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grass-15

小さな部屋で、本を開きながら緑色の髪の少女が呟く。
「ねぇ。ほんとにそれ必要なのかな?」

「必要です。あの分からずやを説得するには、『このくらい』強いインパクトで事を起こす必要があります」
少女の前に置かれた本から、声が響く。

「だとしても、これはかなり、オーバー」

「そのくらいしないと、です!」

「ねぇ、こんなにボットを呼んだらgrassの畑に被害がでちゃうよ」
「それじゃ、元も子もないんじゃない?」
そういって、ノートに走り書きした計算式を本の方に向ける。

「うっ」

「まさか、計算してなかった?」

「そ、そんなことは。この私。grassは、グラスと分かたれた『頭脳』『理性』を司る意識体ですよ。演算は基本中の基本です!』

「じゃあ、なんで、そんなに声をあげてるの?」
その質問に詰める意図はなく、ただ、そう感じたから言葉を紡ぐ緑髪の少女

「あいつに負けるわけにはいかないんです!」

「思いっ切り感情的じゃない」
理性はどこにいったの?と小首を傾げながら言う少女。

「だって、あいつは」
理性をかなぐり捨てて語り始めるgrass

「いいよ、そういうの」
「誰だって、あるのだから」
「それより、そうしたい理由。あるんでしょ?」

「それは、もちろん」

「意味だってあるんでしょ?」

「勿論です。ここを制圧することで」
そういって、図式を空中に投影し説明を行っていくgrass

「なるほど。ちゃんと意味あるね」

「はい。私は、意味の無いことは致しません」

「だとしたら、これの意味は?」
そういって、無数の後続部隊や自身が登場するフェイズの話しをする。

「最初から全力の方が効率がいいよ」

「それだと、絶望感が演出できません」

「それ、必要?」

「はい。グラスに一泡吹かせてやるんです」

「はぁ。それ重要なのね」

「はい。私にとっては!」

「正直だね」
いいよ。わたしも貴女に『呼ばれた』身だもの。
そう答える緑髪の少女。

「わかってくれましたか!」

「うん。貴女のこと。誤解していたわ」

「それはどういうことですか?」

「結構、感情的」

「なっ!この理性の塊である私に感情的だなんて」

「もう、ばれてるから。でも、そういうの好きだよ?」

「ありがとう、ございます?」

「正直になれず、結局、終わってしまった。そういうこともあるから」
そういって、ここではないどこかを見つめる様に遠い目をする緑髪の少女。

「ならば、これで、納得して頂いたということでよろしいのですね。フィー」

「うん。心残りが無くやるのが一番だからね。grassの方針に協力するよ」
そう、フィーと呼ばれた緑髪の少女は締めくくった。

=====
「んーー、こういうのは、いつもクレセントとかソラナの仕事だったから、肩こっちゃった」
そういって、うんしょうんしょと肩を回した後に伸びをするフィー

ピー、ピピピ、ピー
いくつもの鳴き声が聞こえる。
それは、馬小屋の様な場所だった。
といっても、その広さは尋常じゃなく広く、入口と対になる壁が見えない。

「みんなー!お腹空いてるとこ悪いんだけど。ちょっとだけ待ってね!」
そういって、フィーの背丈やりも長い草をまとめて彼女は運ぶ。
アウトドアワゴンをもっと大きくした様なしっかりとしたワゴンに草を詰めこむ。
詰め込むと走り出す。
甲高い声がした方に。
暗闇に光る無数の赤、赤、赤。
夜空の星の様な数多の赤。
それらは、自然光を受けて、その正体を露わにした。
暗闇の中、星の光を受けたそれは、大きな甲殻を晒していた。

「みんな、大丈夫?傷は癒えたかな?」

返事の代わりに、『ピー』だの『ピキー』だの甲高い音が聞こえる。

それらに耳を傾け、意味を理解しているのか、頷きながら満面の笑みを浮かべるフィー。

「よかった!なら、大丈夫だね!」
そう答えると、緑の草を彼らのもとへと運んだ。
草の山があっという間に出来る。
それは、フィーの速さと力が生んだ結果だった。

草の山へと群がる沢山の赤い瞳

「ボットだからって、空腹を押さえられるってわけじゃないもんね!」
そう呟き、彼らの背中を撫でる。
心地よいのか、プルプルと震えるボット達。

「ほら!そんなに慌てない。食べ物は逃げないよ」
そう言って、次々と消化される緑色の草の山に追加で草を盛っていく。

「みんな、まだまだあるから、そんなにあわてないでね」
そう答え、給仕するフィー
彼女が用意した、山の様な大量の草はあっという間に食べつくされたのだった。

ボットの内の一体、芋虫の様なそれの腹に頭を預けて、寝転がるフィー
まるで、枕の様にして、寛ぐ。

(なんで、こんないい子達なのに『殲滅』しようとしているのかな。グラスは)
他の甲虫の様なボットの角を撫でながら、瞳をうつらうつらとするフィー
何も知らないものが見たら、巨大な虫、ボット達の中に少女がいるという異様な光景。
だが、彼女もそんなボット達と同じだった。
いや、正確に言うのならば彼らを生み出したFetch AIの意識体として生まれた少女。
それが、フィーという少女の正体だった。

「って、何言ってるの?」

「何も知らないものがこの光景を見たらどう思うかと思い、私なりに言葉をつけてみました」
返すように氷の様な青い長髪を揺らしながら、180cmはありそうな長身の少女が答える。
その手には、古い図鑑の様な本を持ちながら。

「部屋でくつろいでいるんじゃなかったの?」
不思議そうにフィーが尋ねる。

「あなたがいつになっても来ないから、来てしまいました」
「やはり、というか、寛いでいたのですね」

「うん。なんか居心地がいいからね」

「それはそうでしょ。あなたと身を同じくしていたもの達なのですから」

「そういう言い方はないんじゃない?存在は、ひとつとして同じものはないんだよ」
プクーっとふっくら頬を膨らませながら答えるフィー
月明りに照らされた彼女の緑色の髪が、その存在を神秘的なものに引き上げる。

「まるで、自然の精霊みたいね」

「grassの意識体のきみに言われると不思議な気分」

「いいじゃない」
そういって、grassと呼ばれた少女は、フィーの隣に腰を下ろす。

「今日は、私もここで寝ようかしら」
横になる少女

「固いよ?床」

「あるでしょ?そこに最高の緩衝材が」
そういって、緑色の草を引っ張り自分の下に敷く。

「あっ!それあとで食べようと思っていたのに!」

「いいでしょ。貴女には、こちらを用意しました」
そういって、すっと、金属製の箱と保温カップを渡す。

「ありがとう。作ってくれたの?」

「貴女の帰りが遅かったから作ってしまいました」
気持ちムスっとした雰囲気で言い放つgrass

「ありがとう、grass」

「貴女のそういう、素直なところ、私は好ましいと思います」

「grassも食べよ!一緒に」
そういって、金属製の箱からサンドイッチの様なものを取り出し、半分に分けてgrassへと差し出す。

「私は、いいわ。これがあるから」
grassは、ポケットからタブレットを取り出し、振るとそこからは緑色の錠剤が出て来た。
それをひとのみ。

「それじゃ、味気ないよ」
そういって、差し出した手をそのままにフィー
ニコッと笑いながら、grassへとサンドイッチを手渡す。

「、ん。貴女がそう言うのならば」
氷の様に白い肌に赤みが射す。

「こういうのも、いいね」

「そうですね。偶には、良いものです」
その声は少し、楽し気だった。
そう、フィーは感じたのだった。

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