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3.7章 自己紹介

(-tx evmos scrt_INF / all)
(隠蔽空間を展開したから、何言っても大丈夫だよ!)
(ありがとう、エブ子)
市街地の温泉施設近くにあるカフェ。
南国のリゾートをイメージさせるような木々のオブジェや、サーフボードが飾ってあるお店。
エブモス達は、その端っこの4人掛けソファー席に3人で席を取った。

「はじめまして!わたしは、エブモスのエブ子っていうんだ。よろしくね!」
「こっちは、ノノ、私の友達だよっ!」
「あのー、お二人は、ネームドなのですか?」
「ううん、違うよー」
「えっ!あれだけのことが出来てネームドじゃないんですか!」
「うん。私は、番号無し。エブモスは、ちょっと違うけど私と同じ感じかな」
「ほんと?ノノさん達が退散させたのは、ただのナンバーズじゃないんです。ナンバーズでも上位の3人なんですよ」
「先ほどだって、No.2は周囲との遮断フィールドを使って作った疑似太陽で攻撃してきたんですよ!」
「それを真っ二つに割って、自身のエネルギーに変換して、攻撃にまで転じるなんて、No.1でも出来ない芸当です」
「だから、私、ネームドだと思ったんです」
「ネームドではなかったら、特殊な才能を持った特異体質の変異体なのですか」
私も、そう生まれたかった。
そう続けたいような表情で、彼女は語った。
それに対して、ノノは、少し呆れた様に、怒るように付け加えた。
「そんななんでもギフテッドだなんて、そんな都合のいいことあるわけないじゃない」
「私は、私の出来ることを日々、積み重ねてきただけよ」
「何も特殊な才能が有ったわけではないわ」
「寧ろ、扱えるリソースは他のフォーク体と比べたら、少ないくらいなの」
(-tx eth light / spot)
詠唱すると、ノノの指が光った。
「ほら、本来なら光の玉を出現させて周りを明るくするトランザクションで、私が出来るのは指を光らせるだけ」
「だから、特別な才能があったわけではないの」

そう締めくくろうとするノノにおさげの女の子は食い下がる。
「でも、あれだけ強力な攻撃をさばいて攻撃できるなんて、才能が無ければ考えらえないわ」
「だから、私、それが知りたいの。知って強くなりたいの。だから、教えてください!」

ノノは、困ったような顔をして少し考え、言葉を紡いだ。
「あなたには悪いけど、そんな一夕一朝に強くなる方法なんてないわ。そんな甘い話しはないの」
「日々の努力」
「これがあっての技なの」

「ノノ、そこに関しては厳しいよね」
エブモスが相槌を打つ。
そんなエブモスも、自身が特殊な体質故、人よりも何倍も長いトランザクションを編まなければ、現象として発動できない体質だった。
努力した過去があり、乗り越えた壁があったのだ。
そんなお手軽に強くなれる方法などないとわかるのだ。

それでも、と頼み込む彼女の表情は必至なものがあった。
だからこそ、エブモスもノノも、真剣に聞いていたのである。

ノノが言葉を選ぶようにいう。少しでもヒントになることはないか自身の体験を思い出しながら。
「うーん、私、使えるリソースがほんとに僅かだから、自分が出来る事を鍛えるところに対して手を抜かないってことしかできなかったのよね」
「トランザクションの組み方、体の動かし方。そういったところしか鍛えられなかったの。だから、鍛えた」
「逆にリソースが少しでも普通に使えるなら、鍛え方次第では努力の時間は、短縮できるわ」
「一緒に鍛錬、してみる?この街にいる間しか見ることはできないけれど」

