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PIF:ALPS処理水海洋放出について。(科学的状況の収集情報・データ概要、専門家パネルの見解)

以下の文章は、個人的な試訳です!

2022年8月11日付
以下専門家パネルによる資料作成

専門家パネルメンバー
ケン・ビューセラー博士 (ウッズホール海洋研究所 上級科学者・海洋学者)

アルジュン・マキジャニ博士  (エネルギー・環境研究所 所長)


アントニー・フッカー博士 
(アデレード大学 放射線研究・教育・
  イノベーションセンター 准教授・ディレクター)

フェレンツ(ヤコブ・ロルフ)・ダルノキ=ベレス博士
  (ミドルベリー国際問題研究所モントレー校 ジェームズ・マーティン核
  拡散研究センター 招聘研究員・非常勤教授)

ロバート・H・リッチモンド博士(ハワイ大学マノア校ケワロ海洋研究所所
  兼教授

この覚書は、専門家パネルが日本政府と東京電力(TEPCO)との3回の会合
(その内の1回にはIAEAのカルーソ氏も参加)から、これまでに学んだ事を纏めたものである。

1)日本政府および東京電力(TEPCO)との3回の会合
    (そのうちの1回にはIAEAのカルーソ氏も参加)

2)東京電力から提供されたタンク内の放射性核種に関するデータ。

3)ラファエル・グロッシIAEA事務局長による、2022年7月6日の太平洋諸
  島フォーラム(PIF)会合でのブリーフィングとその後の議論。

 

この覚書は、提案されている放出の科学的状況についての我々の結論と見解と科学的専門家としての我々の提言を要約したものであり、フォーラムやそのメンバーがどのような立場を取るか取らないかを示唆するものではない。

私達はしばらくの間、放出インフラ工事を進める決定は時期尚早であり、延期すべきであると考えて来た
しかし、日本原子力規制委員会が、放出パイプライン工事を許可したことを考えると(まだ放出はしていないが)、私達の分析、結論、勧告を出来るだけ明確かつ率直に示すことが、私達の科学的・倫理的責任であると考えている。


要旨
我々の主な結論は以下の通り。
1)
東京電力は、ソース項、つまりタンク内の特定の放射性核種の含有量に関する知識が著しく不足している。
ごく一部のタンクしかサンプリングされておらず、PIFと共有されているデータでは、殆ど全てのケースで、全64核種のうち9核種しかサンプリングされていない

2)
東京電力の測定プロトコールは統計的に欠陥があり、偏りがある
このプロトコールは、タンクの放射性核種含有量について統計的に信頼できる推定値を提供するようには設計されていない

3)
これまで殆ど測定されてこなかった55の核種に関する東京電力の仮定は、科学的根拠に乏しい
また、東京電力の仮定は、ALPS処理と最終的な希釈・排出を計画する為の科学的根拠としては不十分である。

4)
我々は、IAEAがタンク内容物を統計的に代表する方法で測定するよう主張していないことに驚き、落胆する。
私達の見解では、これは建設許可前に確立されるべき、操業前計画の最低限の基礎である。

5)
初期タンクにおけるスラッジと廃棄物の不均一な分布は、十分に考慮されておらず、建設認可前に解決されるべき運用上の問題を引き起こす可能性がある。

6)
複雑で大規模なタスクであることを考えると、これまで行われてきたALPSのテストは不十分である。

7)
生態系への影響と生物濃縮に関する考察は深刻な欠陥があり影響を推定する為の健全な根拠とならない
トリチウムの場合、有機的に結合したトリチウムを推定する為に使用された飲料水モデルは、海洋生態系とそれに関連する生物相には適用されないので間違っている

8)
ストロンチウム90のような一部の放射性核種は、海洋生態系において数桁も濃縮される可能性があることを考慮してい無い為、安全性を決定するための比率の合計法は欠陥があり不十分である。
安全を前提とした放流後のモニタリングは、問題やその後の被害を防ぐものでは無く、その発生を記録するだけである。

