力を打ち消す。さらに背中の被膜を広げてメビウスを飲み込もうとしてきた。

「まずい…ハッ!」

 メビウスは素早く後退し、捕食されそうになるのをギリギリで避けた。やはり至近距離は危ない…と危惧しつつ、一瞬前に走り出し、助走をつけて上へ飛ぶ。そしてボガールの頭を飛び越える瞬間に後ろ蹴りを一発決めた。

 重めの一発を食らったボガールは前によろめく。ボガールの背後へ回ったメビウスは後ろからボガールの体を両腕で締め付ける。そしてそのまま後方へ投げ捨てた。

 倒れたボガールは意識が朦朧としたのか、立ち上がるまでに時間がかかっている。メビウスはこれをチャンスと、左腕のメビウスブレスに右手をかざし、ブレス中央のクリスタルサークルを回転させながら両手を真横に開き、エネルギーを放出させた。そしてその放出したエネルギーを収束させるように両手を頭上に集め、エネルギーに∞字を描かせる。

「ゼァァァーーーーーー!」

 メビウスは掛け声と共に両手を十字に組み直し、必殺のメビュームシュートを放った。黄金の光が真っ直ぐボガールに命中し、立ち上がりかけていた体を地面に引き戻した。


「やっぱかっけぇ…。」

 岩陰からメビウスの戦いを見ていたロザリスは声を漏らした。本当はあそこに入って一緒に戦いたいのが本音だが、今はカナックを守り抜くことが先決だ。今の自分の任務を果たせ…そう自分に言い聞かせた。

「ロザリス、おいロザリス!」

 カナックの声。ハッと我に返ると、こちらにブレードショットが飛んできていた。

「やばい、避けるぞ!」

 そう言うカナックだが、岩の窪みの部分に隠れてしまったため横にも後ろにも動けない。前に出ようにも、二人が出てくるまでの時間は足りない。仮に前にいる自分が逃げられてもカナックは避けられない…。

「…そこ動くな。」

 ロザリスはそう呟き、両手を広げブレードショットをその身一つで受け止めた。光刃の色からして、恐らくツルギの方のものだろう。偽物…というより、ツルギを再現した鎧だけだからなのか、ダメージはそう重くない。…と言いたいところだが、そうも言い切れなさそうだ…。

「お前…自分だけなら避けられただろう?!なんでわざわざ当たりに行ったんだよ!」

 カナックが声を上げる。ロザリスは苦しそうに、だがそれを隠すかのように静かに言った。

「…ウルトラマンだからさ。」


 ヒカリはツルギが放ったブレードショットをかわし、再びナイトビームブレードで斬りかかる。金色と紫の光刃が交わり合いを繰り返し、お互いに互角の斬り返しが続く。

「このままでは埒が明かないな…。だが…これを越えねば、私がここにいる意味がない!」

 そう言い、さらに猛攻を仕掛ける。

「ヒカリ!僕も行きます!」

 ボガールを倒したメビウスが加勢しようとする。

「待て!これは俺の…俺自身との闘いだ!お前達は絶対に手を出すな!」

 ヒカリはメビウスを制止し、あくまで独りの戦いに拘った。


「何でだよ…どいつもこいつも合理的じゃねぇよ…。手を借りれば早く倒せるだろ?何であんな真似してんだよ…。」

 戦いを見つめるカナックが言った。確かにその通りではある。ツルギは、言わば過去の自分自身を鏡に映した姿。戦い方も戦闘力も、限りなく等しい相手だ。普通なら勝てるとは思えない相手なのは確かだ…。

「…これはメビウス兄さんから聞いた話だ。」

 カナックの言葉に、ロザリスが返す。そして剣撃音が響く中話し始めた。

「ヒカリ先生…いや、ヒカリ兄さんはな。確かにお前が知ったように、過去の業を背負ってる。決して消えない罪を。でもだからこそ、その罪と向かい合い続けてるらしいんだ。今も、変わらずにずっと。確かにその出来事はウルトラマンらしくないけどな…きっと、その分を取り返したくて、警備隊と技術局を兼任してるんだと思う。」

 ロザリスはゆっくり語ったが、カナックはそれを聞いてもなお釈然としていない様子だった。

「でもよ…俺が信じた正義は完璧だと思ってた。揺ぎ無い絶対的なものだって。そしてそれを遂行するのがウルトラマンだって。でも…。」

「ウルトラマンは、決して神ではない。どんなに頑張ろうと、救えない命や、届かない思いだってある。」

 そう言ったのは、メビウス兄さんだった。マントを羽織りなおしながら、彼は話し続けた。

「かつて、兄さんから聞いた言葉だ。悔しいけど、ウルトラマンだって完璧じゃない。救えない命、勝てない強敵…。それに出会ってしまうのも現実なんだ。僕だってそうだった。」

