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武器よさらば・ヘミングウェイのウンチク

『武器よさらば』、このタイトルを聞いて多くの人は、反戦を描いた小説と思う人がいるが、じつは違う。舞台は第一次世界大戦のイタリア戦線。病院で働く看護婦と負傷兵のロマンスを描いた作品だ。

アメリカの作家ヘミングウェイ(1899‐1961)はイリノイ州で医者の息子として生まれた。裕福な家だったのだが、大学へは進まず、カンザスシティの『スター』という新聞の記者となり、文筆生活に入る。

第一次世界大戦後の1920年代、若者はロマンと信仰を失い、享楽的な日々を送るようになり、その自堕落な世代は「失われた世代」と呼ばれることになる。この世代に属する作家としては、スコット・フィッツジェラルドが有名だが、ヘミングウェイもその一人で、彼の『日はまた昇る』は、「失われた世代」の若い芸術家たちの当時の状況を鮮やかに描いた名作だ。

ヘミングウェイにとって、もう一つ欠かせない重要なポジションが、「ハードボイルド」の元祖ということ。ヘミングウェイの著作目録を見ればわかるが、推理小説というジャンルはない。ハードボイルドという文体を生み出したということがヘミングウェイの功績の一つだ。

そもそもハードボイルドは、一人称の視点でつづりながらも、くどくどと内面を語ったりせず、会話と人物の行動だけを描くという文体だ。

『武器よさらば』も実は主人公の一人称で書かれているのだが、その圧巻はラストの部分。恋人が死ぬ直前、「ぼくは紙に死なせないでくださいと祈った」とあるだけ。悲しいなどの感情的表現は、一切書かれていないわけだ。そして恋人の看護婦の最期のときがくるが、その時の会話を淡々とつづり、「息をひきとるまでそれほど長くはかからなかった」と突き放すように終わる。

ここに、ハードボイルド文体が誕生し、同時にハードボイルド的生き方という新しい「男のかっこいい姿」が生まれたと言える。

『武器よさらば』は『日はまた昇る』に次ぐ長編第二作で、ヘミングウェイ自身の第一次世界大戦での従軍経験をベースに書かれている。ヘミングウェイ自身は、イタリアの前線に向かう途中、迫撃砲弾を受け、227箇所を負傷。10回以上の手術を受けることになる。しばらくは杖無しでは歩くこともできない生活を送っていた。

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