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3.64章 イーサリアムの心臓

「すっごーい!ノノの家の近くがこんなになっていたなんて!」

「えぇ、私も知らなかったわ。こんな施設。いえ、装置があるなんて」

「二人ともほんとに知らなかったみたいだね」

「そうなのよ!シークレットくん。ほんとに近場までは来たことがあったけど。こんな神秘的な場所があるなんて」
そこは、小さな森に囲まれた中、湧き出る泉の代わりに綺麗な六角形のタイルが置いてある場所だった。
タイルには、ひし形の紋様が施されており、そのタイルを囲むように剣、双剣、杖、大剣を模した4つの石柱が立っていた。

「これは、イーサリアムの意識体がイーサリアム本体と同期する為の装置よ」
「むやみに誰もが立ち入らない様にフォーク体やdapps達の意識を逸らすトランザクションがかけられていたの」
「エブモス達が近くまで行っても発見できなかったのは、無理もないわ」

「アトムさん、でも、それじゃなんで、わたし達は、今ここに来れているの?」

「エブモス、それはね。ノノに秘密があるわ」

「私にですか?」

「そう。今、ノノはコアを手に入れた状態なの。もともと、ノノは微小なコアこそもつものの、他のdappsやフォーク体が持つべき大きなコアを持っていなかった」
「でも、それを手に入れた」
「そこが大切なのよ」

「?」

「コアは、私達の心が宿ると思われているわ」
「これは、学説的には完全な説明はされてはいないけれど。そうだと、昔から言われてきたの」

「でも、ノノには人を思いやる心があるよ。わたし達の中でも、すごく思いやりに溢れているし」

「うん。だから、一説には。ってところね。ただ、記憶が宿るというところは今現在、確実にはなっているわ」

「それは、学説的に?」

「そう」

「これは、私の仮説だけれど、ノノに移植した私のコアにノノの記憶の転写が完了していると思うの」
「それが、トランザクションを放ち、この一帯の認識阻害トランザクションの効果を打ち消した」
「だから、私達は来ることが出来たってわけ」

「それって、まるで、ノノの帰りを待っていたみたいだね」

「えぇ、そうなのよ。だから、この場所はノノの。ううん。ゼロの為の場所」

「私の?」

「そう。あなたがイーサリアムに答えを提出する為に訪れる場所だったのよ」

「ちょっとまって!それだと私以外のフォーク体が争って、『代表』を決めるというのが成り立たなくなるわ」
「最後の一人になったフォーク体は、イーサリアムと同期して、その在り方を決定するという言い伝えと矛盾があるわ」

「そうね。でも、その言い伝え。いったい誰が言い始めたのかしらね?」
「私が導いた考えは、ユニから習った知識、古くからあるイーサリアムの古典に基づいた考察よ」
「そこには、フォーク体が最後の一体になったら道が開けるなんて書いてなかったわ」
「数多のフォーク体が現れるなんて書き方もなかった」
「そこには、ただ、『答えを持ち帰るものが現れたときに道が開かれる』と推察するに十分な記載があったにすぎないわ」
「大方、『誰か』が言い始めたことなんでしょう。フォーク体が争った方が都合のいい存在がいたのよ」

「危ない!アトムさん!!」
ノノがアトムを庇い、前に出てトランザクションでシールドを出現させる。
光の壁に阻まれて、細い閃光が四散する。

「なーいす!やー、いい防御だったよノノ。いや、ゼロかな」

「その声は、キャプテン!!でも、えっ、クニなの?」

「はっはっは!いい反応だよエブ子ちゃん。流石、期待を裏切らないなぁ」
「予想通りのステレオタイプの反応、ありがとう!」

「なんか馬鹿にされている感じ!!」

「そんなことは、無いさ」
「クニちゃんは、思った以上にくそ度胸だったからね。そういう反応してくれなかったからさ。単純に嬉しいんだよ」
「しかしだ、しかし。そこの意識体」