9)
希釈が汚染の解決策である」という仮定は、科学的に時代遅れ、生態学的にも不適切である。
提案されている排出の場合は尚更であり、日本、そして世界の漁業に多大な風評被害を与えることになる。
具体的には、生態系と風評被害、そして国境を越えた被害を可能な限り回避する必要がある。その為には、選択肢をこれまで以上に幅広く、深く検討する必要がある

10)
私達は、IAEAが作業前の科学的な注意を十分に払っていないように見えることに落胆する。
むしろ、作業前の科学的な注意を排出の直前まで先延ばしにしているのだ。

11)
私達の科学的理解に基づき、以下のように提言する。

a. パイプラインの工事は無期限に延期すべき

b. これまで検討されてきた選択肢を、特に世代間、国境間、風評被害防止の
 観点から再検討
すべき。

c. リスクの無い選択肢など無いことは認識している。しかし、リスクは大幅
 に減らすことが出来る

私達の3つのオプション提案
世代間、越境、風評被害も殆ど防ぐことが出来る。最初の選択肢は、他の2つの追求を排除するものではない。

I)
ALPSで廃棄物を処理し、トリチウムを主成分とする廃棄物は、トリチウムを崩壊させる為に遥かに安全なタンクに貯蔵する。

II)
動物(二枚貝など)や植物、菌類が放射性核種を固体に濃縮するバイオレメディエーションは、越境汚染の観点からより安全である。

III)
ALPSで処理し、トリチウムのベータ粒子を環境から遮断、人体への接触可能性の低いコンクリートを作る為に処理水を使用


I. 科学的理解の現状
i. 測定
測定プロトコールやタンク内容物の均質性(またはその欠如)など、タンク内の放射性核種含有量に関連した測定の代表性に関する初期の疑問のいくつかは、まだ解決されてい無い
また、海洋生態系における安全性を判断する為の「合計または比率」法の適用についても疑問がある。

タンク内容物と測定に関して、日本および東京電力から提供された情報は以下の通り。

a.
PIFに提供されたデータで測定された放射性核種の数
タンクでの測定は、62核種のうち7核種(すなわち、トリチウムと炭素14以外の放射性核種)のみに焦点を当てている
しかし、以下以外の放射性核種の測定は殆ど行われてい無い

この7核種とは。。
ストロンチウム-90(Sr-90)
セシウム-134(Cs-134)
セシウム-137(Cs-137)
ヨウ素-129(I-129)
ルテニウム-106(Ru-106)
アンチモン-125(Sb-125)
コバルト60(Co-60)

以下のグラフは、専門家パネルに提供されたデータから専門家パネルメンバーの一人(Dalnoki-Veress博士)が作成したもの。

7核種以上の核種が測定されることは稀であり、その場合でも全体の数分の一に留まっていることを示す。
このセットで測定された最大数は19核種(トリチウムと炭素14を含む全64核種の内)であり、殆ど全てのケースで7核種か9核種しか測定されていない。

PIFに提供されたタンクデータ(ALPS処理水のみ)で測定された放射性核種の数

縦軸→測定核種サンプル   横軸→任意サンプル数

b.
未測定核種の比率の合計に関する仮定
残りの放射性核種については、規制値に対する(測定されていない)濃度の比の合計は常に0.3と仮定される。

この仮定は、7つの放射性核種の測定濃度や、これら7つの核種とそれぞれの規制値との比の合計とは無関係に維持される。

例えば、7つの核種の比率の合計が1未満、1、10、100であっても、他の55核種については同じ仮定が維持される。

事実上、東京電力は、これらの放射性核種が、7つの放射性核種の測定によって示された影響とは無関係に、常に同じ影響を与える濃度にあると仮定している

2022年6月15日、16日の会議で東京電力は、7つの核種の測定濃度が変化した場合、55の比率の合計が変化すると仮定することが合理的であると合意した。

未測定の55核種の比率の合計を0.3とすることは、科学的な裏付けが無く、ALPS処理および排出を計画する為の健全な根拠とはならない可能性が高い

東京電力は、測定の主な目的はサイト境界における外部放射線を制御することである為、これら55核種の比率を変化させていないと述べた。
この点では、年間1ミリシーベルトを下回ることを目標
としている。