「はい!是非!」そう、おさげの女の子は、元気に返事をした。

「じゃあ、この話しは、おしまいね。ノノいいかな?」
「で、クニちゃんは、この街の人なの?」
「クニちゃん?」そうおさげの女の子が答える。
「9210番だから、クニちゃん!」
「エブ子は、こういう子だよ、クニちゃん、気にしちゃだめだよ」
「クニちゃんは、どうしてこの街に来たの?」
「わたし達は、商売と人探しに来たの」
「人探し?フォーク体のイベントは?」
「それは、手段かな。人探しの為のフォーク体イベントかな」
「もし知っていたら、そういう情報が入ったら教えて欲しいなぁ」
そういって、エブモスは、シークレットとアトムの情報を共有した。
「そういった方には、会ったことはないですね」
「うーん、残念!」
「でも、ありがとうね!」
「お力になれずすみません」
「いいって、いいって!」とエブモスが笑う。
「あと、私、この街の意識体じゃないんです」
「ノノさんやエブモスさんと同じく、他の街から来ました」
「私は、自分について知りたかったから」
「私、9000番代で今まで、特に特徴がなかったのだけれど」
「フォーク体って、運命の日を迎えて代表が選出されたら、他の個体は、リソースレベルまで自然と分解されて残らないと言われているの」
「だから、その前に。運命のイベントがあるOPEN SEAに来れば、何かわかると思ってきたの」
「私が何のために生まれたのかって」
「でも、だめね。あんなことになってしまって。ノノさんにもエブモスさんにも迷惑をかけてしまって」
ごめんなさいと謝り、自然な流れで、どこから取り出したのかナイフを自身に突き付けて自害しようとするクニ、ノノとエブモスが急いで止める。
「あっ、あれは、事故みたいなものだから気にしなくていいよ!」
「それに、ノノのカッコいいところ、見ることができたし!!」
シャドーボクシングをしながら語るエブモス。
「ところで、そのナイフ。どこから出しているの?隠し持っている場所が全然わからなかったわ」
「これは、生成しているのよ。周囲のリソースを使って」
「えっ!!そんなことが出来るの?」エブモスとノノの声が重なる。
「別に大したことじゃないんだけれど」
そう謙遜するクニだが、ノノはそのナイフの出来をみて、そういうレベルの問題ではないと思った。
作り出された銀色のナイフ。まるで貴族の食事に使われるような食器、そのレベルの精巧な作りに装飾。そういったものが施されていた。
それを詠唱無しのトランザクションで作り出して、大したことないですなんていったら職人が殴りかかってくる。そういうレベルだった。
(しかも、ほっておいてもリソースに戻ることがなく、消え去るわけでもない)
作られたナイフは、元の形を維持し、今も机に置かれたままだった。
「他に作れるものはあるの?」
「刃物関係なら全て」
「・・・・・・すごい能力じゃないの!!」
「でも、作るだけで使いこなせるわけじゃないんですよ。ほら、ナイフだって私、武器として振るうことも出来ないし、剣や斧、槍を作ったって使えるわけじゃないし」
これには、ノノもキレた
「あーーーーー!!人が持って無いものもっていて!努力もしないでよくそんなことが言えるわね!!。最高じゃない何よ!私、9000番代だから出来ませんとか」
「これだけの能力があったら、鍛えればワンチャン、代表だって狙えるかもしれないのに!!」
バンバンと机をたたいて猛抗議するノノ
そこには、冷静ないつものノノはいなかった。
(シークレット君に隠蔽空間のトランザクション習っといてよかった)
「ノノ、ちょっと、おちついて」
「これが落ち着かないでいられますか!エブ子」
「刃物を無から取り出せたら、剣術にも槍術にも出来ます!しかも、ナイフなんてショートレンジ。はッ、まさかナックルも?」
「出せます」詠唱無しでナックルを取り出すクニ。
「なんてことなの!!」
テンションが高くなったと思ったら、急にうなだれはじめたノノ。
「うーー、私が修行してきたときにこの能力があればーー」
