~曲分析~『僕のこと』Mrs.GREENAPPLE
4回目はMrs.GREENAPPLEの『僕のこと』
いきなりだが、この曲はかなり特殊だ。
理由はサビが2つあること。
一般的な曲はAメロ→Bメロ→サビを1パターンとしているが、
この曲ではAメロ→サビ1→サビ2のような構成になっている。
まるでRPGゲームでボス(サビ)を倒したら、裏ボス(サビ2)が出てくるような感じだ。
どうしてこのような構成にしたのか?
どういう意図でこの曲が作られているのか。
分析することで明らかにしていこう。
原曲⇓
①曲の基本構成
キーはG。(キーはその曲の雰囲気を決めるもの、くらいに捉えて欲しい)
Gとはソ・ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ#・ソの音を使っているという意味だ。
基本はこの音を使って曲ができている。
ただ曲の中で一度転調があるのでそこで雰囲気が変わる。(後程解説)
構成としては、Aメロ→Aメロ→サビ①→サビ②
あれ?サビが2つある。。
そしてBメロがない。。
一つ目のサビ(以下サビ①)は「ha~ha~~~なんて、素敵な日だ~ /省略/ ~狭い広い世界で僕らは唄う」まで。※動画の50秒から
ここで一度終わったと思いきや、「僕らは~知っている~♪~省略」とさらに新たなサビが始まっている。(サビ②)
サビ①で既にかなりの高音域を裏声と地声を行ったり来たりしながら歌い上げているが、
2回目のサビはさらに音域が高くなり、ほとんどの男性が裏声でしかでない、もしくは裏声も出ないような超絶ハイトーンの領域で勝負している。
中でも曲の1分31秒の「治りきらない傷も~~」の"も"がG5(高いソの音)というとてつもなく高い音で、ここがこの曲の最高音である。
つまりこのG5の音が一番盛り上がる部分、ピークとなる点なのでそこを迎えるまでに曲のテンションを最高潮にもっていかなくてはいけない。
なぜなら、普通のPOPで使われることのないような超高音域のため、この音が登場するのは曲がめちゃくちゃ盛り上がっていなくては不自然だからだ。
これがサビが2つある理由となる。(と僕は解釈している)
もし、普通の曲のようにAメロ→Bメロ→サビとした場合、盛り上がりが足りず、サビでG5が来たときに唐突さ、不自然さを感じてしまうだろう。
しかし、この曲は先にサビ①があるため曲の盛り上がりを早めに最高潮にもっていくことができ、サビ②でさらに高い音域で限界を超えていくからこそ、最高音のG5が綺麗に聞こえ、その瞬間に美しい曲が完成するのだ。
要するに、この曲のピークとなる点を超高音のG5のとまず決めた。するとその前にもう一つサビが欲しいなとなり、さらにその前にBメロがあると長ったらしくなるので無くし、Aメロ→サビ①→サビ②という構成で行こう、となったと推測できる。
全てはサビ②のG5で最高潮を迎えるための計画的犯行(曲作り)だ。
Aメロがとても静かに入るのも、サビで伸びしろを作るための布石だろう。G5の音を全く予感させない低めの音での歌いだし。完璧すぎる。。
まとめると、この曲の最高音のG5を活かすためには、曲を早めに盛り上げる必要があり、サビを2つ用意した。サビが2つあると尺の関係でBメロを外すのが適切だった。そして、Aメロ→サビ①→サビ②が完成。
②コード進行
ここでは特徴的なコード(和音)についてのみ注目する。
冒頭からノンダイアトニックコードがたくさん出てくる。
ノンダイアトニックコードについてまずは簡単に説明する。
ノンダイアトニックコードとは料理でいうスパイスだと思ってほしい。
カレーで例えると、肉、じゃがいも、玉ねぎ、にんじん等は基本的なコード、つまり一般的な材料で味の核となるもの。(あくまで家庭用のカレーをイメージして!)
しかし、そこにチョコレートやはちみつ、唐辛子などを加えることを考えてみよう。これは隠し味やスパイスとなるものだ。曲においてノンダイアトニックコードはこのような役割を持つ。
つまり、基本的な材料(コード進行)の中に、スパイス(ノンダイアトニックコード)が混ぜられていることによって、通常よりも風味やコクが増す。(曲がお洒落になったり、切なくなる。)
言い換えればこの曲にはスパイスや隠し味がいくつも仕掛けられていてところどころで切なくなったり、お洒落だなあと思うポイントがあるということ。
まずは冒頭の「僕と君と~では」の進行。ここにスパイスがある。
普通なら上記のようなコード進行になりそうなところをこの曲では下の進行にしている。
この違いはなんとなく分かるかな、下のほうが、上よりもお洒落感がある。
そして「でもね、僕はなにかに~」のでもねの部分。ここにもスパイスがある。
"でもね"の部分でなんとなく切ない感じがしたら正解。ここにスパイス(ノンダイアトニックコード)が入れてあります。
しかもここ、急にメロディーの音が高くなるのでその高低差とも相まって切なさが倍増しているように感じます。
そしてサビ①を過ぎ、サビ②の「治りきらない傷も~~」の"も~"に注目!!
