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番外編: お見舞い

『ゆっくり寝て、早く治せよ!』
そういうと、ポルカドットは、アス太のマンションの扉に差し入れをぶら下げて帰って行った。
珍しくアス太が、倒れたのだ。風邪だ。
気怠げなテンションで、連絡してきたアス太に心配でポルカドットは朝一で、お見舞いに来たのだ。
ぶら下げられた差し入れを確認すると、高額の栄養ドリンクが入っていた。
『生薬も入っているからな、体の調子が悪いと感じたときは、高めの栄養ドリンクを飲むのがいいんだ!』
そう、ポルカドットが以前、徹夜時に話していたのを思い出した。
そこには、『早く元気になりやがれ!byポルカドット』と書いているように思えた。
(まったく、あの人は)
そういう、言葉にならないところで重要なことを言ってくる先輩に、感謝の念を感じ得ない。
それから、エブ子やアバランチさん、パラチェーンズも来たのだ。

そして意外な訪問者も。
『アス太は、育ち盛りだからな。きっちり食べて治さなければだめだぞ!』
うつしてしまうからと、断ったのだが強引に押し入り、食事を作り始めたのは、Junoさんだった。
『どうせ、まともに食べていないのだろ?』
そう言われると、断りずらかった。
『食べて、元気を出せよアス太』
そういうと、Junoさんは帰っていった。
正直意外だった。
Junoさんが来たのもそうだが、料理が。
(すごい)
すごかったのだ。
まるで、料理人かと思うぐらいの手際で昼食・夕食・翌日の朝食を作って行ったのだった。
昼食を食べたとき、その味にびっくりした。
病人用に薄味に調整しながらも、時にはスパイス、出汁を切り替えて使い食欲を失わせない工夫を凝らしたつくりだった。
(Junoさんとは、そんなに共通点はないんだけど)
(こうして、作ってもらえて、ありがたいなぁ)
アス太は、以前、Junoの率いるDAO大隊との共同演習の際、特務一課から派遣された際に色々と活躍したり、気遣いだったり、Junoのハートに弓を放ってしまった事を自覚していないのだった。
罪作りなパラチェーンだった。

(今度、直接お礼言わなきゃなぁ)
新たなフラグを立てようとしていることにも気づかないまま。

熱が引いたと思ったら、夕方へと差し掛かるとまた、出てきた。
免疫力が戻ってきたら証拠だった。
しかし、クラクラする。

ピンポーン、ピンポーン
音がする。
誰かが来たみたいだ。
クラクラし過ぎて、なんだか夢のなかのようだった。
ガチャっ。
鍵が開けられた。
構えようと立ち上がるが、熱の影響か、足元がしっかりしない。
外部からのダメージに対しては、訓練を受けていかなる時でも最低限、受け身が取れる大切を確保出来るように鍛えている。
しかし、内部から来るダメージは別だった。
慣れない違和感は、彼の足元を不安定にしていた。
ダメだ。倒れそうになるアス太。
『あぶない!!』
そう言って、鍵を開けた不審者?は、彼を受け止める。
(あぁ、柔らかい感覚があたる)
(低反発マクラかな?)
思考能力も低下しているアス太。
その実は、膝枕をされている状態なのだ。
『ちょっと、ゆっくり、横になっていてね』
そういう声は、どこか聞き慣れたものだった。おっとりしていながら、意志の強さと年上の女性の雰囲気が合わさった感じ。
『オズモ、さん?』
『アス太くん!気がついたみたいね。よかった!』
不審者の正体は、オズモさんだった。
『鍵は?』
そう聞くアス太に対して。
『返事がなかったから、開けさせてもらったわ』
『もしものことがあってからじゃ遅いでしょ?』
彼女なりの心配の結果だった。
だからといって、ピッキングしていい理由にはならないが。
しかも、プログラム式の最新の鍵だ。
だが、オズモにかかれば、鍵がかかってない扉も同然だった。
『薬を作ってきたわ』
『ポルカ君から聞いた症状と、彼に付着していたウィルスから分析するにかなり悪性のものね』
『長引く上に、熱の上限が高い』
『とても厄介なタイプよ』
『これ、朝昼3錠飲むこと』
『とりあえず、今夜飲めば明日には平熱に戻るわ。飛沫からの感染も同時に防げるわ』
『つまり、明日から復帰出来るってこと』
とんでもない特効薬をサラッと提供するオズモにクラクラの頭ながらも、有難いという感情よりも、何なのこの天才と思うアス太だった。
だが、熱がぶり返してきたアス太にとって薬を飲むという行為だけでも難しかった。
『症状が進行している様ね』
『なら、この方法しかないわね』
そう言って、水と薬をオズモさんは口に含むとそのまま、僕に口付けた。
(何がおこっているの??)
熱と、あまりの状態にアス太の頭がオーバーヒートする。
(ちょっ、舌入ってきているんですけど!?)
目を開けると、オズモさんのメガネが地面に落ちていた。
『これで、よしっと』
『からだが震えているみたいね』
アス太に薬を飲ませると、オズモは、そう言うやいなや。
『風邪というものは、誰かに移してしまうと早く治るといわれているわ』
含みのある言葉。
『あと、寒い時は人肌で温め合うのが一番良いと言われているわ』
続く不穏な発言。
(それは、ちょっと!!?)
流石に恥ずかしいのか、ちょっと待ってくださいと言う様に口を動かすアス太。
熱が酷いから、声が出ない。
『もう、逃げられないぞっ⭐️』