「アトムよ。そこの意識体なんて名前じゃないわ」

「アトムか。なるほど、あのコスモスの巫女ね。こんなに可愛らしい子だったとはね。いやーもっと早く見つけることが出来たなら」

「出来たなら?」

「僕の新たな体にしていたよ」

「このド変態が!!」

「ド変態か。アトムちゃん、それは、ある意味的を得ているかな。僕は昆虫の様に変態して、今の姿だからね。ある意味、正解かもしれないな」
「そんなことは、どうでもいいか」
「それよりも、正しくないぞ。その考察」
「確かに、フォーク体が争って、最後の1体になる必要はない。でも、定められたフォーク体ならば同期は出来るんだ。だから、そこは、ノノちゃんの専用席じゃないよ」

「あーあ、やっぱり、あんたが『言い伝え』を作ったんだな」

「いい断言だ。そういうのは嫌いじゃないよ。そこの銀髪の男の娘」

「シークレットだ、憶えておけ」

「ふっ、いい啖呵を切るね。そういうのもありだ」

「で、キャプテンは何しに来たの?」

「あぁ、エブ子ちゃん。それを聞いてくれるのを待っていたよ」
「僕はね。イーサリアムと同期しようと思って来たのさ」
そういうと、キャプテンを名乗ったクニは、大剣を掲げる。

「いけない!」
そういうとノノは、体中にトランザクションを展開する。
様々な幾何学模様が手足に浮かび上がる。
そして、そのまま、ノノはキャプテンに向かって両手をかざす。
同時に、キャプテンの掲げた剣は極光を放ち、光の本流があたりを包み込んでいった。
ノノがシールドを顕現させ防御したエブモス達の周辺を除き、あたり一面がまっさらになっていた。
森は消滅し、石柱は砂と化した。
タイルのみが綺麗な形で、残っていた。

「うーん!いいね。この威力」

「キャプテン、一体何をしたの?」
シールドを解いたノノがキャプテンに質問する。

「あぁ、ただの挨拶さ!」
「さて、じゃあ、僕をイーサリアムに同期してもらおうか」

「なんで、あなたを同期させなければならないの!?」

「なんでって、僕が最後の一体のフォーク体だからさ」

「ノノも、フォーク体だよ。キャプテン、また、嘘ついているね」

「エブ子ちゃん、嘘はついていないさ。そんなに信頼無いかなぁ僕」

「胸に手を当てて、自分のやってきたことを思い出していって!無神経にもほどがあるよ!」
エブモスが珍しくきつくいう。

「これでいいのかい?あぁ、嘘なんてついてません」
胸に手を当てながら、そうのたまうキャプテン

「くっ、どこまでもふざけた野郎ね!」

「それは、ちょっと傷つくなぁ。ノノちゃん。まぁ、僕のスタンスだから、あまり気にしないで」
「で、その席、譲ってくれるかい?」

「いやよ!あなた、どうせろくなことしないでしょ!」

「いやいや、するよする。ほら、イーサリアムも救われるし、みんなもハッピーになるし。自然には優しいしさ。僕を同期させたら良いことづくめだよ」
「あー、一つだけ、君達にデメリットはあるかなぁ」

「何!?」

「ノノちゃんのプランが採用されないってこと。ただ、それは、それだよね。結果、救われればいいじゃない」

「キャプテン、君、まだ、何か隠しているだろう?」

「何も隠していないさ。シークレット君」
そういいなら、徐々に距離を詰めてくるキャプテン

「っと!何をするんだい。無抵抗の相手にパンチするなんてさ」
危なげなく、余裕でノノのパンチを受け止めるキャプテン

「キャプテン!私達は、あなたの言葉を信じない。だから、妨害するわ」
「いえ、あなたを消させてもらうわ」

「ほう、言うじゃないか。ノノちゃん」
そういって、距離をとり剣を構えるキャプテン

「じゃあ、これは正当防衛でいいね!」
そういうと、彼は、剣を一振りした。



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