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0.8 よこどり

「一体どうしたんだ!なぜ、僕達が使わせてもらえないんだ!?事前に予約は、入れたはずだ」
どうなっているのかとライブハウスの支配人に詰め寄るシークレット。
整った顔つきの美人の怒り顔には、迫力があるというが、彼のそれがまさにそうだった。
普段は、ダウナーで許容範囲の広いシークレット。
しかし、自身にとってのフィールド。
『アイドルとしての活動』だけは、神聖な領域だったようで、その怒りには、エブモスもたじろいでいた。

「いつも、こうなのかしら、彼」

「アヴァリアちゃん。そんなことないよ」
「わたしも、こんなシークレット君みたことない」

「はぁーい。ファンの方は、ここは、立ち入り禁止よ?」
「いくら、あたしのステージをかぶりつきで見たいからって、楽屋裏まで押しかけられたら、あたしも困るわ」
「でも。その熱意だけは、受け取るわね!」

「って、アンタ誰だよ!」
思わず、語気が強くなるシークレット
当然だ。
自分たちが予約していたステージ。
観客も、『シルクちゃんねる』などを彼のアイドル活動を通して募集した。
『今度、ボクの友達がライブするんだ。心揺さぶる歌い手さんだから、みんなにも聞いて欲しい。ボクとの約束出来るかな?』
そんな、小芝居じみた事をしたり、色々策を講じて集めた観客達。

そこで、自分たちがステージに立てないのだ。
シークレットにとっては、泥棒猫というにも生やさしい、簒奪者の所業であった。

(猫ならまだ、可愛げあるけど)

「なぜ、僕達がステージに立てないか、ちゃんとした理由を教えてくれないか!」

「それは、」
支配人が困り、口を濁す。

「ちょっと、おじちゃんが困ってるじゃない!」
「いいわ。あたしが説明する」
そう言って、先程声をかけてきた女性。
銀色の髪にバイオレットのメッシュを入れた
ウルフヘアーの後ろ髪を長くした髪型が印象的な女性。
色白で、切れ長で大きな瞳。
その中には、真夏の太陽の様なオレンジ色の瞳を持つ女性だった。

「おじちゃんは、悪くないわ」
「あたしが、どうしても『必要』だから、この場、この時間を押さえたいって頼んだのよ」
「そしたら、用意してくれたわ」

「用意してくれたって!その前に僕達の予約が入っていただろ」
「それは、どうしたんだ?」

「そんな事は、『聞いて』ないわ」
「あたしは、借りれるから借りたの」
そう言い切る姿は、嘘を言っている様には見えないくらい堂々としたものだった。

(どういうことだ?)
くいくいっと、シークレットを引っ張る
その元を辿ると、アヴァリアが何か言いたそうな顔をしていた。

「どうしたんだい?アヴァリア」

「あれ、見て」
アヴァリアが指し示した先を見る。
目の前の銀髪ウルフヘアーの女性。
彼女の衣装。
そこに描かれたマーク。

「あれ、私の故郷のマーク」
「もしかしたら、無意識にちからを使ったのかもしれない」

「ちょっと、待ってくれ」
「そんな事があるのかい?」

「ある。みんながみんな意識して使っているわけじゃない」

「何をコソコソ話しているのかしら!?」
「おじちゃんは、あたしに快く貸してくれた」
「あなた達は、そこに文句をつけている」
「おかしな事だわ!あなた達の言い分を説明なさい!」

(微塵も、自分に被が無いみたいな言い方。アヴァリアが言った様に考えるのが自然か)
(だとしたら、会話は、平行線)
(どうするべきか)
怒りから一点して、冷静に考えはじめるシークレット。
なんとか事態を打開する方法を考えていた。

「ダンマリなのね!」
「!?」
「あなた?もしかして、あたしと出身が一緒なのかしら?」
そう言って、相手の女性は、アヴァリアの方を見つめた。

「そうだけど?」

「なら、話しは早いわ!ステージまで時間がないの。こんなところで、ウダウダしているくらいならば、あなた!歌えるのでしょ?」
そう言って、相手は、アヴァリアを指差す。

「あなたも歌い手なのでしょ?あたしと同じ故郷なのだから」
「それに、ステージを借りたい。そう言っているのだから」

「何を言いたいんだ?」

「あなたには、言ってないわ!白もやし。今、あたしは、そこの『歌い手』に言っているのよ!」

「白もやっ!」

「いい。あなた。ステージがある。あたし達は、歌い手。主張が食い違う。なら、やる事は一つでしょ?」
ニヤリと猫が獲物を狙う様な笑顔で笑い語りかける。

「対決?」

「そうよ!あたしとあなた達。ステージで対決よ。あたしが歌う曲数が少なくなるのは不満だけど。いいわ。それが、一番、あたし達らしい決着の付け方。さぁ、やるわよ」
有無を言わせない宣言。
そこには、断ったら、負けだと思わせる気迫があった。

「やる」
静かに、しかし、確かな想いで言葉を紡ぎ宣言を受け取るアヴァリア

「そうこなくっちゃね!」
そう言って、ステージへと急ぐ彼女。

「完全に呑まれた」
頭を抱えるシークレット
こうなったら、事実はどうあれ、これは『彼女』のステージだ。
ならば、こちらがやる事は。

「今から、あいつから、ステージを奪い返す!君たちは、全力でステージに」
「僕も、全力でサポートする!」
いつになく熱い宣言をするシークレット

「当然。とられたからには、取り返す」
「それに」
ちらっと、アヴァリアは、横のイーサを見る。

「受けた挑戦は、きちんと果たさきゃね!」

「イーサさんも、燃えてる?」
エブモスが覗き込む様に聞く。

「当然!あれだけ真っ直ぐな熱意。なかなか投げられるものではないわ。良い勝負になるわね。勝ちに行くわ」

「なら!わたし達も全力サポートだね!」
そう言って、シークレットの方を向き、拳を天に掲げて、おー!と張り切るエブモス。

「そうだよ。エブモス。ここは、巻き返す」

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