 メビウス兄さんはそう言ってカナックに聞かせた。カナックは驚いている。普段は教官として威厳を放っている彼からそんな言葉が出るなんて…。当時の姿を見ていない、今のメビウス教官しか知らないカナックからすれば意外な言葉だった。

「でもだからこそ、その穴を埋めるためのもの…それが『絆』なんだ。一人だけじゃ誰だって完璧にはなれない。言い訳みたいに聞こえるかもしれないけど、紛れもない真実なんだ。支え合う仲間、頼れる相手、信じられる大切な人…そういう人達がいて初めて、人は自分の限界を超えられるんじゃないかな?」

 カナックはゆっくりと、そして小さく頷く。彼の中で何かが解け始めていた。ずっと心を巣食っていたわだかまりが溶けていくような感じがし始めていた。


(メビウス…そうだ…確かにお前の言う通りだ。)

 メビウスの言葉が、戦い続けているヒカリにも届いていた。

「…かつての私も、たった独りでボガールを倒す事に執着していた…。だがその所為で私は様々な物を失ってしまった…。ウルトラマンとしての正義を、心を…。」

 ヒカリは尚もツルギとの剣術戦を繰り広げる。

「だが、お前が…いや、お前達が俺を変えてくれた…!こんな俺にも手を貸してくれた…共に戦ってくれた…!そして俺を認めてくれた!『ウルトラマン』だと!」

 一瞬、ヒカリの剣撃がツルギのブレードを弾いたかに見えた。

「そして…信じてくれた!俺の中に眠る者の光を!俺の中の『彼』の心を!ウルトラマンとして以上に…俺を信じてくれた男がいた!こんな俺を…『憧れ』だと言ってくれた男が!」

 斬り合う2本のナイトブレード。その流れが変わり始めた。ヒカリの剣撃が確実にツルギを圧倒し始めた。

「メビウス…いや、ミライ!そして…リュウ!俺を…ウルトラマンにしてくれた事を…!俺に心を取り戻させてくれた事を!心より感謝する!!!」

 その言葉と共に、ヒカリはツルギのナイトブレードをへし折った。そしてその勢いに押され、たじろいだ。


「マジかよ…同じスペックのはずなのに…?」

 カナックは驚いた。先程まで揺るぎなく全くの互角だったはずなのに、ヒカリ先生は逆転した…。これが絆の力とでも言うのか…?

「見届けよう。ヒカリの覚悟を。彼の心を。」

 メビウス教官は2人に呟いた。


 ヒカリは両腕をクロスし、エネルギーを凝縮する。そしてその両腕を前に突き出し、光線を撃ち出した。

「これで終わりだ…復讐の鎧よ!」

 そう言ってヒカリは、ホットロードシュートをツルギに向けて放った。体勢を崩していたツルギは、避ける間も無くそれを食らい、粉々に砕け散った。


「勝った…。本当に勝った…。」

 カナックは、まるで信じられないものを見るような目でその光景を見ていた。先程まであんなに苦戦していたのに…。

「僕も驚いた…。普段のクールで物静かな白衣姿しか見てなかったから…。あんなに熱い人だったんだな…。これがギャップ萌えってやつか…。」

 ロザリスも驚いていた。実際、ヒカリが表立って戦うことは滅多にない。ラボで研究に従事しているイメージが浸透していた。それだけに、この戦いはこの時代ではかなり貴重なものとなっていた。


「…ん?」

 メビウス達の元へ歩いて行こうとしたヒカリが再びツルギの方へ振り向く。すると、まるで悪霊のように先程の怨念の集合体が浮かび上がった。そして実体を求めるように動き出し、何かに憑依した。

「まさか…ボガールに再び取り憑くつもりか!」

「そんな!でもどうして!?」

「恐らく…怨念の力が強すぎて、ガリバーの闇の力を除去するのが精一杯だったんだ…。やはり俺の罪はそう簡単に清算できるほど容易いものではないらしいな…。」

 ヒカリとメビウスは焦ったようにそう言った。


 さらにそれと同時に、何かがロザリス達の元へ飛んでくる。近づくに連れ、その姿を段々と捉えられるようになっていく。」

「あっ…ベムスター!そうだ、ずっと放置したままだったのか!」

 さっきと同じように避ける時間は無い。受け止めるか、それとも…。

「ロザリス、これで借りはチャラだからな。」

 そう言ってカナックはロザリスを岩の窪みから蹴り出した。

「お…お前なにすんだよ!」

「うるせえ!一人じゃ越えられない壁でも二人なら越えられるんだろ?!とっとと合体光線撃つぞ!」

 そういうことか…!ロザリスは岩に背中を固定し、クロスした両腕を横に開いてエネルギーを開放し、それを十字に組みなおす。カナックも握り拳を胸の前で合わせてエネルギーを溜め、それをL字に組みなおした。