c.
サンプリング時間と手順
サンプルの採取は、各タンクのセットが満杯になる前のALPS処理水の最後のバッチから、各タンクのセットごとに1回のみ行われる。
30リットルのサンプルを1回採取するが、これは真の含有量と濃度を理解するには不十分である。


d.
初期に満たされたタンク内のスラッジ
事故直後の数年間、水を入れたタンクにスラッジの存在が確認された。
この初期とは、2013年と2014年

スラッジは当時サンプリングされておらず、それ以降もサンプリングされていない
画では、タンク内の30cm以上の水を除去、スラッジ内の間隙水やスラッジそのものを含む残りは、タンク廃止措置の一環として処理することになっている。
汚泥の深さが30cm以上あるかどうかは不明で、その点についてはまだ議論されていない


ii. 測定と測定プロトコールに関する専門家パネルの結論
a)
測定における東京電力の第一の目的 
第1目的は、ALPSの能力の妥当性の評価など、排出の準備に関連するものでは無く、むしろ東京電力は、サイト境界の外部線量を1mSv/年未満に維持することであると述る。
これは、放射性廃水処理や排出を計画する為の科学的に適切な根拠ではない

b)
代表的でない測定プロトコール
測定プロトコールは、サンプル中の放射性核種濃度がタンクの内容物を代表してい無いことを実質的に保証している。
サンプリング時間や方法には偏りがある。サンプルの放射性核種濃度は大きく変化することが予想される。

例えば、セシウム137/ストロンチウム90比の大きなばらつきが示すように。最後のバッチから一貫して1つのサンプルを採取することは、サンプルの代表性よりも、むしろサンプルの偏りを保証する。
偏った測定値を比較できるようなランダムなサンプルセットが存在しない為、この偏りが線源項の評価に与える影響を決定することは出来ない

c.
科学的に誤った比率の合計の使用
測定された7核種の濃度測定結果とは無関係に、測定されなかった55核種について0.3の比率の合計を使用することは科学的に間違っている。
ランダム サンプリングに基づいて55核種と7核種の代表的な関係を確立し、それに基づいて比率を割り当てるべきであった。

d)
極めて疑わしいデータ
東京電力からPIFに提供されたデータセットには、異常で疑わしいデータポイントや測定値が多数ある。

例えば、テルル127(Te-127)規制値は5,000 Bq/Lとされている。
しかし、4つの異なるTe-127の測定値は、数十万〜数百億Bq/L未満(つまり記号「<」付き)と記載されている。

最高数値は、公式規制値のほぼ1,800万倍であるが、測定値が1,800万倍未満であることを示しているので、その比率については明言できない

Te-127は数百キロ電子ボルトのエネルギー範囲のベータ粒子を放出するベータエミッターこの濃度では容易に検出できるはずである。

Te-127の半減期はわずか9.4時間
事故時に存在したTe-127は、2019年の測定までには崩壊しているはずである。
報告されているTe-127のデータが本物であれば、重大な疑問が生じる
溶融炉心で断続的に臨界が起きているのだろうか?
もしそうでないなら、Te-127値は、東京電力の測定とデータの品質管理手順が不十分であることを示す。
いずれにせよ、東電とIAEAはこの問題に早急に取り組むことが急務であると考える。

e)
総放射能と測定バイアスの方向に関する不確実性
全体として、タンク内の放射性核種の実際の含有量に関する知識は、偏ったサンプリングに基づいているので、各放射性核種の総放射能だけでなく濃度も非常に不確かである。
その為、十分なALPS能力を確保し、放流前にALPS処理を繰り返す必要性を排除するようなALPS処理プログラムを設計することは困難である。


f)
曖昧で不満足な計画根拠
このままでは、東京電力の「必要な希釈は100倍以上」という発言はあまりにも曖昧で、計画の根拠としては不十分

ブエッセラー博士は、既に2021年11月報告されている最高濃度のトリチウムを希釈すると、目標の上限値1,500ベクレル/リットル(Bq/L)に達するには1,700倍になることを指摘していた。

