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4.62章 決戦_ジノ

フィーの銀髪混じりの黒髪がなびく
ジノを蹴り飛ばしたフィーは、間を空けずにジノへと走り拳を突き立てる。

「っつ、だから、どうしたというのさ」
冷や汗を浮かべながらも、フィーの一撃を受け止めるジノ

「まだ、終わりじゃないよ!」
そういいながら、彼女は体を捻り、そこから回し蹴りを繰り出す。
拳をジノの手のひらから外して勢いよく放たれたそれは、ジノの顔面を捉えた。

「」
声もなく、地面へと倒されるジノ。
トノサマバッタの様な外骨格は、ところどころが剥がれ落ちていた。

(どういうことですの?)
(まさか、そういうこと?)
しきりに頷きながら、何かを納得したようなソラナ

「なめるな!」
起き上がりと同時にジノが自身の外骨格を弾き飛ばし、フィーを跳ね飛ばす。
再度、外骨格を身にまとい、体勢を整えフィーへと迫る。
互角の攻防
いや、勢いではフィーの方が断然押していた。
それをジノは、持ち前の技術でカバーしていた。

(ジノの外骨格が、フィーの一撃を受けるたびに削れていく)
腰に携えた小銃で、ジノの外骨格を狙い撃つ。
フィーに当てない、ジノのみにあたるように狙われたそれは、高速でジノへと迫りその外骨格を小規模ながら破壊したのだ。

(これで、決定的ね)
(フィーがいるのならば、ジノにダメージを負わせられる)
(どういう原理かは知らないけれど、フィーがいることでジノへとダメージが通るようね)
 
ソラナはいくつかの素材をポシェットから取り出し何かを作り始めた。

「ニトロ!ちょっと、こっちに来て」

「おっけー、ソラナちゃん」

「これよ。できる?」

「できるよー!」

「頼りにしているわよ。ニトロ」

「まっかせて!」
そういうと、ニトロが消えた。
(姿を隠すためのトランザクション。普段ならば気づかれるけれど。今ならば)
フィーとジノを見ながら、にやりとわらうソラナ。

(問題ないわ)

「そんな攻撃がボクに通るとでも!?」

「通っているじゃん!」
フィーとジノの攻防は続いていた。
フィーが繰り出す拳や蹴りをジノが体捌きを含め巧みに体を使うことで、紙一重で避けていた。
拳や蹴り自体は避けれているものの、実体から派生する衝撃波がジノへと襲い掛かっていた。
紙一重で避けたはずの拳、その衝撃により、手の外骨格が剥がれ落ち、血が噴き出る。
躱したはずの蹴り、しかし、発生した衝撃波により、首筋付近の表面が切断される。

(なんだ、この驚異的な破壊力は!)
(ボットとの戦いもモニターしていたが、こんな攻撃力があるものだとは。観察できなかった)
(何が原因だ!)
(考えろ!考えて、この怪物を倒す為の方法をはじき出せ!)
ジノは焦っていた。
自らの攻撃は、通じない。
そして、体は徐々に再生能力が衰えている。
原因は、明らかに目の前の存在であることが推察できた。

(まだ、消えるわけにはいかないのだ)
(まだ!)

銀色の太陽は、その光を徐々に増していった。
それは、黒い彼女の外骨格を照らし、破損している部分を余計に目立たせていた。

「そこ、弱っているね!」
フィーの手がジノの肩を掴む。

(くっ、見誤ったか)

拳で来ると思い躱す体勢でいたものをフィーはわしづかみし、力を思いっきりこめ、引き裂くように下へと引っ張った。
外骨格もろとも、体が肩から腹に至るまで裂けた。
そのまま、フィーは、体を捻り、踵裏で思いっ切りジノの腹部に沿って蹴りを放った。
それは、破損し体力を消費したジノに避けられるものではなく、彼女の体を両断した。

「あなた、容赦ないの、ねっ!?」
言葉を言い終える前に、フィーは両手を組みハンマーの様に彼女の頭を叩き潰すように殴りつけた。
外骨格がはじけ飛び、彼女の頭部もろとも破壊が完了した。

「ソラナちゃーん、やりきったよー!倒したよー」
赤と黒の液体に濡れた手を横に振って、水滴を払った後、フィーはソラナへと笑顔で手を振る。

それはどこからした声なのか、空間に響くように聞こえてくる。
「容赦なさすぎるよ。そんな野蛮な闘法、ボットですらとらないよ」
「君は何者なんだい?フィーと呼ばれた誰かさん?」

「って、まだ倒れてないの!?」

「今は、ボクが質問しているんだ。ボクの質問に答えたらどうだい?」
「それとも、答えを返すことすらできないのかな?」
「急ごしらえの意識体だからしかたないのかなぁ!?」
馬鹿にするように笑いながら、言葉が紡がれる。

