某日焼け止めCMは人種差別か?

 あるモデルが出演している日焼け止めのテレビコマーシャル(CM)を目にした。CMの最後には、「わたしはこの夏、白肌派」という文句。字幕ももちろん白いフォントである。
 CMはそれを見ている消費者に商品を買ってもらいたいがために制作される広告だ。多くのCMは有名人を登場させることで、「私もこうなりたい」と消費者に思わせ、購買意欲を高めている(日本では、CMにおける有名人の起用が他国と比較して多いらしい(注1))。私はこのCMを目にしたとき、真っ先に、「このCM、他国(特にアメリカ)で放送されていたら、どうなっていただろう」と思った。というのは、アメリカでは去年Doveが人種差別的な広告を出したことで、多くの視聴者からバッシングを受け、結果謝罪に追い込まれたことを思い出したからだ。Doveは、Facebook上に黒人女性が彼女の肌の色に似たシャツを脱いだ途端、淡色のシャツを着た白人女性に変身するという「しろ」もののGIF画像を載せた(注2)。この広告は、Dove製品を使用することで肌が「白くなる」ことを想起させる(注3)。
 さきの日焼け止めのCMとDoveのCMに共通していることは、女性が白い肌を目指しているという前提のもとでこのCMが制作されているということだ。そもそも白い肌というものは存在しない(黒い肌も黄色い肌も同様だ)。この写真を見れば、明確にそれが分かる。

この写真はNational Geographicの4月号に掲載されているものだ。今号のタイトルはBlack and White(黒と白)。日本語版ではないが、ぜひ購入してほしい。人種という概念が社会的に出来上がったもので、生物学的には全く根拠のない物だということが分かる。
 DoveのCMと同様、言うまでもなくこのCMは人種差別的だ。さらに、このCMは不可能なことを消費者に強いているということも問題だ。なぜなら、肌は「白く」ならないのだから。要するに、このCMは消費者に商品の効果を誤って伝えている。ぜひ日焼け止めCM制作者は、「日焼け止めを買う人は日焼けをしたくないから日焼け止めを買うのであって、肌を“白く”するために買っているわけではない」ということを肝に銘じてほしい。また、日本に住んでいる外国人が少ないから、といって安心していたらいつかぼろが出てしまう。すでに性差別問題でぼろが出ているのだから。
 私は、人によく「色白いね」と言われる。日焼けすると、肌が赤くなってヒリヒリする肌質だ。それを言った人に私は何も言わないが、言葉やカテゴリが人を排除することを自覚したい(私も含め)。すべての人に寛容で優しい、「完璧な」CMは制作できるのだろうか?誰かが受け入れられているかげで、誰かが排除されている(注4)。


注1. MarkeZine編集部 「日本はテレビ広告に有名人を起用する割合が高く、その大半は自国の有名人【カンター・ジャパン調査】」http://markezine.jp/article/detail/18917を参照(アクセス日:2018/4/18)
注2. The New York Times "Dove Drops an Ad Accused of Racism" http://www.nytimes.com/2017/10/08/business/dove-ad-racist.htmlを参照(アクセス日:2018/4/18)
注3. ちなみに、Doveは石鹸などを製造している企業だ。Doveの商品は「洗浄」というイメージを持っているので、例のCMは「さらに」人種差別的だといえる。
注4. 社会学者の岸政彦は、著書「断片的なものの社会学」で、誕生日を祝う意義について述べている。例えばへテロセクシュアルの人々が結婚式を挙げる、またはそれを祝うことは、同性愛の人々への抑圧となりうる。一方で、誕生日は全ての人に平等にあるので、誕生日を祝うことは抑圧にはならないと指摘している。寛容の裏の抑圧に対し、岸は「さまざまな価値観を尊重しましょう」という考えを紹介する。心に残る言葉だ。(岸政彦「断片的なものの社会学」、朝日出版社、2016年、p115)

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