全放射性核種のタンク含有量に関する統計的に妥当な知識は、処理と排出の健全な計画、および排出プロセス全体が完了するまでの当初から信頼できるスケジュールの作成に必要である。

私達は、将来の冷却水の量とその中の放射性核種濃度に関して不確実性があることを認識している。
しかし、それ以上に、今タンクの中にあるものをしっかりと把握しなければならない理由がある

g)
ALPSテストが限定的すぎる
ALPSシステムのテストはこれまで非常に限られており、放射性核種の含有量が確立されていない大量の水をうまく処理できるかどうかを示す代表性には疑問が残る。

h)
運転前の準備が不十分IAEAは事実上、望ましいアプローチとして放出を早々に承認

IAEAは、必要であれば繰り返しALPS処理を行うことを示している。
カルーソ氏は明確に次のことを発言した。
「グロッシ氏は、排出が議定書を遵守していないと述べることで、遵守していないと見なされることを示唆した。

グロッシ氏の主な関心事は、現在のタンク内の状況ではなく、ALPS処理後、つまり排出直前の状況であると明言。
事実上、IAEAは、タンクの放射性核種含有量や、ALPSシステムが実際の放射性核種負荷を運転上効率的な方法で処理する能力について十分な知識がないまま、排出計画を承認したことになる。
我々は、運転前の準備には、ソース項に関するより良い知識が含まれるべきだと考える。」

i)
廃棄物の不均一性に関する不十分な知識
運転開始前の準備には、初期に充填されたタンク内の廃棄物の不均一性についても、はるかによく知る必要がある。
特に、汚泥層の上の水については、運転前に特に注意を払う必要がある。

j)
ALPSの廃棄物処理能力に関する疑問
グロッシ氏が、ALPSシステムがタンク内に存在する廃棄物の量、濃度、多様性を処理する能力をIAEAが考慮したかどうか、またどのように考慮したのか、あるいはその点に関する不測の事態(ALPS処理が繰り返されることの意味合い以外)を示していないことを懸念する。

k)
IAEAが代表的な廃棄物のサンプリングを求めなかった事
グロッシ氏は、2022年7月6日フォーラムで、IAEAは日本に「権威ある」意見を提供する為に存在し、日本が意思決定者であると発言した。

我々は、IAEAがその科学的権限を行使して、ソース項に関する信頼できる知識を可能にする統計的に代表的なサンプリングを求めなかったことに驚き、失望している。

私達は、タンク内容物の代表的なサンプリングと、懸念される各核種の線源期間の信頼できる推定を行う前に建設を許可することは、健全な科学的道理に反すると主張し続ける。

l)
不適切で時期尚早な(排出)工事の許可
全放射性核種のタンク内容物を確定するために必要なサンプリングを行う前に、排出準備の為の工事を許可することは、運転前の適切なやり方ではない

ソース項は、これまでよりも遥かによく確立される必要がある
ALPSシステムがタンクの様々な内容物(微粒子負荷のある初期のタンクや、タンクが空になる時に攪拌される可能性のあるスラッジを含む)を処理する能力は、満足に確立されていない

m)
科学的・生態学的に不健全な完全かつ適切なサンプリングの延期
完全かつ適切なサンプリングを放流時まで待つことは、科学的にも生態学的にも健全な手順ではない

作業上の困難、ALPS処理を何度も繰り返す必要性、希釈を大幅に増やす必要性など、すべてが困難なハードルとなる可能性がある。

あらゆる選択肢を排除した結果、問題解決方法として希釈率を高めて海洋に排出しようという圧力が大きくなる可能性が高い

これはとりわけ、排出される時間を大幅に引き延ばす可能性がある。今のところ不健全なこの計画に財政的資源を費やし続けることによって、日本政府は、財政的、環境的、人体的により大きな負の結果をもたらす可能性のある計画を追求することにコミットすることになる


