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イヴの夜に何を想うか

クリスマスイヴの夕方、成田に着いた。
クリスマスイヴという言葉に引っ掛かる。
成田にはいつも通り多くの人がいた。到着口でカタカナの名前を持っている人を横目に見ながら、そこを抜け、二つのうちの一つのスーツケースを宅急便に預け、東京駅に向かう。
なんか伝統だ。クリスマスイヴも帰国する私も。
いつも宅急便に預けるスーツケースと違うスーツケースを預けた。そっちに今夜使うものは入っていない。
成田エクスプレスは高いが、疲れている私にとっては、寝ることのできる重要なスペースでもある。お金を払って寝る、と気持ちの良いものだ。
東京駅には一時間ほどで着く。
亀戸、錦糸町。眠たいながらも、窓を見て、蓮沼執太フィルの曲が東京に似合うな、と思う。クリスマスイヴに残業する人たちがいる。
定時に帰れる人たちもいる。
その人たちは、人たちをすり抜けて、家へ、どっかへ、戻る。

東京駅の丸の内口のイルミネーションが見たいと思ったので、行った。やはりあの建築は美しい。美術史はよくわからないが、誰もが見てもきれいに見える。サンタのコスプレをした人たちがビラを配り、人を誘導する。なんか躍動感のあるサンタがいた。五分したら、飽きたので、入場券を買って、八重洲口を出る。いつものブックセンターへ。

ユリイカの Vaporwave 特集は八階にあった。結構探した。もう次の号になるから、早く買わなければ、とつくづく思っていたので、手に入って良かった。新幹線の中で読むことにしよう。

八階には、子供用の本が置いてあった。そこにはサラリーマンたちが真剣に絵本を選んでいた。ここにもサンタさんが、何人か。若い人たちも家に帰ったらお父さんなのかな、と思いを馳せる。きっと喜んでくれるだろう、喜んでくれなくても、まあいいだろう。

東京駅に戻るときも、サラリーマンがケーキの入った袋を左手に持って颯爽と歩いていく。ケーキとフライドチキン。これをアメリカ人に言ったら、みんな驚いていた。日本のクリスマスはカップルで過ごすんだよ。え、クリスマスは家族で過ごすんじゃないの。日本ではみんな KFC 食べるんでしょ。クリスマスは七面鳥とハムを焼いて、クッキーにデコレーションするんだ。家族によっても、伝統的なクリスマス料理は結構違うらしい。

いつも新幹線に乗る前には、八重洲口にあるおむすび屋でおにぎりを買う。油分が欲しいのでツナマヨと、あと好きなからし高菜、そして爽健美茶 500mLを一本。これも伝統だ。爽健美茶も最近結構味を変えてきているという話だが、やはり少し味が変わったくらいでは関係ない。おむすびという言葉を使わないので、少しレア感が出るのかもしれない。

私はずいぶん伝統的な人間だと思う。もっと言えば、保守的でもある。政治的に、と言うわけではないが、個人的な好き嫌いとして、好きなものがわかれば、それに固執する、それが私を伝統的な人間たらしめている。クリスマスイヴ、帰国する、宅急便でスーツケースを送る、蓮沼執太フィルを聴く。八重洲ブックセンター。サンタクロース。ショートケーキとケンタッキー。偽物のクリスマスツリー。そこに偽物のデコレーションをする。おむすびを爽健美茶で流し込む。500mL。何もかも同じで、何もかも偽物で、それでもどうにかしてごまかして楽しんでいる。東京駅のサンタも、八重洲ブックセンター八階のサンタも、そして私も。

保守的でいいと思う。無理にポップなクリスマスソングを聴かなくてもいい。偽物でもいい。ちょっとずつ変えたいところは変えればいいし、変えないでいいと思うところを、今のところは変えなくていい。変えたいの必死で、それでヘマするより、自分のペースでやればいい。サンタにならなくてもいいし、なればなれでそれは素敵なことだと思う。でも、ならない人はならない人でいい。だから、帰ったらフライドチキンも食べるし、ショートケーキも食べる。それでとりあえずいいのだから。

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