「急ごしらえって!あなたがフィーのコアを取るから彼女を助けるために移植したのよ!」
「あなたが原因の、身体的な特徴を取り上げて笑われる筋合いはないわ!」
何が悪いの!?とソラナは怒り、叫ぶ。
彼女にとって、フィーは味方であり友達だ。
だから、それをあざ笑った彼女の言葉が許せなかったのだった。

対して、フィーは、戸惑う様に。
先ほどの動きの激しさが嘘の様に立ち尽くしていた。

「ソラナちゃん、そうじゃないんだよ」
「私、ソラナちゃん達に合うまでの記憶がないの」
「多分、ものすごく未熟な意識体なんだと思う」

「フィー、あなた」

「お父さん、お母さん、妹、近所のおじちゃん、おばちゃん、赤ちゃん」
「色々、話をしてくれたじゃない!?」
「フィーの地元の名産品とか!」
「ブロックタイムの実が取れすぎるから、お酒を造るようになったとか!」

「ソラナちゃん。ありがと」
「でもね。全部、私にあったデータだったの」

「どうして?どういうこと!?」

「お二人とも察しが悪いようだから、ボクが応えてあげるよ」
そういうと、空間にコアの様な塊が出現しそれを中心として、塵が集まっていく。
それは、再度、ジノの形を構成したのだった。
外骨格も全て再生して。

「ジノ!あなたこそ何者なの!?」

「ボクかい?ボクは、意識体さ。クレセントやセンチネルと同じく古くに生じた意識体。そのうちの一つさ」

「嘘おっしゃい!」
「普通、意識体は、無からの再生なんて出来ないわ」
「あなた、何者なのよ」

「大体、予測は出来ているんじゃないかな?」
「しかし、ボクの予測もなかなかのものだった。まさか、フィー。キミが、Featch.AIの意識体だったなんてね」

「!!」

「Featch.AIって、何よ!?」

「ソラナ、ボクがキミにそれを教えてあげる必要性があると思うかい?」
そういって、大げさに手を広げリアクションするジノ
ジノの頭の装甲がはじけ飛ぶ

「野蛮だなぁ」

「何よ、あなたがむかつくことをするからよ」
短銃をジノの頭に向かって発砲したソラナが言う

「まぁ、何にせよ。ボクの予想が正しかったみたいだ。由来がわかったおかげで、彼女を無力化することが出来たよ」
そういって、ゆっくりとソラナ達の方へ歩みを進めるジノ

「随分余裕なようね」
短銃で彼女の頭を打ち抜きながら、話すソラナ

「そりゃそうだよ。だって、ボクを害する存在を無力化できたんだ」
「余裕に決まっているだろ。そして、キミ達はもう終わりだ」
そういって、両手を広げ外骨格を使用して球体を作り出す。
その中には、一瞬で火が灯り火球が形成されていた。
人工の太陽。
そういうにふさわしい熱量を放っていた。

「しかし、キミも諦めないね」
「あとは、ボクがこれを放つだけでキミたちは蒸発するのにね」
そういって、外骨格のロックを解除しようとして。

「なっ、ちょっとまて!」
ロックは、外れなかった。

「何を待つ必要があるのかしら?」
ソラナは、歩みを止めない。
歩みを止めたジノとは真逆に、力強く彼女に近付いていく。
人口太陽を形成していた外骨格を横切る際に余りの熱さにセンチネルが施した防御壁を貫き彼女の皮膚が焼ける。
しかし、そんなことは、気にも留めず彼女は歩く。

「ちょっと、まて。まってくれ。キミこそ何者なんだ」
「こんな状態で、ボクに近寄ってきて。何をするつもりなんだ!?」
身動きが取れない、しかし、普通の意識体に害することのできない自身。
そんな自分に顔色一つ変えず、眉一つ動かさずに近寄って来る少女。
自らの道を切り開く自然さで前進する彼女。
ジノは言い表せない不気味さを感じていた。

「ニトロ、ちからを回しなさい」
彼女が渡したNFT越しにニトロへと連絡する。
ソラナの体が、銀色に輝き始める。

「そんなに太陽が欲しければ、あなたにくれてやるわよ。間近で、見てきたらいかがかしら?」
そういった彼女の手は、力強く握られており、下から掬い上げる様にジノへとアッパーを繰り出したのであった。
銀色に輝く奇跡を描き放たれた拳は、彼女の外骨格にあたる寸前に開かれ彼女を空へ打ち上げた。
勢いよく投げ飛ばされたジノは、銀色に輝く一筋の光となり、空に輝く太陽へと吸い込まれ、そして、蒸発した。

「随分な大仕事を振ってくれたわね。あなた達」
クレセントの声が響く

「おかげさまで、上手く言ったわ。ありがとう、クレセント」

「そう言われたら、言い返せないわ」
「でも、めちゃくちゃね」

「めちゃくちゃじゃないわ」
「すべて、真実だっただけよ」
「それと」
そういって、フィーのもとに近付き彼女をぎゅっと抱きしめるソラナ

「フィー、あなたが何者であろうともわたくしの。わたくし達の大切な友達に変わりません」
そう優しく彼女に言ったのであった。

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