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『脳外科医竹田くん』に関する私見

昨晩、話題のマンガ『脳外科医竹田くん』に関する私見をTwitterで長スレッド投稿しました。

けっこう頑張って書いたので、せっかくだしnoteにも置いておこうかなと。

以下、ツイートからのコピペです。




話題のマンガ『脳外科医竹田くん』を読みました。噂に違わず閲覧注意レベルのショッキングな内容ですね。しかも(あくまでフィクションという建前ですが)現実の医療事故事例に酷似しているということで、実はノンフィクションという説が濃厚という……。

医クラだけでなく、非医療界の方々にも動揺が広がってるのも確かに頷ける内容ですが、一応ちょっと立ち止まってほしいなという意図で以下に江草の私見をつづってみます。(長いです)

こういうショッキングなナラティブ(物語)が出てきた時、えてして人は過剰反応しすぎるものです。
たとえば、大きな飛行機事故が起きた後、人々が飛行機を怖がって車での移動に切り替えた結果、自動車事故が頻発し、かえって被害が増えてしまったという皮肉な事例があったとも聞きます。

今回の「竹田くん」の例で言えば、こうした「殺人医師」を何とかして現場から排除する必要があるとして、医師免許更新制度、専門医制度など、医師に対する認証制度の強化を求める声が多く出ています。ただ、これらの案がかえって「自動車事故」を誘発しないかは一度立ち止まって考えるべきでしょう。

たとえば、マシュー・サイドの『失敗の科学』という書籍では、医療過誤は別に一部のおかしい医師によるものでなく広く業界体質的に起きてしまっていることが指摘されています。すなわち医療安全の問題は「あのヤブ医者ども」の問題ではなく「私たち全員」の問題として捉えるべきではないでしょうか。

ここで「ヤブ医者」を排除する仕組みだけ考えても、これが業界体質的なものであるならば、いわば原発巣を切らずに転移巣だけを切除してるだけのようなもので、ただただ効果の薄い侵襲を無闇に加えてるだけかもしれません。これでは不安にかられて「自動車事故」を誘発してるのと変わりません。

実際、少なくない方が指摘されてる通り、「竹田くん」のマンガで注目すべきは病院組織における隠蔽体質です。「竹田くん」に問題があることは確かですが、それだけでなく全スタッフ的に落ち度を隠そうとしてること自体が被害を広げてることは間違いないところでしょう。

もちろん、「竹田くん」はあくまでフィクションではありますが、医療界にはびこる隠蔽体質の問題は現実で既に指摘されてるところです。
たとえば、先ほどもとりあげた『失敗の科学』においても、とかく失敗を隠そうとする医療界の隠蔽体質の問題を繰り返し指摘しています。

他では、こちらのTED動画も有名ですね。
ミスを認めることを避ける医療界の体質を再考するよう促す内容で、「失敗した医療者を排除していくならば誰もいなくなるだろう」とも語っています。

ブライアン・ゴールドマン: 医師も失敗する。そのことを語ってもよいだろうか?

こちらのTEDも、医療過誤というよりCOI(利益相反)的な視点を含んだ話ですが、医師業界の透明性の拡大を訴えてます。

リアナ・ウェン:医師が開示しようとしないこと

あとは一昔前の書籍ですが『人は誰でも間違える(to err is human)』もありますね。

つまり、(医療者の皆様には釈迦に説法ですが)総じて医療安全の文脈においては、業界の隠蔽体質こそが問題の本丸で、どうやってミスを正直に報告するようなオープンな文化を作り出せるかが課題になってるわけです。

ミスを正直に報告する文化を築くことは、失敗から学び今後の防止策の立案に資するだけでなく、医療訴訟の抑制という面でも効果があるとのことです。

「竹田くんたち」にまさに見られたような「決して失敗してはならない」という完璧主義は色んな面で悪い方向にしかつながってないと言えます。

ではここで、今回の「竹田くん」を受けて支持を増している「問題医師排除制度の強化案」はどうでしょう。まさにこれこそ「決して失敗してはならない」という完璧主義を助長するものではないでしょうか。それはすなわち業界の隠蔽体質をさらに悪化させることにもつながりかねません。

実際、マンガ「竹田くん」内でも自分の責任を追及されることを恐れて責任逃れのためにミスを隠蔽したり誤魔化す登場人物が多々登場しています。 つまり、立場を追われたり処罰されたくないから隠してるわけです。 この内容を受けてなお「厳罰化を進めよう」というのはいささか早計に思います。

ついでに言えば、一部に見られた「こういう問題医師を隔離するために医局が必要なのだ」という主張も疑問です。なぜならマンガ「竹田くん」内では、医局が竹田くんを抱えきれず追い出してるからです。医局が結局対応できなかった事例なのに医局制度擁護の根拠にするのは無理筋というものでしょう。

むしろ、逆に、医局のようなクローズドでヒエラルキーな文化こそ、医療界の隠蔽体質を助長するものではとさえ感じます。マンガ内でも「教授の顔に泥を塗れないからなんとかごまかさないと」的な描写があったように思いますし。だいたいそれは「医局は問題医師を世間から隠してる」ってことでしょう?

色々言いましたが、もちろん業界の隠蔽体質を変えることは簡単なことではありません。「開けゴマ」と唱えればたちまち開くような容易な扉ではないでしょう。
ただ、その道のりが困難だからといって、もっと手っ取り早そうという理由でマズイ解決策に飛びつくことが肯定されるわけでもありません。

というわけで、長々と続けましたが、「竹田くん」を受けて「問題医師排除の仕組み作り」ばかりが注目されてる雰囲気にちょっと危ういものを感じたので書いてみました。

別に医療安全の専門家でもないのでおかしなことを言ってたら申し訳ありません。ミスは素直に認めるつもりです。



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