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1.5-34 襲撃

青かった空が真っ赤に燃えている。
いくつもの赤い光の帯が宙を埋め尽くしていた。
それは、まるで狂える龍の襲撃を思わせた。

悲鳴が聞こえる。
いくつも、いくつも。

怒号が聞こえる。
攻めろだの、落とさせるなだの。
死守しろだの。

「御子は!?」
輝ける黄金の様な長い髪を揺らした騎士が尋ねる。
騎士の顔には、返り血と思われるものが沢山こびりついていた。

「あぁ、無事だ。きちんと、保護した」
神官と思われる服装の男が答える。

「先ずは、御子だけでも逃す。『施術』を頼む」

「直ぐには、終わらない」
「だから、そのまま逃げた方が」

「いや、時間は、私が作る」
「確実性を重視したい。やつらに見つかってもわからない。倒せない姿にする必要がある」
「万が一も、許されないのだからな」

「御子さえいれば、国は甦らせる事ができる。か」

「そうだ。だから、頼んだ」
そう言い終えると、騎士は部屋を出ようとして、神官は呼び止める。

「全く、カッコつけだなぁ。おまえは」

「なっ。こんな時に何を」

「ほら、これも、持っていけ!」
そう言って、複数の装飾品を渡す神官

「これは!」

「防御用コントラクトを組み込んだ宝石だよ」
「少しは、時間が増えるだろ?」
そう言って、手を振る神官

「かたじけない」

「あー、気にしない気にしない。僕と騎士は、役割が違うだけだからな」
「それより、背中。任せたぞ」

「あぁ!安心するがいい」
そう言って、握手をパシッとした後に騎士は部屋を出ていった。

「さて、ゼクセルさま。そういう事だから、簡易にはなりますが『換装の儀』を行わせてもらいます」
そう言って、神官。
リックは、ゼクセルに向き直る。
彼は、手をゼクセルの目に当てた。

「ああ、やってくれ」

——————-

「トロンさん!制圧率 80%。順調です」
青色の髪をした隊長と思われし男性がトロンへと報告する。

「『御子』の身柄は?」

「まだ、確保出来ておりません!」

「そちらが先!国の制圧は、あくまでオマケよ。『御子』を確認するのよ!最優先でね!」

「はっ!!」
そう言って、隊長と思われし男は下がり、隊員達に檄を飛ばした。

「でも、なかなか良い国ね。過ごしやすそう」
「上位者の次元に近いという立地も、素晴らしいわ」
そう、ソバージュヘアーの女がトロンへと話しかける。

「デイジー。そうでしょ!気に入ってくれた?」

「ええ、気に入ったわ」
「この土地、そして。『アクセスキー』が手に入るのね」
いよいよね。
そう付け加えると満足そうな表情で、トロンを両手で抱きしめるデイジー。

それをウットリとした目線で受け止め、手を自らの体へとさらにあてる為に重ねるトロン。

燃え上がる様に赤い空。
抱き合う2人。
まるで、夕焼けどきの恋人同士の様に。

銃声や怒号、悲鳴があることを除けば。

———————-
祭壇へと至る道を武装した兵士達が行く。
紺色のアサルトスーツに身を包み、高性能標準のサブマシンガンを構え、オートマチックの拳銃を携帯した兵士達が次々と道を踏破していく。
彼らのスーツには、『Tron Lynx』とロゴが入っていた。

道なりに進むと、正面には、大きな扉
両隣りに兵士が控え、様子を伺っていたその時、事態は起こった。

扉が爆せた。

金属製と思われし重厚な。
しかし、神聖さを損なわない様に装飾された扉が弾けたのだ。

粉々に。

扉を飾り立てていた装飾品は、飛び散り、兵士達の体へと突き刺さる。
金属製のそれは、吹き飛ぶ速さもさながら、ベアリング弾の様に兵士達に襲いかかったのだ。

退避行動が間に合わず、負傷する兵士達。
だが、落命したものはおらず、かろうじて命を繋ぎ止めていた。

そこに。

一閃の光が見え
次々に両断されていく兵士達

光だけではなく、風も吹き始める。
暴風を思わせる強風は、日々訓練を積んでいる彼らの足元を容易に掬い上げていった。

転倒するものもいれば、壁に激突するものもいた。

ジェスチャーで、他の兵士を下がらせ扉の前へと出る兵士がいた。
他の兵士達とは違い、その身にかすり傷ひとつなかったその兵士は、数珠繋ぎにした複数の円盤を周囲に展開し下がった兵を庇う形で隙間の空間に銃弾を撃ち込んでいった。