酷い決め台詞を放つオズモさん。
これは、覚悟を決めるしかなかった。
何をって?アス太の貞操の覚悟だよ。そんなの。
狭まっていく視界。
薬の睡眠成分が効いてきたのだ。
(ここで、眠ったらいけない)
(眠ったら)
(確実にたべられちゃう!)
だが、そんな抵抗も虚しく、眠りに落ちていく、アス太。

(さて、やりますか)
そう思うや、タオルと温かいお湯を用意しアス太を拭き始めるオズモさん。
(こんなけ汗かいちゃって、そのまま寝たら余計に悪化してしまうわ)
一通り吹き終わると、新しいパジャマに着替えさせ、簡易乾燥装置で乾燥、殺菌していた布団にアス太を寝かせる。
氷枕と氷嚢を用意して。
その手際の良さは熟練の看護師を連想させるものだった。
『これで、明日の朝には、完全に回復するわね』
そういって、部屋を後にする前に。
『忘れものをしていたわ』
そういうと、アス太の額にキスをして『早く治ってね』と言うと、オズモは、部屋を後にした。
開錠した扉は、元通り施錠して戻ったのだった。

その夜、アス太は夢を見た。
夢にはオズモさんが出てきた。
内容は、秘密にしてもらえるとアス太の精神衛生上嬉しいかな。
がばっ
右、左、自分の横を確認して、オズモさんがいない事を確認して。
ほっとしたような残念な様な気持ちになった。
そして、昨日の一部始終を思い出した。
口移しで、薬を飲まされたことが頭をよぎる。アス太が上手く薬を飲み込めなかったからか、それをオズモが舌で押し込んだ。
その感覚が蘇る。
まるで、燃えるような感覚。
恋人同士の様な行為。
そんなことではないと思いながらも、全てを流しきれるわけじゃない。
だって、ほら、そこはアス太君も男の子だからさ。少しくらい期待したっていいよね。
そういう時だってあるさ。
と、少し残念に思いながら視線を枕に向けると氷枕、そして先程まで乗っけていた氷嚢を見つけた。
『今度、きちんとお礼しなきゃな』
そう思った。
氷枕の横には、メモがあった。
そこには、薬の飲み方が書いてあった。
1日3回絶対飲むこと、と赤ペンで大きく書かれていた。
オズモさん印のオーダーメイド薬
そのおかげもあって、体は完治していた。
『今度、絶対、お礼しなきゃ』
そう強く思うのだった。
と、そのとき、紙の裏の文字が透き通って見えた気がしたので裏返すと続きが書いてあった。
『机の上を見てね。おかずを置いておいたわ』
『ちゃんと治ってから、しましょうね』
とだけ、書いてあった。
主語は書いてなかったけど、なんとなくわかってしまった。
『あぁぁー』
理性と自分のベクトルと周りとの思いとしっかりしなきゃというところと本能が喧嘩する。


わかるさ、アス太、誰だってそうなるよ。
君はよくこらえてると、思うよ?
とりあえず、体調は万全、職場に行く支度をしながら机の上を確認すると。
(女性ものの下着があった)
『返さなきゃな』
本能を理性で押さえつけたような低いテンションで、そう呟いた。

体調不良よりも、復帰してからの試され方が半端ないアス太君。
がんばれ!

『おぅ!アス太、もういいのか?』
『だいぶ顔色がよくなったな!』
兄貴分兼、上司のポルカドットが声をかける

『その節は、ありがとうございました!』
『おかげさまで、僕はこの通り!』
力こぶを作って元気になったアピールをするアス太。
『あぁ!回復したようだな!』
『だが、あまり無理すんなよ』
そう言って、彼の顔にひんやりした瓶を押し付けた。

『もう、大丈夫ですよ!』アス太
『なぁに、出世払いだ。遠慮なく飲め!そして、早く全力になって、俺に楽をさせろ!』


不器用なポルカドットの愛情だった。
その気持ちを快く受け取りながら、アス太の1日が始まる。

病気なんて、彼にしては珍しいことだけれども、貴重な体験になったことは間違いなかった。

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