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番外編:Celestia

「ちょっと、これ以上は危ないんじゃなくて!?お姉様!」

「大丈夫、大丈夫」
「Terra君が出してくれた理論値まで、大分余裕があるわ。それに、私の計算でも、まだ大丈夫よ」

「Terra君って、おい!お前にそんな呼ばれ方される筋合いはないぞ」
「我々は、あくまで仕事仲間だ」
「適切な距離を保つべきだ」

「んっもー、お堅いんだから。Terra君は」
「お姉さんの方が、君より人生の先輩だぞっ」
キランと、効果音が聞こえそうなウインクをするオズモ

「お姉様、今のはキモいですわ」

「どこが?この上なくセクシーでしょ?」

「甘すぎて胸焼けしそう。そういう意味でのキモさですわ」

「ソラナちゃんってば、相変わらずキツいのね」
「でも、それも可愛いところ」
ソラナの頭を撫で始めるオズモと、それを受け入れてしまうソラナ。
ただ単に先程のセリフが気に入らなかったようだ。

「オズモお姉様は、わたくしだけのお姉様。Terraには渡さなくってよ」

「おい!俺がいつ姉を受け入れたというのだ!そいつが姉だという事を!」
「それと、理論値だが。あくまで理論値だからな。危ないとお前たちの直感がしたら、ただちに実験をやめろ。取り返しがつかなくなる前にな」
それは、かつて、Terraの住んでいたブロックチェーン。
その上に作られた町一帯を彼1人のせいではないとしても、吹き飛ばしてしまった経験からくる言葉だった。

「わかっているわよ。ただ、今日しかないのよ。この、今、タイミング」
「全てが、噛み合っているこの時こそ、意識体を顕現させるタイミングなの!」

「お姉様、行きますわよっ!」
左手に銀色、右手に碧色の光を纏わせたソラナが叫ぶ。

「おいっ!まて、ソラナ!それをどうするつもりだ!?」

「こうしますわ!!」
「顕現させる為のリソースが足りないならば、強制的に外部から与えてあげればいいのです!!」
「オズモお姉様、お下がりください!」

「わかったわ!ソラナちゃん、お願いね!」
稲妻の様なものが激しく起きている装置から、オズモが離れ、代わりにソラナが前に出る。

「この一撃を持って、顕現しなさいっ!」
そう言って、ソラナは、左手と右手を組み合わせる。
ものすごい斥力が働いているのか、手はプルプルと震えていた。
しかし、それはなされ、2つの輝きが重なり合う。
光は、溶け合う様に集約し、極光の光球となった。

無数のコントラクトがソラナ手を駆け巡り、トランザクションが発動する。
古文書に出てくる様な文字と、アルファベットが入り混じり光球をコーティングする。

「吹き飛びなさいませ!」

「おぃ!今、なんで言ったソラナ!」

「掛け声ですわ!」

「物騒にも、程がすぎるだろっ!これ以上は、理論値の外だ!諦めろ!というか、辞めろっ!」

「諦めませんわ」
「これは、お姉様の悲願。活性化されたばかりのブログチェーンから意識体を即座に顕現させるという崇高なる試み」
そう言っている間にも、極光は更にその輝きを強めていく。

「おい!」

「それに、かつて生まれる予定だったエブモスのお友達」
「ここで、引き下がる事など、わたくしの選択肢には、ありませんっ!」
そういって、両手を勢い良く前に構えた状態から左右に弾く。
手に纏わせたトランザクションで、極光の球体を弾き、装置へと発射する。
着弾、そして、貫通。
空間そのものを破壊し、ブログチェーンまでのゲートを開いた。
その瞬間、光が満ち溢れた。

「眩しいわぁー」

「そうですね。お姉様。いよいよ、ですね」

「おいっ!良くこの状態で悠長なことを言ってられるなっ!!」
「余剰エネルギーの光で焼き尽くされているんだぞ!」

「それは、あなたがシールドで防いでくれているでしょ?だから、安心していられるの。ありがとうねっ。Terra君!」

「おまえのそういうところ、図太いと俺は思うぞ!Lunaも黙ってないで何かいってやれ!」

「私、お姉さんが欲しかったんです!」
「やりましたねっ!オズモお姉さん!」

「ええ、Lunaちゃん。成功よ!」
「私達の積み重ねの勝利」

「お前もか!?Luna!」
愕然とするTerra

「そんなことより、兄さん。シールド。更に重ねるわね。兄さんだけじゃ、出力的に難しいでしょ?」

「あ、あぁ。助かる。Luna」

2人のやりとりを他所に光が引いていく。
光が収まり、そこにあったものは、破壊され尽くされた機材だった。

「嘘っ!何も無しなの!?」
「Terra君、センサー!なんでもいいから拾ったら、教えて!」

「もう、既にやっている。だが、何の存在も感知出来ない。ソラナ。そっちは、どうだ?」

Lunaを帯剣したソラナに尋ねるTerra

「Lunaからのバックアップを得て探しているわ。けど、わたくしの方も収穫は無しね」
「ちょっと待って!?」

「どうした?何か妙な点があったらデータを共有しろ」

「急かさないでっ!」
「これは!?」

そこには、極光が物質化した砂
虹色に光る砂があった。 

「オズモお姉様!」

「不味いわね」

「そうだな。最悪の展開だな」

「「「意識体が逃げた!!」」」

「敵意があるか、まだわからんのだぞ!」
「だから、ここで、実験するという名目で許可が降りたのだ!」
「防衛部隊や特殊部隊がいる、このコスモス研究棟でな!」
「だが、これは」

「おこってしまったものは、仕方がないわ」
そう言って、連絡用のコントラクトを起動し繋げる。

「という事なの。私も後で合流するから、初動、よろしく」
そういうと、通信を切った。

「Junoに連絡したわ。Atomさんも近くにいるから、対策は直ぐに行われるわ」

「ひとまずは、安心か」
「して、お前は、どうする?」
促す様に尋ねるTerra

「もちろん、探しましょう!」
「さぁ!未知との遭遇よ!」
「みんな、準備は?」

「出来ていますわ!!」

「もちろん!」
「兄さんも、大丈夫でしょ?」

「お前らなぁ。まぁ、いい。乗り掛かった船だ。俺も乗ってやる」
Lunaだけにお前たちを任せらんしなと言いながらも、オズモのベルト付近にぶら下げられきらりと光るナイフ型デバイスのTerra

「さて、準備は出来ているし、出発しましょ!」
「はーい!」

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「ただいまー!!って、アバランチ姉ぇはまだ帰ってないっか」
どたどたと、階段を勢い良く登り自分の部屋のドアを開けるエブモス。

「えっ!?」

「こんにちは。そして。お帰りなさい」
そこには、蒼い髪をショートボブに切りそろえた少女がいた。
エブモスのベッドに腰掛けていた。

少し垂れ目、虹色の瞳をエブモスに向けながら。

「ティア、久しぶりだね」

「エブモス、やっと会えたわね」

「でも、夢で、意識体にはならないって言ってなかった?私は、みんなの内に少しずつ存在したいって」

「そうね」
「でも」
「気が変わったわ」

「なんで?」

「私を必要とした人がいるから」
「私、呼ばれたの。ここに」
そう言って、彼女はエブモスを抱きしめたのだった。

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