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nuntius obitus

君が旅立った今
君の最期と
お別れのつどいを
遺されたこの世のものたちに
知らせる働きにあずかっている
いつ終わるかも知らず
きっとこの世の区切りは
本当の終わりではあるまい

君が誰とどこで
どんなふうにつながって
歩んできて
今もこの時を
みなとともに歩み続けているのだろう

僕に遺されている手がかりは
ほんのわずかなものだ
それは一人ひとりに
君の旅立ちを告げて
そこで交わされる
今生きることの意味に
思わず立ち止まって
紡がれることばが
知らしめる

僕らは立ち止まることを
忘れていて
あたりまえのように
ルーティーンをこなしていた
分かっていても
止められず
歯車になり
機械と化し
日常の中で後景化している

君の旅立ちは
僕らの狎れ合いの
常態をこそ断ち切ったのだ

この世の最後の足あとが
どこに向かっていたか
一人ひとりに覚えさせている
「ショック」
「無念」と
それを僕は否定しない
告げられた瞬間、湧き上がる声を
すべて刻む

君の旅立ちは
この地球上の追い切れないほどの
数限りない君の声が届いていた
広がりをおしえる

いずれ誰もがこの時の刻みに立たされる
足あとがふと風に消し去られていく
旅立ちを迎える

歩みはそこで止まらない
次に来るものたちが
消された足跡の意味を
心に刻んで共に歩み始めることが
始まるだけだ
見るものにしか見えない始まり

お別れのつどいを告げ知らせるとは
どれほど冷めている
この世の働きかと
されど僕は否という 
君もしかりと賛同するに違いあるまい
そう僕は君の消えた足あとから信ずる

今、僕に残された
たどられる限りの人たちに
君の断たれることなく
消え去って行った
凡庸な僕らに見えなくなった
君が今もここだと示す道を
僕らが探し求め
こうして君とともに生きていく
感謝の時
目覚め、奮い立たせる時
いずれ風の向こうに君を見つけて
君に出遭えるだろう
僕らの道が踏み外れなければ



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