硬い金属音がした。
そこに照準を合わせ、銃撃を打ち込む。
周りに展開した円盤を集約し、そこへと撃ち込む。

銃弾が当たった円盤が爆破する。
強い光と稲妻が空間を支配する。
爆破は、連鎖し金属音がした空間を稲妻が満たす。
さながら、雷雲の中の様に。

稲妻が止むと、そこからは巨大な人影が現れた。

ピリピリと、体表に電気が走り、徐々に実体化していく巨体。
その巨体と同じサイズの大剣。
その大剣の周りには、赤がこびりついていた。

彼らの仲間を
多くの兵士を葬った事が伺えた。

先頭で対峙した兵士は、指示を飛ばす。
撤退の指示だ。

兵士達は、制覇した道を逆走する様に引き返していく。

しかし、巨大な人影はそれを許さない。

巨大な剣が振るわれる。
その軌道上にあるもの全てを引きさかれていくが、射線上にいた兵士は無事だった。

「させるかよっ!」
先頭にいた兵士が口を開く。
被っていたヘルメットを外し、巨大な人影へと投げる。

青色の短髪がなびく。

「こっからは、『戦士』として戦わせてもらう」
「1人も切らせない」
そう言い切ると、青色の髪の男は、スーツに取り付けられた小さな突起を押した。
アサルトスーツが弾け飛び、眩い光を放つ。
光は、部屋の隅々まで行き渡り、薄い光の膜が出来た。

巨大な人影が大剣を振るう。
それが、撤退する兵士には届かず光りの膜が数千と剥がれ落ちては再生し、その行手を阻んだ。

「やらせないと言ったはずだ」
そう言い切った男は、銃を構え直し再び弾丸を放つ。
銃身には、複数の記号が浮かび上がり紋様を形成していた。

巨体を傷つける事が叶わなかった弾丸は、今度は、その身を削り始めた。
巨体は、叫び声を上げる。

しかし、剣の振りは鈍らず。
むしろ、速さと鋭さを増していった。

男は、大剣を大きく右へ躱す。

躱したはずが、右腕から大量の血が噴き出る。
それを手をかざし止血する。
手からは、赤色の光と鉄が焦げる匂いがし、流れ出ていた血が止まる。

男は何事もなかったかの様に巨体に照準を合わせ引き金を引く。

手首へ放たれた集中砲火
巨体の手首は千切れ、大剣が地に落ちた。

——————-
「トロン様、報告です!」
複数の血まみれの兵士が神殿から逃げ帰る。
そのうちの1人がトロンへと報告を行う。

「わかりました。それほどならば」

「よくないよ!せっかくここまで」

「いえ。あの隊長が身を挺して逃したのよ。油断できる相手ではないわ」
「撤退よ」

「デイジー!」

「命令です。トロン。ここは、引きなさい」

「わかったわよ、」
「ただ、デイジー。少し待ってもらえるかしら?」

「余り時間は、無いわ」

「大丈夫、直ぐに終わらせるから」
そう言うと、トロンは両手を胸部のコアに手を当て詠唱を始めた。
まるで、歌う様にコントラクトが紡がれる。

1分程の詠唱の後、手を広げた。
コアから、空へと赤い光が放たれ。
それが、荒れ狂う龍の様な彼女のチェーンと同期し、地上へと赤い雨を降らす。
地上に落ちた雨は、揮発し周囲の空間を包む。
揮発し、気体となった雨は建物の隅々にまで行き渡り、0xLSDを包み込んだ。

「これで、お終い。さぁ、帰りましょう」
デイジーへと笑いかけるトロン。

「何をしたの?」

「後片付け。ほら、私たちの事。覚えている人がいない方が良いでしょ?」
「記憶、綺麗に上書きさせてもらったわ」

「貴女と言う人は」
手をおでこに当てながら、そうとだけ呟くデイジー。

「念の為よ!念の為!さぁ、行きましょう」

「ええ、わかったわ」

数多の戦艦が引き上げていく。
侵略の時間は、終わったのだった。

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