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5.6章 歓迎するわ

「おっきーーーい!!」

「エブ子、敵陣なのわかっていますか?」

「うん。わかっているよ。でも、それにしても、大きすぎじゃない?」

「確かに、この無駄に広いエントランス。まるで持ち主が自分の権威を示す為に拵えた様な仕上がりね」

「あら、余りお気に召さなかったみたいね」
そういって、対岸沿いから現れたソラナ
その腕には何も持たず、現れた。

「丸腰で現れるなんて、大丈夫?」
それは、挑発だったのか。
イーサの一言が広いエントランスに響き渡る。

「丸腰で。ね。そういうあなた達も丸腰じゃない?」
「何か用意はしてきたようだけれど。武器らしきものは見当たらないわね」
「これから、生き死とCOSMOSを掛けた戦いをするのよ。そちらこそ、大丈夫なのかしら?」

「心配ご無用よ」
そういって、イーサは、丹田に力を入れる。
自然体の構えを取る。

「なるほど。自分の体が最大の武器というわけね」
「相も変わらず脳筋ね」
「わたくしがコスモス上に配置した建造物、あれを一時的にでも破壊した秘密兵器でも、もってきて射出すればいいものを」
「そうしたら、一瞬で勝負はつくのではなくて?」
ソラナも、イーサに負けじと挑発する。
超兵器の一つでもあれば、あなた達に勝ち目はあるかもしれない。そう付け加えるように微笑みながら。

「確かにそうかもしれないわね」
おちついて、イーサが答える。
「でもね。こっちの方が、信頼できる武器だわ」
そういって、拳を握り自分の前にかざす。

「ほんっと、そういうところ。潔いわね」
「でも、だからこそ、好きよ。あなたのそういうところ」
「わたくしも、全力で行くわ。10秒、持たせなさい」
そういうと、ソラナがトランザクションを放った。

それが死合う合図

イーサが自然体で滑走する。
ソラナまでの距離を詰めようと。
自らの拳にコントラクトを纏い、それを放つ様に拳を突き出す。

パリンっとガラスを砕くような音が空間にこだまする。
それは、二人の間の空間に入った亀裂。

亀裂から噴き出す炎
それを纏ったソラナ
彼女の体を甲殻が覆っていく。
まるで巨大な2足歩行のカブトムシの様な甲殻。
しかし、ぴっちりと人型をしたそれは、まるでロボットの様な姿。
カブトムシの顔を思わせるような頭部が機械的に光り、右手を横に突き出す。
突き出された手は、空間を打ち破るようにその中から武器が顕現する。

超巨大なブロードソード
それが炎を纏い、赤色に輝く。

赤色の超巨大な剣を構えたメカニカルなカブトムシ型のロボット。
それが、今のソラナの姿だった。

拳を突き出していたイーサ
その拳を剣を構えていない左手で振り払う。
空中に静止していたかのようなイーサが地面へと衝突したのはその次の瞬間だった。

「ぐっ!」
「何が!」

「全力でいくわ」
ソラナの声だけを残して、その体は消える。
地面に衝突したイーサは、その体を横に回転させる。
その直後、彼女のいたところに大きな溝が形成されていた。
ほぼ、直感で全てを躱す。
いずれもが必殺の一撃に等しいもの。
強固な存在確率を保持するエントランスの素材が砕ける。
イーサが跳躍するごとに。

ちがう。
ソラナが不可視の一撃を見舞うごとに。
彼女のスピードが余りにも早く、目視する事すら許さないのだった。

(うそでしょ!?これ、ソラナなの?)
(全然違うじゃない!)

次々に繰り出される一撃を躱すだけで精一杯のイーサ
1秒にも満たない時間での攻防。
いや、圧倒的な速さで繰り出される攻撃を防いでいるだけであった。

「あなたも、もっているのでしょ?奥の手」
「さっさと使いなさい。そうでないと殺してしまうわよ」
ソラナの声が動作よりも遅れるように聞こえてくる。

「っ!!」
ジャンプし、一気に距離を取る。
心の中で全てのコアを融合させるよう指令を出す。
瞬間、機械のような鎧の様なものがイーサを覆い始める。

「ふーん。やっとね。でも、させると思って?」
そういうと跳躍したソラナが剣をイーサに降り下ろす。
その一撃は、先ほどのものよりも更に重く、鋭いものだった。
赤色を帯びた刀身は、熱を周りに放たず、その全てを敵対したものへと解き放つ。

