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4.88章 証

剣が槍が、ライフルの放つ弾丸がフィーを貫いた。

「」
発声器官も含めて見える場所が無いくらいの超過攻撃
フィーの体にはハリネズミの様に武器が突き刺さっていた。

「さて、これだけやれば大丈夫かな?」
そういったジノの声は、フィーには届いていなかった。

(私は、消滅したの?)
(眩しいくらいの光が溢れて、それから?)

『お前は串刺しにされて絶命しそこなっているんだよ』

(ここは?)

『おまえの内宇宙、まぁ精神世界ってやつだ』

(あなたは?)

『あたしか?あたしは、そうだな。ガントレットってお前たちが呼んでいるNFTの意思だ』

(NFTって、意識体があったの?』

『さぁな。ただ、あたしはそれがあったってだけだ。でも、そのままじゃ話せないからおまえたちの友人のカラを貸してもらっている』
どんな暗闇でも映える燃えるような紅の髪をショートに切りそろえ、超巨大剣を持つその姿は。

(アカッシュさん?)

『だから、銀のNFTの意識体って言っているだろ!?アカッシュだっけか、おまえたちの友人のカラを借りているだけだ』

(借りているのね。それで、その銀色のNFTさんが何でわたしの前にいるの?)

『それは、おまえ。ちからを貸してやろうとしているんだよ』

(なんで?)

『おまえなぁ、こんな状況なんだ。藁にもすがりたいんじゃないのか?』

(そうだけれど、気になってしまって)

『いいぜ。用心深いってのは生き残るためには必要だからな』
『あたしは、GNO-LANDの民意ってところだ』

(民意?)

『平たーくいったら、みんなの意見だ』

(大丈夫、それは知っているから)

『ったく。じゃあ、どうして不思議そうにしているんだ?』

(だって、急に出て来たあなたがみんなの意識を代表してって、わからないのだもの)

『だよなー。あたしも、そう思うわ』

(自分でも思っていたんだ)

『アカッシュが使っていた超巨大剣。おまえが最終的にもっていたろ?』

(うん。ニトロちゃんから渡されて持っているよ)
広げた手には、真っ赤な光が輝いていた。
抽象化された超巨大剣、その片鱗だった。

『それだそれ。アカッシュのやつが戦場で振るって来た剣だ。その中には、助けられたやつや救われたやつ。切り倒されたやつの思いがあるんだ』
『それと、ジノが皆をリソースに変えちまっただろ?そのときの叫びも入っているわけだ』

(なんで、そんなことになっているの?)

『それは、アカッシュがそれを使っていたからだ』
そういって、アカッシュの姿をしたNFTの意識体が指さしたところをなぞる。
すると、透明で丸い水晶が現れた。

(これは?)

『レコーダーみたいなもんだ。周囲の意思を拾う為のな』

(なんで、そんなものを剣にいれていたの?)

『さぁな?』
『あたしは、アカッシュじゃないから、わからないな』

(確かに)

『ただな、こう思うんだよ。これの持ち主は、助けた相手も切った相手も忘れたくないから持っていたんじゃないかってな』

(なんで?)

『おまえ、名前は?』

(フィー)

『いい名前だな。誰に着けてもらった?父親か?母親か?』

(ううん。友達)
(ソラナちゃんっていう大切な友達がつけてくれたんだよ)

『そうか。いい名前だ』
『じゃあ、もし、おまえの名前が無かったことになったらどう思う?』
『みんなの記憶から消える。そうなったらどうだ?』

(それは、いや!)

『そうだな。それは嫌だろう。だから、だ。』
『自分が助けられなかったものを忘れないように。助けるときに切り捨てたものを忘れない様に。こいつは、憶えておく装置を剣に付けたんだろうな』
『そうすれば、例え、誰もが。自分がいなくなって、忘れてしまっても。こいつは覚えているだろ?』
そういって、フィーの持つ赤い光を再び指さした。

(そういう意味が)

『あくまで予測だがな』
『だが、おかげで、あたしという意思が生まれたのかもしれない』

(そうなの?)

『ああ、なんせ、あたしには、記憶がないからな。全てが他者の記憶だ』
『ほれ』
そういって、NFTの意識体がフィーにコツンと自らのおでこをぶつける。
走馬灯の様に流れる光景
それは、フィーがソラナと初めて会った時の光景。
介抱されて見上げた空
打ち上げられた花火がとても綺麗だった。
彼女と再び見上げた花火、それもはじめてに負けず劣らず綺麗だった。
ソラナ、ニトロとの思い出。
そして、見知らぬ夜空。
幾つもの星が空を埋め尽くして、自身は階段を上りそれをニトロと見上げていた。
心には不安があった。
しかし、美しい夜空を彼女と眺めているとそれらは溶けていくようだった。
(これは、ソラナちゃんの記憶?)

『そう、色々なものの記憶が溶けあっているのが今のあたしの状態』
『そいつらが言うんだよ。おまえに協力してあげろって』
『誰もが、自分を忘れて欲しくないんだろうな』

『で、お前はどうだ?』

(わたしは、忘れられたくない!このまま終われない!!)

『おーけー。ならば、契約だ』

(契約?)

『おまえたち風に言うならば、コントラクトってやつか』
『ちからを貸す為に結ぶぞ』
『ほら、手を伸ばせ』

言われるままに、求める様に手を伸ばす。
すると、アカッシュの姿をしたNFTの意識体は、フィーに吸い込まれるように消えていった。
残された真っ赤な光。
NFTの意識体とフィーが同化すると、それは、圧縮され爆風と閃光を放った。

(眩しい)

(あなたも力を貸してくれるの?)
そこには、一振りの剣があった。
真っ赤な刀身に銀色の筋が入り、緑色のコアを備えた硬質な印象を与える装飾の無い剣
それを手に取ったところで、あたりが明るくなった。

『目覚めのときだ』
そういうと、アカッシュの声色をしたナニカは消えていた。

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