II. 安全性と生態学的側面

2021年11月の東京電力環境影響評価書に対するコメントの中で、ブッセラー博士は、環境影響評価(EIA: Environmental Impact Assessment ) が有機結合トリチウム(OBT)について言及していないことに言及した。

この問題については、2022年6月15/16日会合で東京電力と議論した。
その際、東京電力は、ICRP Publication 56では飲料水中のトリチウムの3%がOBTに変換されると推定され、ICRP 134では6%と推定されていることを考慮し、東京電力は保守的な値として10%のOBT比率を想定することを専門家パネルに伝えた。

飲料水への換算係数を使用することは、提案されている排水に対して科学的に妥当ではない

放出水は人が飲むのでは無く、海水で1,500Bq/Lに希釈される
従って、関心のあるパラメータは、トリチウム水を直接摂取した場合に人体で何が起こるかではなく、海洋生態系で何が起こるかである。

海水中のトリチウムのバックグラウンド濃度は1Bq/Lの数分の1
その結果、提案されている排出濃度は、自然および核実験のバックグラウンド濃度の数千倍となる。

さらに、この濃度での排出は、何十年にもわたって一箇所で発生し、海洋生物が経験することになる近海のかなりの部分に勾配が生じる

さらに、トリチウム水からOBTへの変換を単一の分数で行うことは、100年かそこら続くこの複雑な問題を考える上で、満足のいく科学的根拠にはなりそうもない

例えば、底生生物と遠洋性魚類とでは、様々な毒性物質に対する反応が異なることはよく知られている。
また、福島に関連した汚染の痕跡を持つマグロが、太平洋全域の米国沿岸で発見されていることにも留意すべきである。

OBTには、全OBT、交換性OBT、非交換性OBT、可溶性OBT、不溶性OBT、トリチウム化有機物、埋蔵トリチウムなど、様々な地球化学的形態があり、それぞれが海洋で異なる運命をたどる可能性がある。

トリチウム研究コミュニティにおける理解を明確にする為には、簡単な分類が必要トリチウム水(HTO)とは異なりOBTの環境中での定量と挙動はよく知られていない

海水HTO、生物相HTO、OBT間のトリチウムの交換の速度論は、重要な検討課題である。

藻類2種と軟体動物1種のHTOは、海水HTOと迅速に交換することが示された。
しかし、HTOと全生物のOBTの間の全体的なトリチウムの回転は遅い。

ICRP(国際放射線委員会)が提供するOBTの一般的な考察は、特定の有機物形態には適さないかもしれない。

その科学的に妥当な環境影響評価(Environmental Impact Assessment)がIAEAの議定書で義務付けられているにもかかわらず、数十年にわたるトリチウム汚染水の海洋放出に飲料水関連のパラメータを使用することの不適切さをIAEAが指摘していないように見えることに、私達は驚き、落胆する。

ストロンチウム90は、カルシウムと化学的性質が似ている為、骨に濃縮される

初期濃度は規制値を大幅に下回る予定だが、魚類における生物学的半減期は数ヶ月〜数年であり、何桁も再濃縮される可能性がある。

複雑な生態系の問題に関わる東京電力の準備は非常に不十分生態系への害が最小限であると結論づける科学的根拠を提供していない

私達は、多くの規制がいまだに「汚染は希釈すれば解決する」という考えに基づいていることを認識している。
しかし、海洋に依存する人間だけでなく、海洋とその生態系を保護する科学は、その考え方をはるかに超えている。

放射性廃棄物の海洋投棄は、フランスのラ・アーグや英国のセラフィールドのような原子力発電所や再処理工場がトリチウム水を日常的に投棄していることを理由に正当化することは出来ない正当化すべきではない