「いい一撃だったわ」
「もう少し遅ければ、やられていたわね」
そういうイーサは、満面の笑みで、剣を片手でつかみ取っていた。


(ふたりとも凄すぎて、よくわからない)
(でも、イーサさん。すごい!!ソラナちゃんの一撃を受け止めるなんて)
エブモスは、二人の動きに反応できずに立ち尽くしていた。
いや、そもそも、刹那の時間に行われていること。
その世界に立ち入る為には、二人と同じ思考スピード、移動スピード、そういったものを持っていなければ認識すら出来ないものだ。
現に、エブモスがかいた汗は、地面に到達すらしていない。
空中で止まったままだったのだから。

そんな彼女が、ソラナとイーサの戦いを見ることが出来ているのは、天性の目の良さに他ならなかった。
トランザクションが打たれる合間、ブロックタイムが刻まれる瞬間。
それすらも捉える瞳。
ただ、反応が出来ないのでは、何もできない。
そんな彼女がここに居る意義。
それは。

『イーサさん!!がんばって!!』
応援の為であった。
しかし、ただの応援ではない。
コスモスの全意識体を代表した応援だ。

「もちろんよ!これくらいで負けはしない!!」
そういうと、ソラナの剣を握った手に力を籠める。
刀身が鈍い音を立ててひしゃげた。

「こっっのお!馬鹿力!!」

「おほめに預かり光栄だわ」
そういって、装甲を纏った左足で蹴りを放つ
それは、ソラナの腹部を捉え、打ち抜いた。
ソラナは吹き飛ぶも、両足で地面へと着く。
着いた箇所から、地面が抉れる。
まるで、鰹節の表面を削るかのように地面を構成していた物質がめくれ上がった。
そこから、10m、ソラナは地面をめくりながらも勢いを減速させ体制を整える。
手からは、超巨大剣の柄だったものが零れ落ちた。

「とんでもない馬鹿力ね!」
イーサが繰り出した蹴りのインパクト
その瞬間、ソラナも防御したのだ。
超巨大剣の柄を使って。
直撃は免れたもののロボットの様な装甲には罅が入っていた。

零れ落ちる超巨大剣の柄、しかし、それに紛れて放たれるイーサの右ストレート
イーサは、ソラナが飛ばされると同時に飛んでいたのだった。

「これは、スピードを上げる必要がありそうね」
ソラナは瞬時にトランザクションを発動させると、周囲一面が銀色の光に包まれた。

光と共に発生した爆風が周りの全てを薙ぎ払う。
エントランスの頑丈な柱やオブジェクトも全て消し飛ばしていた。

「ふーん。イーサとエブモスは無事なのね。流石というかなんというか」

イーサは持ち前の動体視力と身体能力で、爆風が発生するよりの早く体を後退させ受け身を取っていた。
エブモスは、なぜ?という顔つきで立ち尽くしていた。

「なるほどね!ヴィタリックの置き土産。やっかいね」
ネイルが強く発行し、力場を形成しており衝撃は届かなかったようだ。

「まだ、3秒もたってないわ。倒れないでね」
そういうと、ソラナは跳躍した。跳躍と同時に手に持った両手に持ったハンドガンでイーサを狙う。
一足でイーサのいる場所へと至る瞬発力もさることながら、正確無比な狙い。
ハンドガンから放たれる銀の弾丸は、イーサの顔面をとらえ、彼女の裏拳により弾かれる。

「そんな飛び道具!今更!!」
そういって、左手で救い上げる様に鞭打を放つ。
それは、イーサに向かって放たれた弾丸を絡めとり落とし、更にソラナの右肩を直撃する。

「っ!!」
鈍い痛みがソラナの体に生じる。
衝撃だけが、装甲を通し彼女の生身の体に伝わる。

「やるわ、ねっ!!」
だが、彼女もやられてばかりではない。
構えていたハンドガンを握りなおし、彼女の腕に降り下ろす。
腕を直ぐに引くことが出来ない状態で、上からの鋭い一撃を受けるイーサ。

「つっぁぁ!!」
装甲ごと打ち砕く一撃だった。

「だからといって!!」
ダメージを受けた左手を他所に体の重心を移動させ右手で掌底を放つ。
それをソラナは左手に持っていたハンドガンで防御。
パァンという甲高い音と共に銃身が破壊されるも左手の無事を確保するソラナ。
2人は、互いに距離を取るように後ろへと跳躍した。

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