ここにも実はスパイスが使われている!前述したとおりここが盛り上がりのピーク。そこにお洒落なコードを含ませているとは抜かりがない!!
もちろん普通のコードでも盛り上がるけど、そこに少し切なさを加えたいという意図だろう。スパイスを加えると少し複雑な響きになるため、ここの部分はとても耳に残る。
そして1番のラスト「今日という僕のこと~~」の最後の"と~"の部分。
ここ、なんか急にもの悲しいような雰囲気になっている。
でもエモーショナルな感じもある。
そう、ここにも隠し味が入っています。
ここは今までのスパイスと違って暗め(マイナー)で奥底が深い響きになっている。
サビの終わりにもってくることで間奏のマーチング感も引き立ち、素晴らしい役割を果たしている。
③リズム感について
この曲は最初がアコギのストロークのみ、という静かな入り。
Aメロの繰り返しからはドラムやベースが入り、テンポが出てくる。
中でも注目してもらいたいのは「がむしゃらに生~きてっ」の"てっ"の部分。ここでドラムやギターを完全にカットし、無音状態を作っている。
ここのカットが絶妙に心地よく、聴き手に「ここからリズム感が変わるから、ついてきてね」と教えてくれてるよう。
実際、ここからは最初のAメロよりもしっかりビートを刻んで曲に入っていくようになっている。
何気ないように見えるけれど、あそこをカットするのか普通にリズムを刻むのかは大きな違い。
全体のリズム感について
Aメロは途中からドラムが「ドッツカッツ」「ドッツカッツ」という馴染み深い8ビートになる。この8ビートは一番基本のリズムといってもよいだろう。サビ②でもこのリズム。
しかし、サビ①では「ダッダダダダッダダダダッダッダッダッ」のような連打が増え、まるでマーチングバンドのような盛り上がりになる。
このリズムによって壮大なスケール感が生まれている。普通にビートを刻んでいたらこの感じはでていなかっただろう。
また一番の終わりと最後のサビの終わりからの間奏では「ダッダッダッダッダッダッダッダッ」という同じリズムでだんだんクレッシェンド(徐々に強くなる)するリズムを使っている。これにより物語が始まる雰囲気、これから世界が開けていくようなイメージを想起させる。
④曲の流れについて
この曲はAメロ→サビ①→サビ② 間奏
2番 Aメロ→サビ①
Cメロ→サビ②→サビ①→サビ②の最後の部分
間奏→Aメロ という構成。
まずは、Aメロで終わってAメロで終わるという構成が少し珍しい。サビで終わる曲が多いが、Aメロで終わることでドカーンと盛り上がってではなく、しっとり着地した印象になる。また、Aメロが静かに入る曲のため、最初に戻ることでまた帰ってきたという安心感や懐かしさも生まれている。
次にサビ①→サビ②という順番が、後半はサビ②→サビ①と逆になり、サビ①の最後にサビ②の最後の部分をくっつけるという荒業を使っている。
普通に考えてこんな曲はそうそうないはずだ。サビが2つある時点で珍しいのだが、その順序を入れ替えたり、最後だけ交換したりと発想が柔軟でなきゃできない。しかし、このサビの入れ替えにより聴き手は新鮮な感じを受け、曲を飽きさせないようになっている。ただ、最後のサビの「もがいている~/すべて僕のこと今日という僕のこと」という部分はスラッシュの前がサビ①で後がサビ②のラストなので無理やりくっつけた感も少しある。
実際、スラッシュの部分で急に"時を飛ばしたような感じ"になっている。ただ、逆に言えば多少の違和感を感じさせてでも、「すべて僕のこと、今日という僕のこと」というフレーズを入れたかったということだろう。
タイトルが『僕のこと』とあるようにミセスが一番伝えたいメッセージだということだ。
個人的感想
この曲を初めて聴いたときにあまりの壮大なスケール感に圧倒されたのを覚えている。高校サッカー選手権のテーマ曲として書き下ろされたものだが、若い世代だけでなく、”僕のこと”、つまり一人一人に寄り添い、勇気を与えてくれる大きな曲だと思う。
本当にMrs.GREENAPPLEというバンドのパワーを感じる一曲で、聴いた後はまるでおなかが一杯になるくらいの量と質をフルに受け止める感覚になる。
そしてやはり、分析する過程でスパイスを聴かせていたり、リズムを変化させて雰囲気を変える工夫をしていたり、転調を挟んで空気を変えてみたりと仕掛けがたくさん含まれていた。
中でも、サビを2つ用意して、1つ目を助走に使うような曲はなかなか見つからないだろう。もちろん個人的解釈ではあるが、サビ②のG5という超高音を響かせるための構成が素晴らしいと思う。これだけ壮大な曲を完成させてくれたことに感謝しかない。
長いのに最後まで読んでくれてありがとうございます。
Mrs.GREENAPPLEの『僕のこと』是非、聴いてみてください。
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