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0.5 相談

「そうね。先ずは歌を聞いてみたいわね」
相談するなり開口一番にそう話すオズモ

「はなしが早いんだよ!さすが、オズモさん!」

「うーん。いいわねエブ子ちゃん。特別にお姉さまと呼ぶことを許します」

「その権利は、いらないかなぁ」

「えぇー」

「オズモさん、今は相談に乗ってるんでしょ。まじめにしなよ」

「お姉さん、もう少しくだけた感じがいいわ」

「オズモさん。今日の夕飯抜きね」

「もぅ、わかったわよ。シークレットくん」
「それで、『歌』の方は聞かせてくれるかしら?」

「はい」
そういって、華やぐ笑顔で答えるアヴェリア

「ねぇ、アヴァリアちゃん。ひょっとして、今まであまり歌って欲しいって言われてこなかった?」

「そんなことはないわ。私は歌姫。みんなに請われて歌う歌のお姫様」

「ほんとーー?」

「あなただって、私の歌に聞きほれていたでしょ?」

「うーん。それは、確かに」

「そういうことよ」
納得いかない様な表情のエブモスを背景にアヴァリアが歌い出す。
その歌声は、音域を超え、微弱だがはっきりとした振動を周りの空間にもたらした。
次々と伝搬するそれは、オズモのコアへと響き。

「うそ」
オズモの頬からは涙が伝っていた。

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「具体的に言い表せないけれど、泣きたくなったのよね」
「なんといったら、いいのかしら。原初の感情?私達の意識よりもはるか底深いところが揺さぶられて出て来たような感じがしたわ」

オズモらしくない、主観的な感想
そして

「イーサさん。今のデータとれたかしら?」
ちょっと見せてくれない?とアヴァリアの歌を解析し始める。

「うん!なるほどね」

「わかったの!?オズモさん」

「ええ。アヴァリアちゃんの歌声は、私達のコアに働きかけるのよ」
「そして、詰まってしまったリソースを振動させて、洗い流し排出しているようね」

「すごい!!」

「それと差し替える様に、僅かに空いた領域に振動子を組み込んでいるわね」
「これは、何か演算する為のものね」
「私達のコアの一部を使って行う計算」
「何を行う為のものなのかしら?」
わるい笑みを浮かべながら、アヴァリアへと尋ねる。

「気付いてしまいましたか」

「ええ、気付いたわ。ただ、これが致命的に悪いものとは思えないのだけど。そこのところどうかな?」
リソースが詰まっていた部分を解放して、使用しているのだから悪いものではないのだろうけど。
と、続けるオズモ。

「ちょっと、それ、敵意があったらどうするつもり!?」
シークレットの問いは、もっともだった。
ほんの僅かとはいえ、コアの一部が相手の制御下に置かれる可能性があるのだ。
それを使って悪いことをしないとは限らない。

「そのときは、そうね。平和的にイーサさんに解決してもらうわよ」

「えっ、私が?」

「そうそう。ほら、こぶしで語るのは得意でしょ?」

「確かに。それならば!」

「ちょっとちょっと!イーサさんも反応しないの!」

「シークレット。こぶしを交えればわかり合えるものよ」
「そうでしょ!アヴァリアさん」

「ええ、こぶしを交えれば」

「なんか、二人の会話がびみょーにかみ合ってない気がするんだよ」

「そうだね。と、そうじゃないでしょ。イーサさんが何とかするって、そのイーサさんが制御されてしまったらどうするつもりだったのさ」

「シークレットくん。その心配はないわ」

「何でなの?」

「それはね。イーサさんが特殊であることは知っているでしょ?」

「それは」
イーサリアムの世界
そこで巡り合った複数のフォーク体達
そして、イーサ自身の過去
彼女の心臓部であるコアが特殊であることは、イーサリアム世界の異変に挑んだシークレット達にとっては自明の理だった。

「だけど!」
根拠に足りないのでは。
そうシークレットは言いたかったのだ。
もしもの時を考えた対策はしなかったのかと。

「そんなのしているに決まっているでしょ?」
「イーサさん」
そして、話をイーサにふるオズモ

「ええ!対策はバッチリ」
そういったイーサの腕を見るとびっしりと紋様が浮かび上がっていた。
体中にコントラクトを張り巡らせ細胞レベルでトランザクションを発現させる。
彼女の技

