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4.14章 おつかい

(急に追い出すだなんて、物々しいわね)
(何かある、と考えるのが妥当なところだけど)

「どうしたの?ソラナちゃん。怖い顔しちゃって」

「えっ、わたくしそんな変な顔していたかしら?」

「うん。まるで、自分が食べれない料理が出たときみたいな顔していたよ」

「それはそれで、不思議な表現ね」
「あっ、でも、食えないという意味はあっているかもしれませんわね」

「?」

「どうしたんだ?」
「話しが気になったのか」
「内容なら、クレセントに話した。気になるのなら、彼女に聞いてくれないか」
そういって、ジノは部屋を出ていった。

「クレセントさん、結局どんな話だったの?」

「まぁ、あなた達にも関係する話しだから伝えておくわね」

「何かしら?」

「ちょっと、お使いを頼まれてほしいということよ」
「私は、ここから動けないから、あるものをとってきて欲しいのよ」

「どこまで行けばいいのかしら?」
 
「対ボット掃討作戦、前線基地」
「そこで、ネルから受け取って来て欲しいものがあるのよ」

「それ、転送してもらうことって出来ないの?」
コントラクトの中には、空間転送が出来るものもあるはず。
クレセント程の演算能力があれば、それが容易いとソラナは思った。

「んー、それがGNO-LANDのものならばそれもできたのだけれど」
「ちょっと、これは無理なのよ」
そういって、転送対象の対応法則を説明する。

「それって、私の普段使っているものじゃない!」

「そうそう、ソラナちゃんが使えたであろう法則と同じものを使用したNFTなの」
「正確には、何らかの情報が記載されているNFTということなのだけれど」
「それを解析したいから、研究室まで運んでほしいってわけ」
「もし、ソラナちゃんが現地にいれば転送は。あっ、出来ないわね」

「なんで転送できないことがわかるの?」

「それは、ソラナちゃんの法則がこの世界で使えないことがわかっているからよ」
「そもそも、ソラナちゃんが保護されたときに何もすることが出来なかったことをネルから聞いているしね」
「もし、転送なんて使えたら、ボット達から逃げられていたでしょ?」

「そりや、そうよ」
「好き好んで襲われるバカはいないわ」

「そういうこと」
「つまりね。簡単な事実として、これは、手間暇かけて運ばなければならないのよ」
手間をかけるわねぇーと締めくくる、クレセント

「ところで、それって、私たちじゃないといけないの?」
「現地にスタッフがいるなら、持ってきてもらえばいいじゃない!?」 

「そう思うでしょ?」
「私も戦況を聞くまではそう思っていたけれど、どうやら向こうには余剰戦力が無いのよ」
「人が足りてないの」
「で、ジノちゃんから、なんとか今すぐに、NFTを回収してきて解析できないかって言われてね。あなた達にお願いすることになったわけ」

「それって、ジノさんが私たちを下がらせてから頼んだ話しなのに私たちに頼んでしまって良いわけ?」
「そもそも、そんな正直に教えてしまっていい話しだったのかしら?」

「言っていいも何も、ジノちゃんがソラナちゃん達に頼んでくれと言ったのよ」

「それなら、わたくし達を追い出すことなんてしなくてもよかったのに」

「昔からよ。あの子はね。私とネル以外を信用していないのよ。心のどこかで疑っちゃうの。だから、大抵のことは一人でできるし、頼るときは私かネルを頼るの」

「変わった人、でも、そう言われれば、珍しくはないわね」

「ソラナちゃんも、そういう人、いたの?」

「私が直接関わってはいなかったけれど、フォックスがね。そういう厄介なタイプの面倒
を見ていたわ」

「石介!厄介ね。確かに、あの子のあの癖は厄介だわ」
そういいながら、巨の様に大きな声を上げ笑い始めたクレセント

「クレセントが壊れてしまったわ」

「ひどいわ、ソラナちゃん」

「心地よく笑っていただけなのに」

「あれが心地よくなら、己の癖を改めた方がいいわね。どう聞いても、巨獸のそれよ」

「ニトロちゃ~ん」
助けを求めるようにニトロに縋りつくクレセント

「あれは、クレセントさんが悪いわ。だって、何時間いても珍獸みたいなのだもの」

「珍獣って、ちょっと、ニトロちゃんまで手加減無し!?」

「あなたの全力の笑いは、癖が強いってことよ。よかったわね。自覚出来て」

「うれしくなーい!」

「でも、珍しいわね。あなたのあの笑い方、初めて聞いたわ」

「クレセントさんはね。いつも、自分のツボに入ったときは、あの笑い方をしているわ」

「ふーん、じゃあ、よっぽどツボに入ったのね」

「だって、世界のことを思って行動しているジノちゃんが人見知りすぎるなんて、改めて考えたら、ギャグだわ」

「それは言い過ぎじゃないかしら。しかも、あなたに言われたらかなり傷付くわね」
「わたくしだったら、怒りのあまりに床を踏み抜いてしまいますわ」

「床を踏み抜くジノちゃん!何それ、可愛い!!」
そう言って、床を悶えて転がるクレセント
何も言わずにピシっとしていたら、腰まで伸ばした黄金色の髪の毛が美しさを際立たせる
のに。
今は、床のお掃除に使われて、ごみを巻き取るしまつ。
箒星と言われても、おかしくないくらい美しい髪がただの箒だ。

「ホント、残念なクレセントね」

「えっ!なにそのストレートな貶し言葉」

「そのままよ」
「で、ジノさんのこと。弁護する訳では無いけれど、そういうあり方だってあるわよ」

「どうして?」

「だって、わたくしがそうだったから」

「えっ、ソラナちゃんが!」
「いっがーい!!だって、あなた、大切な事は、きちんとみんなにお話しするでしょ?」

「それはね。でも、そういう一面だってあるってことよ」

「えーーー!それ知りたーい」
「お姉さんにだけ、教えてー」

「いやよ」
「教えてあげない」
「それより、早く回収してきてほしいのでしょ?ニトロ、案内してくれない?」

「おーけーだよ!ソラナ」

「では、わたくし達は出かけるから、しっかり留守番していてくださいね。クレセントさん?」
そう言って、2人は出かけてしまった。

「ここ、私の研究室なのになぁ〜」
「そんなに、家主感ないかなぁ?」
「どう?そこらへんは、ジノちゃん?」

「ジノちゃん?どうせ、隠れて聞いているのでしょ?もうわかっているんだから」

「よし!あの秘密を館内放送で流すわよ」

「ま、待つんだ!」
「その情報は、ボクのプライバシーに関わることだ」
「口外することは許さないぞ!」

「なーんだ。やっぱり聞いていたんじゃない」
「それに、秘密にしたかったら、あんな堂々とやらないことね」
含みを持たせたような表情でほほ笑む、クレセント
その姿は、美女そのものだった。


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