見出し画像

石の話をしよう。−fluorite−

最近もっぱら楽しいのはフローライト磨き。

原石として八面体が産出することは少ないというけれど、フローライトには劈開があって塊のフローライトをこの劈開に沿って割っていくと八面体を自分でも切り出すことができる。

モース硬度4の氷砂糖のようなこの石を少しずつ番数をあげて鑢をかけていくとどんどん透明度が増して輝き始める。うっすらにしか見えなかった景色が鮮明になっていく。

この作業がそれはそれは楽しい。むしろ石を編んでいる時より楽しい。アクセサリー作家としては本末転倒も甚だしいことなのだけど、大抵製作に使う石はすでに磨かれた石か、石磨きのプロにお願いして原石を目利きしてもらって希望の景色が出るように切り出して指定のサイズに加工してもらうということがほとんどなので、掘り出すことは叶わないながらも磨くところから始められるこの作業には、「自分で作った」というとても原始的な喜びが宿るように思う。

こうして輝きだした石が一番映える形は何か、そこから少しずつ作家の回路が動き出す。

フローライトのカラーバリエーションは豊かで、普段茶系のアースカラーのワックスコードを使うことが多いアタシもちょっと冒険してみようという気持ちになる。石が小さいから作業として早く仕上がることも、気持ちの熱が冷めないままフローして心地いい。

小さくシンプルに編んで、身に付ける人が陽にかざしたり指でクルクルしたりしてこの八面体から地球を感じてもらう。

この小さなカケラに「地球」は大げさな気もするけどこのキラキラは確かに地球が作ったし。

ラベンダーフローライトのネックレス。最初から最後まで楽しい製作。出来上がるまでのタイム感もアタシのリズムに合っている。こういう製作のリズムや喜びにアタシのお客さんは敏感に反応する。

内側から外側へ。内観から昇華そして解放。直感の直裁と物理の決断。脳遊びと手遊びの精査。


【fluorite/和名・蛍石】

カルシウムのフッ化物で原石では立方体で、稀に八面体の美しい結晶で産出する。劈開がよく八面体に割ることができる。フローライトの由来は「流れる」を意味するラテン語「fluere」で、金属を精錬するときのフラックス(融剤)として用いた時に容易に融けることに由来。

この融剤として使用する時、熱を帯びると輝きながら弾ける様子から和名では「蛍石」の名で呼ばれる。フローライトはフッ素の原料鉱物で、フッ素は水への添加剤にするほかにもフライパンなどの汚れ・固着防止のためにテフロンコーティングを作るためにも使われる生活に身近な鉱物。

フローライトは色調が変化に富むこと、一つの標本に何種類もの色調が現れること、色が累帯配列(不連続の帯状構造)したり斑点状に分布したりすることから昔から飾り石としての人気が高い石で、古代エジプト人は彫像の中に用いたりスカラベの彫刻に用いていた。

紫、白、黄色が縞模様を作っているフローライトは「ブルージョン」と呼ばれ、これは“青黄色”を意味するフランス語「bluejaune」が縮まったもの。ブルージョンの主要な産地はイギリス・ダービシャーのキャッスルトンで、そこでの鉱脈の色の配列には14種類のパターンがある。

サポートいただけましたら玉屋物の素材の購入など作家活動に使わせていただきます。 玉屋えゐち http://ewichi.ocnk.net/