「すごいのね。あなた」
それを見て感心したのか、ほえーとした表情でイーサを見つめるアヴェリア

「わかる?」

「ええ。ジャンルは違えど。一つの事に打ち込んだ身ですもの」

「そう。いいわね。あなた。今度お茶しない?」

「ええ、是非」

「盛り上がってきたわね」

「オズモさん、楽しそう」

「ええ、楽しいわよ。だって。ねぇ」
「『ユニット』を組む二人が仲がいい方が面白いもの」
「いえ、最終的には力を合わせた方が面白いかしらね」
メガネを光らせ、くいっと縁を上げる仕草をするオズモ
明らかにやっていることが黒幕のそれだ。

「どういうことですか?まだ、『コアの一部』を乗っ取るというのには、僕は納得のいく回答は得てませんよ」

「それね。シークレットくん。それならば、問題ないわ」
「あなた、まだ、コアの近くに違和感が有ったりする?」
そういって、そっと、シークレットの胸元に手を当てるオズモ

「すごい。コアの脈動が聞こえてきそうよ」
艶やかな表情で、シークレットのコアがある胸元をなでるオズモ

「なっ!!なんてことを兄様にするのですか!!するのならば、この私が引き受けます!」
そういって、シェイドが割り込む。

「まぁ!なんて、お兄さん思いな妹さん」

「って、やめてくれませんか!オズモさん!本当に夕飯抜きですよ!」

「ええーーーー!それは困ったわ。勘弁願いたいわ!」

「ふざけるのは大概にしてください」
「僕も、怒りますよ」
静かにそう告げるシークレットの背中は、かつてアラメダリサ―チの暗殺者として暗躍したときのそれよりも凍り付いた空気を放っていた。

「わかった。わかったから!そんな綺麗な顔で、怒るのはやめて!怖いわ。怖いわよ。シークレットくん」

「だったら、真面目に説明してください」

「わかったわ」
「そもそも、彼女のコアに振動子を作成する行為」
「あれは、一時的な効果に過ぎないわ」

「一時的?」

「そうよ。シークレットくん。自分をスキャンで調べてみてくれるかしら?」

「いいですけど。なるほど」

「そう。気付いたようね。彼女が作った振動子は、消されているわよね」
「一時的にリソースが外に行くまでの間だけ形成されるのよ」

「それは、影響ないのですか」

「無いわよ。むしろ、固まり、溜まっていたリソースが掃けたことによってエネルギー循環が良くなっているはずよ」

「確かに」

「だから、彼女の歌は、コアに響く。そして、体に良い。といいことずくめなのよ」
「ただ、このリソースと私達の一時的に形成された振動子であなたは『星』を創りたいのよね?」
そう言って、オズモはアヴェリアを見つめた。

「はい。それが私の願いだから」

「ただ、その為にはどうしても足りないものが、ね」

「それは何なのですか?」

「あなたならばよく知っていると思うのだけれど、『シルクちゃん!』」

「その名前は、シークレットです!」

「シルクちゃん?シルクちゃんって、あのアイドルの?」

「そうそう、エブ子ちゃんよく知っているわね」

「だって、有名だもん!でも、男の娘なんでしょ?」

「さぁ、それはわからないわ。中性的なのが彼女の魅力よね」

「うん!」

(エブモスになんてこと言ってくれるんですか!オズモさん)

(えっ、もう周知の事実じゃなかったの?)

(しらばっくれないでくださいよ!)

「何二人で話しているの?」

「何でもないよ!エブモス」

「変なシークレットくん」

(僕がシルクちゃんであることは、内緒ですからね)
(いったら、ずっと、食事抜きです。オズモさんの分は作りません!)

(わかったわ!この話は、ここでお終いにしましょ)

「さて、アイドルということでわかったと思うけれど。彼女には知名度がないわ」

「知名度?それがないと!あっ!」

「そう。コンサートを行うといっても人が集まらないわ」
「彼女の願いには多くの意識体のリソースや振動子による演算が必要よ」

「願い」

「うん?」

「願いというの。あなたが『振動子の演算』といったこと。それは、私の小さなノードの願いなの」

「『願い』ね。いいわね!いい!アイドルっぽいわ!益々気に入ったわよ。あなた!」
何が気に入ったのか、かつてない盛り上がりをし始めるオズモを中心にプロジェクトは走り始めたのだった。


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