それどころか、科学専門家として私達は、トリチウム汚染が顕著な大量の放射性廃液が示す課題は、より安全で賢明な選択肢を見つけ、実行する機会であり、将来の大惨事に対処する為のより良い前例を作る機会であると信じている。
それは、他の人々が現在の投棄方法から、より生態系を保護する方法へと移行する為の扉を開くことになるかもしれない。


III. 結論と科学的提言
日本原子力規制委員会が建設にゴーサインを出し、IAEAが異議を申し立てていないにも関わらず、私達が考える科学的見解は、この決定は非常に時期尚早で、健全な科学的根拠を欠いているということである。

サンプリングや関連事項の不適切さに関する懸念に加え、生態学的考察も不十分であり、トリチウムOBTの場合は、ICRPからの科学的ガイダンスに基づいているが、明らかに提案されている排出には適用されない

さらに、非常に問題のあるテルル127の測定値を考慮し、東京電力とIAEAは、測定とデータの品質管理の問題、および溶融炉心で断続的な臨界が起きているかどうかの問題を早急に取り上げるよう勧告する。

最後に、私達は、パイプライン工事などの更なるステップを踏んで放出の決定を固める前に、はるかに被害の少ない代替案が検討されるべきと考える。

トリチウム崩壊の為の長期貯蔵、トリチウム除去、あるいはALPS処理後のトリチウム水蒸発など、検討された選択肢の中には、生態系への影響について比較検討される必要があるものもある。

他の選択肢を検討する時間は十分にある。というのも、この冷却水を放出する緊急性は無いからである。

専門家委員会は、東京電力がまだ考慮していないと思われる3つの選択肢についても議論した。

1)
安全な貯蔵と放射性崩壊 ALPSの試算によれば、放出には40年かかり、その間にさらに水が採取され、その期間は数十年延長される。

トリチウムを含むALPS処理水を、敷地内または周辺地域の安全な耐震タンクに貯蔵した場合、トリチウムの半減期が12.3年であることから、放射性崩壊によって97%のトリチウムは約60年で消滅
安全な貯蔵という選択肢は、まだ十分に検討されていない

2)
バイオレメディエーション
ある種の動物、植物、菌類は、水から放射性核種を除去して濃縮することができ、その結果生じる廃棄物を、固形廃棄物(タンクスラッジの固形物を含む)に含まれるはるかに多量の放射能とともに管理することができる

3)
特殊用途のコンクリート製造にALPS処理水を使用すること

タンクの水を現在計画されているように処理し、主にトリチウムを含む浄化された水を、人がほとんど接触しないような用途(つまり、建物や公共施設以外の用途)のコンクリート製造に使用することが出来る。

この水量は数年で使い切ることができ、提案されている放出よりもはるかに短期間である。
コンクリートは、最終的に瓦礫になったとしても、トリチウムのベータ粒子を遮蔽するであろう。

私達は、完璧でリスクの無い解決策はないと認識する。廃棄物はここにあり、困難な問題を突きつけている。

現時点では、解釈を大幅に遅らせ、より被害の少ない代替案を検討する以外に、特定のコースの採用を提唱しているわけでは無い

私達は、提案されているコースよりも影響が桁違いに小さい可能性のあるアプローチの例として、3つの代替案を挙げている。

また、安全な保管という選択肢(ALPS処理後にさらに安全な保管を行う)は、他の2つの選択肢を排除するものではないことにも留意する。

これらは、海洋を保護し、(i) 越境汚染と、(ii) 日本の漁業と太平洋地域の漁業により一般的に確実に発生する風評被害という深刻な問題に対処する選択肢の一例である。

これらは十分に研究され、漁業関係者を含む日本国民や太平洋地域社会と議論されるに値する

そして、太平洋に放出されるような説明(解釈)が望ましい選択肢であるという前提に立つことなく、研究されるに値する。

- INFO SOURCE -
PACIFIC ISLANDS FORUM SECRETARIAT  ( 11th August 2022 )
https://www.forumsec.org/wp-content/uploads/2023/02/Annex-4-Expert-Panel-Memorandum-Summarizing-Our-Views-...-2022-08-11.pdf