「ロザリウム光線ッッッッッ!」

「カナクシウムショットォォォォォ!」

 二人の同時攻撃を頭から受けたベムスターは、飛行体勢を変えて腹から光線を吸収する暇もなくモロに攻撃を食らい、あっけなく爆散した。

 その間に倒れたボガールの体にアーブの怨念が乗り移り、さらにボガールを強化状態であるボガールモンスへと変異させた。そこにはもはやボガールの意思もアーブの意思も無い。ただ実体を持っているだけの、マイナスエネルギーの塊が蠢いていた。


「ヒカリ…もう一度力を貸してくれ!」

 メビウスがマントを降ろしながらヒカリに告げる。

「いや…ここは俺『一人』で行かせてくれ。」

「そんな!でも君ひとりでは!」

「さっきも言っただろう。俺はもう…『独り』ではない!」

 そう言ってヒカリは、天に手をかざした。すると、惑星アーブの大地が輝きを取り戻し、青い光がヒカリを包み込んでいく。まるで、その光でアーブと一つになるかのように…。

 …そしてその光が収まった時、そこには一人の銀色の騎士が立っていた。

「あれは…まさかヒカリ先生か?」

 カナックが驚いたように呟く。

「『天空より舞い降りし勇者、光の鎧を纏いてアーブの大地と一つにならん』…。授業で聞いた事がある…。まさか彼が…!」

 続いてロザリスも呟いた。

「そう…彼がツルギ。ハンターナイト…ウルトラマン、ツルギ。」

 全てを察したようにメビウス兄さんが言った。そうか…あの時と同じだ。あの時と同じ勇者の鎧を、再び纏っているんだ…。

「私の罪を呪わば呪え。それが私の宿命なら、甘んじて受け入れよう…。だがな、その度に私は戦い続ける!例えそれが、何百回と続こうと!」

 そう言ってヒカリ…いや勇者ツルギは右腕を天にかざし、エネルギーを溜める。そして胸の前でそれをスパークさせるように左手を添え、そしてその手を返し十字に組みなおした。そこから放たれた虹色の光線はボガールモンスに命中する。だがボガールもそう簡単に倒せる相手ではない…なおも耐久し続けていた。

「ボガール!これ以上…この星で貴様の好きにはさせないぞ!もう…二度と…!」

 ツルギはさらにナイトシュートの威力を増大させる。増大し続けるその威力についに耐えきれなくなったボガールモンスの肉体は、跡形もなく消し飛んだ。そしてその中を巣食っていた怨念のエネルギー体も、まるで浄化させられるように消えていった。まるでツルギを、その罪から解き放つかのように…。



 その後4人は無事をウルトラサインで報告し、光の国への帰路へとついていた。ヒカリ兄さんはいつもの姿に戻り、いつもの物静かさを見せていた。だが、きっとこれからもあの鎧はヒカリ兄さんに力を貸してくれるはずだ…ロザリスはそう信じた。

「なあ…ロザリス。」

「なんだ?急に。」

カナックがロザリスに話し始める。

「お前さ…その…。今までは陰気臭い奴だって思ってたけど…案外強いしキラキラしてんじゃん。」

「何だよ…まぁ、僕もお前の事を体の色の事をいじってきたり、自分の強さを鼻にかけてるように見えて正直嫌いだったけど…。意外と真摯でストイックだったんだな。」

「え…俺嫌われてたの!?全く自覚無かった…。ただ自分に自信が無いから強がってはいたけど…。」

「お前自覚無かったのかよ!w それと、もう体の色の話もやめてくれよな。僕結構傷ついてたんだから…。」

「わりぃ…。思ったことが先走っちゃって言葉になっちゃうことが多くて…。てか、だったらお前もわざわざ『嫌い』とまで言わなくていいだろ!」

 ロザリスとカナックは口喧嘩を始めた。だが同時に、初めて腹を割って話し合えた瞬間でもあった。メビウスとヒカリは、静かにそれを微笑ましい目で見つめていた。少しずつだが、心を通わせ始めたロザリスとカナック。この二人が本当の友情を築いていけるのか…それはまた、もう少しミライのお話。




おまけ・ロザリスナビゲーション「ロザナビ」

・ガリバー…ウルトラマンの滅亡を目論む、謎の巨人!彼の操るダークネス・ライフ・コンヴァージョンには、死んだ者の命を蘇らせる力があるぞ!

*年齢…不明

*身長50メートル、体重37000トン

*飛行速度…不明

*体色はマゼンタであり、カナックの言った『ピンク野郎』は厳密に言えば間違い。


 














この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?