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3.74章 イーサリアム

「うん?捉えた感触が無い?どういうことだ?」
「確かに僕は、コアごとエブモスを砕いたと思ったんだけどなぁ」

「キャプテン!」
「もう、八つ当たりをするのはやめて」

「八つ当たり?何を言っているんだい。エブモス。僕は、dapps達を綺麗にお掃除して、このイーサリアムを一度綺麗にしようとしているんだ」
「それも、彼らの無意識に応えてだ」
「それの何処が八つ当たりだというんだい?」

「八つ当たりよ!だって、あなた、怒っていたじゃない」
「わたしを砕いた時だって、そうだったもの」

「砕いた。あぁ、じゃあ、やっぱり君を砕けていたんだね。でも、おかしいね。君は砕かれたはずなのにそんなにも元気じゃないか」
「どうやって、修復をしたのかい?」

「答えてあげてもいいよ。でも、その前に私の話しを聞いて八つ当たりを止めるならね!」

「いっちょ前に交渉なんて、エブ子ちゃん、やるねぇ」
「いいよ。乗ってあげるよ」
そういって、キャプテンは、両手の構えを解き、ライフルとの融合も解除する。

「そのあぶなっかしい剣もしまって」

「いいよ」
そういって、残りの武装を全て解除する。

「さぁ、話してもらおうか」

「うん。じゃあ、約束通りに話すね」
「でも、その前にもう一つ約束して」

「なんだよ。まだ、要求あるの?」

「私の話を聞いたら、ブロックチェーン落としを止めて」

「それは、対価を求め過ぎだ。そこまでは譲歩できない」

「じゃあ、みんなに攻撃するのをやめて」

「君達が攻撃しなければね」

「うん。それでいいよ」
「じゃあ、説明するね」

「イーサリアムの意思に時間を巻き戻してもらったんだ」

「なるほどね。イーサリアムの神にも等しい存在の介入があったか。それなら納得だ」
「で、なんでそれは、君を助けたんだい?」

「私に可能性を感じた。そう言われたの」

「可能性か。確かに、君の軌跡からは可能性が感じられる」
「しかしだ。戦う力が無い君に。武器を振るう力の無い君になんで、彼女は力を貸したのかなぁ?」
「だってそうだろ?力を貸したところでブロックチェーン落としを止められない。そんな奴に力なんて貸すかなぁ?」

「わたしもそう思った。でも、イーサリアムの意思の思いは違ったわ」
「わたし一人では、何もできない。ここまでこれたのは皆のお陰だって。思っていたもの」

「そうだろ。僕が見た記録でも、君は特に戦っているわけではなかった」

「だけど、みんなに力を借りて進むことはできる!」
「その思いだけは持っているんだから」

「思いだけでどうにかなるものか!」
「やっぱり、やめだ。君との約束。考えが根本的に合わない。気持ちが悪い。だから、排除させてもらうよ」

「その前に、なんで、キャプテンはイーサリアムの意思が『女の人』だってわかったの?」

「それ、きいちゃうんだ。うーん。どうしようかなぁ。教えてあげようかなぁ。よし、教えてあげようか」
「僕の今の体は、MakerDAOなんだ。これはわかるよね」

「うん」

「その中には、サファイアのコアがあったわけさ。ほら、そこに倒れているルビーの幼馴染のね」
「彼女の本当の姿は、イーサリアムの大地を想像したフォーク体のオリジナル」
「名前は、PoWっていってね。原生生物の意識体と協力して、この大地を築いた偉人さ」
「初代のイーサリアムの王でもあるんだ」
「みんなに敬われ、みんなを従えて、みんなから慕われて」
「みんなに役割を押し付けられ、みんなにいいように使われた」
「その体が命を終えて、次のライフサイクルを迎えても捕まって、使われ続けた」
「バカな女だ」

「バカな女って、それひどすぎない!?」

「酷いもんさ。僕が発生したとき、彼女は、複数のdapps達に連れ去られていたんだ」
「まだ、何者でもない僕が彼女を哀れんで見つめたとき、彼女どうしたと思う?」
「笑顔で手を振って挨拶したんだ!」
「ほんと。バカだよなぁ!」
「これから、自分は使いつぶされるっていうのにさ」
「何、嬉しそうにしてんだか」
「僕の気持ちなんて知らずにさ」

「ううん。そうじゃないの。キャプテン。彼女の意思は聞いたの?」

「えっ!?どうしてだい?」

「彼女は、そうしたいから、そうしたとは思わなかったの?」

「」
「はははは!」
「なんだよそれ」
「あんなに酷くされるのが望んでやったことなのか」
「だとしたら、馬鹿を通り越して、むかつくな」

「キャプテン」

「なんだよ」

「本当は、彼女の事。好きだったんじゃないの?」

「なんでだよ」

「だって、あなた、心が見れるんでしょ?」

「ほぉー、エブモス、お前そんなことが。いや、彼女から聞いたなら、わかることか」
「で、読めたからなんだってんだよ」

「うん。彼女の心、わかったんでしょ。だから、彼女を好きになってしまった」
「純粋で、一直線で、相手の事しか考えない彼女の事が大好きになっちゃったのよ」
「あなたと同じ、心が見れる存在でありながら、対照的な彼女の事が」

「ほーう。それで?」

「キャプテンは、力が無いことをふざけて言っていたけど。それは悲しさを隠すためだって」

「根拠はあるのかよ」

「海門さんが言ってた」
「わたしがラウンジで一人食事している海門さんに話しかけたら、そういっていたわ」
「『キャプテンは、なんで、我々をもっと頼ってくれないのか』『過去に何があったかは知らないが我らは味方なのだ』って」

「海門君、そうか」

「そうだよ。その通りだよ」
「僕は、彼女の事が大好きだったのさ。でもね。僕は彼女が連れていかれたときに何もできなかった。それは力がないからさ」
「だからこそ、強く思うんだ。エブモス。思いだけでは、何も成せないってね!」
「どんなに志が強かろうが。思いが強かろうが。そんなことは出来ない」
「そして、dappsは、全て、糞野郎だってことさ」
「さぁ、君をもう一度砕いて。ブロックチェーンを落として、それで終いだ」

「そんなことは、させない」

「どうやって、止めるというんだよ」
「お前には力がないだろ?」

「ないよ!でも、やるのよ!」
そういって、エブモスは、右腕を掲げる。
右腕には、新緑の光が『誰か』を導く道しるべの様に灯っていた。

「わたしは、友達を助けるためにここまで来たの!」
「だから、力を貸して!『サファイア』さん!」
その刹那、新緑はより緑色の輝きを深めた。
光は力を持ち、大きな力場を形成した。
キャプテンは、瞬時にライフルを両手に融合させ放っていたが、その悉くをはじき返していた。

「おいおい、嘘だろ。お前がPoWの、彼女の、仮でも、依り代に選ばれるなんて。そんな馬鹿なことあってたまるかよ!」
そういって、キャプテンは、片手剣を顕現させ振り抜く。
何度も何度も、見えない障壁に向かって。
しかし、それは一向に破れる気配が見えなかった。

「ちがうよ。わたしは、依り代じゃない」
「この光は、私の大切な友達の為のもの」
そういうと、新緑の光は束になりノノへと集中する。
クルクルと彼女を包み込むと、その体へと吸収されていった。
深い傷を受けたノノが無傷で立ち上がる。

「へぇー、友達を回復させるために力を使ったんだね」
「でも、その利他の精神には反吐が出るよ」
「だから、君を先に始末するね」
そういうと同時に、エブモスに切りかかるが、その刃は彼女の元には、届くことはなかった。

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