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grass-1

緑、緑、緑
見渡す限り、緑色

そこは、草が生い茂った草原

もっとも、それぞれの草が人の背丈ほどの大きさがある草原なのだが。

「刈っても刈っても、次々に生えてきて、きりがないんだよっ!」
「ソラナちゃん、これ、どうにかならないの?」

「どうにもならないわ」
「それに、いいじゃない」
「これは、『リソース』に加工できるのよ」

「そうなの?」

「そうよ。grassという、この地特有の名産品」

「grassで草だなんて。そのままじゃん!」

「わかりやすくて良いと。わたくし。思いますわ」

「確かに、そうだけど」

「ほら、エブモス。手が止まっていてよ。手を動かしながらでもお話しすることは出来るでしょ?」

「はーい」
手にした鎌を使い、危なげなく草を刈っていく。
体力の草を刈ったせいか、疲労が蓄積している。
手首も、付け根もピーンと張ってしまっていた。

「ねぇ、ソラナちゃん」
「なんで、鎌で刈っているの?」
「コントラクト使えば、早いんじゃない?」
「いつもみたいに、ばぁーーーって!」

「今更な問いね」
「それでは、『grass』」の品質を損ねてしまうからよ」

「損ねる?」

「そうよ」

「『grass』を精製すればリソースを作り出せる。そう、先程、話したでしょ?」

「うん」

「コントラクトから発動したトランザクションだとね。発動者の色を『grass』に与えてしまうのよ」

「それって、もんだい?」

「問題よ」
「色のついたリソースは、その色を付けたものしか扱えなくなってしまうのよ」
「それでは、商品としての意味がなくなってしまうでしょ?」

「確かに」
「私たちしか使えないものをお店に出しても、売れないね」

「そう」
「だから、こうして無色のコントラクトを内包した鎌で、物理的に刈り取ってあげているわけよ」

「なるほど!」

「おおーい」
深緑の髪色をしたおかっぱの少女が手を振っている。
彼女は、トラックに乗っており、荷台には、草が山盛りになっていた。

「すごい!この短時間にこんなに」
その少女は、ソラナとエブモスの近くに積まれた草の山を見て感嘆の声を漏らした。

「私とソラナちゃんにかかれば、こんなもんだよっ!」
エッヘンと、胸を張り、鼻を高くするエブモス。

「ほんと。すごいわ」
うんうんと頷く深緑色の髪の少女

「グラス。分量は、これくらいで十分かしら?」
ソラナが手を休めずに草を刈り取りながら話す。

「ええ。十分!ありがとうございます。ソラナさん」
そう言って、深々とお辞儀をするグラスと呼ばれた少女。

「後は、それをファクトリーへ運んでもらえると助かります」

「抜け目ないわね」

「えへへ」

「わかったわ」
「ほら、エブモス。そっち」
「布を広げて、持ちなさい」
「十分に広げて、そう。そうよ」
そういうと、ソラナは、細かな動作で布を操り、草の山を包み込んだ。

「すごーい!ソラナちゃん」

「このくらい、基本よ」
口では、そう言いながらも、頬を赤らるソラナ

「さて、行きましょう」
「グラス。そこの草。圧縮してもかまわないわよね?」
グラスの顔色が肯定の意を示しているのが見てとれたのか、返事を待たずにソラナは、圧縮を始めた。

「ソ、ソラナちゃん!」
「トランザクションは、使っちゃいけないって、さっき自分で言ってなかったっけ!?」

「トランザクションなんて、使ってないわよ。純粋な物理だもの」
「目を切り替えて、見てごらんなさい」

「えーと。あっ!」
コントラクトとトランザクションの検出に特化したモードに目を切り替えたエブモス
しかし、それらしきものは、検出されなかった。

つまり、ソラナは、高速で手を叩きつけ、それが纏っていた空圧で草を圧縮していたのだった。

「なんて、ちからわざ!」

「ええ」

「バカぢからソラナちゃん!って、いひゃいいひゃい」
余計な一言を言ったばかりに、頬をむにーっと引っ張られるハメになったエブモス。

「今のは、エブモスさんがわるいかと」
グラスも、援護はしてくれなかった。

「もう、エブモス。あなたは、一言多いわ」
そう言って、頬を引っ張る手を離したソラナ

「だってぇー。ソラナちゃん」

「だってじゃありません!」
ふんすっ、と頬を膨らませるソラナ。

「まぁまぁ、2人とも」
「せっかくとれたgrass。鮮度が落ちないうちに持っていきましょう!」
話題を変えながらも、促すグラス

「わかったわ」
そう言うと、圧縮した草を荷台へと置き、グラスの後の席に座るソラナ。

「エブモス、行くわよ」

「はーい!」
エブモスも、ソラナの隣に乗り込む

「しゅっぱーつ!」

「ノリノリね。エブモス」

「うん!」
満面の笑みで、前を指差すエブモスだった。

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