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3.76章 さよなら、キャプテン

「いったい何が問題だったのかなぁ」
「うまくやったとおもうんだけど」
「ねぇ、どうだと思う?」

「なんで急にそんなフレンドリーなのよ」

「だって、もうすぐ僕は死ぬんだろ。だったら、今際の際くらい、フレンドリーになったって別にかまいやしないだろ?」
小首を傾げながら、『あたりまえでしょ』みたいな表情でノノに言葉をかけるキャプテン

「あなたのそういうところが、私、嫌いよ」

「えー、ひどいなぁ」
「まぁ、どうでもいいけどさ」

「いいの?」

「僕の人生、もうすぐ終わるんだろ?だったら、些末なことだよ。それ」
「さてだ、僕としても気になることがあるから聞きたいんだけどさ。君、結局、何をしたんだい?」
「あんな逆転しちゃってくれてさ」
薄暗い空間を満点の星空が照らし自然光に包まれ話す二人。
ここは、キャプテンの意識の中。
ノノの拳がキャプテンのコアを捉えたひと時に起きた奇跡の場

「キャプテン、横着しすぎ」

「おいおい、それはないだろ。僕は色々奔走して事態を動かしたんだぞ」

「自分を鍛えてなかったわ。それと、そんなにやる気もなかったでしょ?」
「あったなら、最後に痛みをこらえて体当たりくらいできたと思うの」
「それで、私は終わりよ。だって、あなたの身体能力をもってすれば、そんなの簡単だったでしょ?」

「なんて脳筋な発想なんだよ」

「でも、それで覆せるってわかっていたでしょ?」

「あのさぁ、さも、それがだれでもできる様にいうところ。僕は君のそういうところ嫌いだよ」
「あそこまで押さえつけられて出来るのなんて君ぐらいだ」

「気合が足りないのよ。それと思い」

「また、思いか。君達は、まったく。いつもそれだ」

「思いは大切よ。物事を行う上でそれを完遂する為に積み重ねるの。行いを」
「そのときの継続する力に思いは必要なのよ」
「私だって、そうじゃなきゃ鍛錬を続けることなんてできなかったわ」
「ノノに対する思い、ゼロとしてノノを弔う、もう同じ思いはしない。させないって」

「うそつけ。それだけじゃなかったろ?君の場合は、楽しんでいた節さえ感じたぞ」
「なんだよ。あれ。殴り合いに行くときにあんないい笑顔しないだろ、普通さ。戦闘狂かよ」

「戦闘狂はひどいわ。ただ、私は、今まで積み重ねたものがどこまで通じるのか。拳を交え、競い合うのが楽しかっただけよ」

「それを世間では、戦闘狂って言うんだよ」
「まったく」
「僕の敗因は、君を敵に回したことだったのか」

「なんだ、わかっているじゃない」

「わかっていて誘導したとか。質が悪いな」
そういって悪態をつくと、彼は頬杖をつきながらため息をついた。

「で、結局なんだったの。PoWがやったこと。ほら、最後なんだからさ。僕の命も。ネタバレくらいしてもいいと思うんだよね」

「あなたに教える義理はないわ」

「おいおい、ひどいなぁ」

「あなたは、もっとひどいことをしたのでしょ?」

「そうかなぁー」

「自覚はあるくせにすぐにふざける。考えていないふりして思慮深いキャプテンさん」
「消してきたすべてのフォーク体とdappsの名前、最後の言葉、全部覚えているくせに」

「あぁ!そういうプライベートな部分へのハッキング、マジやめてくれるかなぁ!コアに触っているから出来るからってさぁ!」

「私には知る権利がある。他のフォーク体とdappsの敵討ちって意味でね。だから、教えてもらったわ」
「でも、そうね。それじゃ私も教えないと平等じゃないから」
「今回は教えてあげる」
「それに、PoWのこともあるし」
「彼女に感謝しなさい」

「なんでだよ」

「彼女、あなたのことずっと心配していたわよ」

「」

「で、何だったの?結局、あのアホみたいな強さはさ」

「キャプテンとフォーク体、dappsの経験値の共有を切らせてもらっただけよ」

「そんな出来るものなのかい?完成したとはいえ、フォーク体に」

「今の私は、ノノでもゼロでもないの。勿論、PoWでも」

「?」
「どういうことだ?」

「私には、ゼロとしてのコア、ノノのコアがあるの。それが、アトムのコアを介して融合した存在が、私よ」

「なるほど。それは、反則だな」

「あなたに言われたく無いわね」

「だけど、納得だ。それなら、『切る』ことは出来てしまうな」
「一人の意識体として完成した君、そこに2つの世界のコアが同調したのならば、それは、2世界の力を得ているといえる。かつてのPoWやよりも幅広い干渉能力を得ているはずだよ」

「そんな大したものじゃないわ。第一、その力、使うのに時間がかかりすぎて戦闘向きじゃないもの」

「じゃあ、どうやって君は僕を負かしたんだい?」

「単純な力比べをしただけにすぎないわ」
「あなたが奪ったフォーク体とMakerDAOの技量と経験をあなたから引き剥がした」
「その上で、殴り合ったに過ぎないわ」

「ははは!なんだよ。それ」
「まるで、僕の在り方みたいじゃないか」

「そうよ。あなたが行ってきたこと。周りを信頼せずに利用した。それを物理的に体現させてもらっただけよ」

「物理的ってのが物騒だね」
「事実、そのおかげで死にかけているわけだし」

「自業自得。いえ、あなたの業を清算しただけね」

「まぁ、いいさ。どうせ、消えるんだろ。で、どうするんだ。落ちてくるブロックチェーンは?」

「なんとかするわ」

「なんとかって。あんな巨大質量のもの。どうするつもりなんだい?」

「何?なんとかならないっていったら、どうにかしてくれるの?」

「まさか。僕には、そんなことは出来ないよ」

「落としておきながら、無責任ね」

「責任は、あったさ。イーサリアムの大地をまっさらにするね」

「そういう自分に都合よくいうところ、最後まで改めないのね」

「僕に改めてほしかったのかい?」

「そんなこと、あなたに期待しないわ。ただ、正直なところを聞きたかっただけよ」
「本当に与えられた義務感だけでやっていたのか、そこについてね」

「もういいだろ」
「ほら、太陽が登り始めたぞ」
「この話し合いの場も、終わりだ」
「僕は死に、君は現実に戻る」
「最後に良い残すことはないか?」

「それ、あなたが聞くの?」
「なんか、違くない?」

「いつもやっていた事だよ。習慣。だから、気にしないで。ただ、今回は僕が消える側なだけでね」

「じゃあ、言わせてもらうわ」
「あなたが落としたブロックチェーン、私たちが止めるわ」

「そうか」
そっと、頷き、言葉を受け取る。

「なら、早く行く事だね。じゃないと僕の願いが先に叶ってしまうよ」

「言われなくても!」
「じゃあね。キャプテン」

「あぁ、さようなら。ノノ」
「いや、イーサ。そう呼ぶのがふさわしいか」

「イーサね。その名前だけはいいセンスね。気に入ったわ。使わせてもらうわね」
そういうと、太陽が昇るとともにイーサの姿は、世界に溶け込む様に消えていった。

(イーサか。何故かそう呼ぶのが正しいような気がしてしまったよ)

(ノノでも、ゼロでも、PoWでもないイーサリアムの子)

(負けたのは悔しいけど、やれる事はやったし、少し休ませてもらうよ)

(っと、これは?)

(ははっ!返してやるか)
(びっくりするだろうなぁ)

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