本気で悔しがるノノ、無いものねだりは意味がない。自分の持っているものを最大限に鍛えて今までやってきた自負はあった。
でも、そこに、ひとつプラスするだけで自分の戦略が広がる手段があったのだ。
それは、使えるリソースがもっと多ければなどと思い描くよりも、もっと手近なものだったからこそ、余計に悔しかったのだった。
「でも、私、刃物を出す以外に何もできませんよ?」
「あ!?」
「ノノだめ。女の子が出しちゃいけない声出てる」エブモスがフォローに入る。
「エブ子、ちょっと黙ってね。その前提が違うのよ!その前提が!出せたなら、使い方は学べばいいじゃない。努力したらいいじゃない」
「日常生活だったら、料理や漁で使用できるし、固いものの加工だって」
「でも」
それを聞いて、ひとしきり頭を抱えてうんうんいってるノノが、ふと動きを止めてひとこと言った。
「クニちゃん、でも、禁止!」
ピシっと、彼女の鼻に指を突き付けて、宣言するノノ
「あなたは、努力次第ではいくらでも化ける可能性よ」
まるで、オズモさんが乗り移ったかのように、熱く語り始めるノノ
「今までのあなたは、刃物を出現させるちからを磨いてきたの?」
「いえ、こんなちから、磨いても何にもなりませんから」
「それ!それよ!何よ!まったくもたざる者に対する嫌味なのそれ!?それ使う為の努力してきたの?こちとら、リソース不足で具現化なんて夢のまた夢よ!」
一気にまくし立てるノノ
「ノノさんは、あの武術と繊細なトランザクションは生まれつき身についていたものではないのですか」
恐る恐る質問するクニ
「さっきも言ったけど、そんなわけないでしょ!繊細なトランザクションはもともと使えるリソースの量が少なかったから、いかに効率よく運用するかを突き詰めた結果」
「武術は、それを護身用に改良できないか考えた結果。剣とかだと持っていなかったら使えないでしょ?それに武器って高いし、それだったら自分の手足を自由に使えるようにって身に着けたのよ」
「それも、一夕一朝に出来るすべではないわ」
「だから、クニの場合、もっとすごいことが出来る。だから自信持ちなさい」
その言葉は、きっと番号無しのフォーク体のノノの言葉ではなく。
職人、武術家としてのノノの言葉だったのだろう。
失敗を積み重ね、それでも努力して、形にしようとしたものの心だった。
エブモスが見たことない自信に満ち溢れたものだった。
「・・はい」
押される形で納得するクニ
「ただ、一夕一朝には出来ないんですよね。わたし達の運命は1週間後のイベントで決まってしまうのでは?」
暗に、わかったけれど時間が足りなすぎると言いたいクニ
「だから、チームを組むのよ。やり方次第ではどうにかなるわ」
「「チーム!?」」
エブモスとクニが反応する。

「えぇ、フォーク体選出イベントのチームよ」
「でも、仮に勝てたとしてもチームにフォーク体2名だったら代表が2人になりませんか?」
「でもは、禁止っていったでしょう?うん。フォーク体2名になるわね。ただ、チームに1名以上フォーク体がいてはいけない。チームが勝てばそこで終了というルールでしょ?」
「これは、わたしの予想なのだけれども、代表は複数でもいい可能性があるわ」
「一名という、くくりじゃなかったの?」
「全く異なる解決策なら許容される可能があるってことよ」
「さっきのナンバーズ、見たでしょ。それぞれの特徴は異なっていたわ。使えるトランザクションも。計測させてもらった結果からいうならね」
「それで同じチームなら、そういう可能性だってあるでしょう」
「それに」
「それに?」
「もし違ったとしても、私とクニが戦えばいいだけのことよ」
「そこは、お互い恨みっこ無しで」
「ノノそれは、かなり大胆だよ!」
「より、勝てる方法を取る。これが大切よ!」
「ノノ、すっかり大会に出るつもりだ。しかも、勝つつもりでいる」
すっかりスイッチが入ってしまったノノと、おいていかれる二人。
連絡先を交換し、その夜、ゼンにクニのチーム追加をお願いしたのだった。

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