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4.101章 背負ったもの

(なんだか騒がしいなぁ)
(ん?あなたは?ジノ?)

(そうね。久しぶり。フィー)

(口調変わった?)

(この局面で、言うことはそれ?)

(うん。だって、大分トゲトゲしたところがなくなったから)
(私と戦ったときの貴女は、そう。いっぱいいっぱいだったわ。まるで、空気をぱんぱんに入れた風船みたいに)

(だれが風船よっ!ボクは、太ってないよ!)

(そういうことじゃないんだけれど)

(ジョークよ。わかっているわ)

(それで、何しに来たの?)

(あなたを連れ戻しに来たわ!)
(あなただけに、GNO-LANDの全てを背負わせないわ!)

(そんなこと。私は好きでこの役目を追ったの)
(だから、余計なお世話)

(頑固者ね)

(あなたと同じよ)

(なら、話をするまでっ!)
そう言って、突き出したジノの拳がフィーの体を捉えた瞬間、彼女達の意識は反転し、あたりには何も無くなった。

刹那の後、フィーとジノが現れる。
ジノに支えられ、フィーが肩で息をする。

(これなら、納得してくれたでしょ)
そうつぶやくジノにフィーが答えようとするも、その口から血を吐いてしまい言葉にならない。

(うそ、でしょ。ジノ、あなた)
その目には、涙が浮かんでいた。

(あー、そういうのいいから!)
(ほら、一人で頑張ってもいいことないのよ)
(だから、こういうことは、みんなで負担するの)

(みんなで?)
(そんなのできるわけないよ)
そう言って、フィーは、上を見上げる。
そこには、夥しい数のリソースとその元となった意識体の思念が渦巻いていた。
そのどれもこれもが、好き勝手な事をいい宙を待っていた。
それらは、集約すれば、『自分達は悪く無いのになぜ、こんな目にあっているのか』であった。

(無自覚なの、みんな)
(ひとりひとり、時間をかけて話して、身体を与えて戻していくしかないの)
フィーが諦めた様な表情で、ゆっくりと語る。

(嘘ね)
(あなたには、わからせることができるわ)
(それをしないだけ)
(彼らを甘やかしているだけ)
(いえ、あなた自信、わかってもらえないと思って諦めているだけよ)

(そんな!)
(私だって、話したの)
(話したけれど、通じなかったの)

(なら、もう一度はなせば?)

(そんな事しても、無駄)

(どうして?)

(だって、彼らは、被害者だから)

(ふーん)
(GNO-LANDの運営をニュートロンに押し付けて温ぬくとしていた奴らが被害者ね)
(よく被害者ヅラ出来たものね!)
そう言って、意識体の思念を睨むジノ。
ざわざわとした声が思念体からジノへと放たれる。

(うっさいわね!言いたいんだったら、一人ずつ堂々といったらどうなの!?)
凄み、トランザクションを辺りに放つジノ。
思念体は、怯えて黙り込む。

(ほら、これがあいつらよ)
(嫌なことがあれば誰かに背負わせる為に結託し、何かあれば黙り込む。何もしない卑しい存在よ)
(あなたに、あれを意識体へと返す義務もなければ責務もないわ!)
(もし、あったのなら、そんなもの、捨ててしまいなさいっ!)
そう吐き捨てる様に言葉にするジノ。
フィーも、その様子に言い返す事はできなかった。

(きみが黙って、そうしているならば)
(ボクが、フィー。きみを解放する) 
そういうと、ジノは手に炎を宿し思念体へと放つ。
それは、フィーの反応を遥かに上回るスピードで思念体へと着弾し燃え上がらせる。
断末魔の叫びが上がる。

(やめてよっ!)
フィーがジノに縋り付くも、ジノは振り解き再び思念体を攻撃する。

(どうしたんだい?ボクを止めたときは、物凄いパワーだったのに)
(やはり、こいつらの相手をしていたからかな)
(今のきみにボクを止める力はありはしないよっ!)
そう言って、フィーを振り解き弾き飛ばした。
彼女は、コアの端に体を強かに打ち付けられるも、立ち上がりジノに掴みかかる。
その度に、彼女に振り解かれ、殴られ壁へと打ちつけられる。
ジノは、フィーを全力で殴り飛ばす。
だから、フィーはボロボロで、今にも倒れそうで。

(でもさ、なんでそんな奴らの為に立ち上がるかなぁ!)
そう言って、思念体への攻撃を激しいものへとしていく。
思念体は、消滅しないものの、その体を震わせ悲鳴を上げる。

(それでも、自分達の事ばかりなんだな、お前たちは!)
呆れた様な、突き放す様な口調でジノが叫ぶ。

(でも、お前たちは、お前たちを助けてくれるこの小さな命に頼ってばかりだ!)

(ならば、お前たちを消してフィーを解放するしかないな!)

そう言って、一際大きな炎を作り思念体へと放つ。
それは、必殺の一撃に等しいものだった。
陽炎がゆらめき、青白い炎が圧縮され、標的に放たれる。

射線を遮る様に間へと、フィーが駆けつけ、思念体をジノの炎から守る。

ジノの炎にフィーの体が燃え上がる。
ヒリヒリとする感覚、自身の一部が徐々に燃えて灰になっていく感覚。
それを味わいながらも、悲鳴をあげず耐えるフィー。

(や、め、てよ。なんっで、そんな事するの)

(いやだね!)
(どいたらどうなんだい?)
(そうしたら、きみは解放されるよ)

(冗談!)

(なら)
(いや)
(気が変わった)
(フィー、君を消して、解放することにしたよ)
そういうと、ジノの背後に何本もの陽炎がゆらめく。
それらに呼応するように炎の勢いは加速していく。
遂には、フィーの腕が炎に耐えきれず炭になって焼け落ちる。
苦痛に身を捩るも、その目は真っ直ぐにジノを見据えていた。
その表情を見かねて、トドメとばかりに、大きく膨れ上がった炎を放とうとするジノ

その横を一閃の光が横切った。

「フィーちゃんをいじめるなっ!」
それは、小さな子供の思念体だった。
思念体の集合から飛び出したそれは、ジノの手にあたり、炎を放つ角度をずらした。
放たれた炎は、フィーに当たらず彼方の壁に直撃し爆炎を上げる。

(ふーん、やるじゃない)
ジノは、小さな光を一瞥し火を放とうとし、複数の光に阻まれる。
あるものは、小さな光を守る様に。
あるものは、ジノへと降り注いだ。

(くっ、なかなか)
(でも!)
ジノは、両手を前に構えるシールドとし全ての光を撃ち落とした。

(さぁ、まだ、やるかしら?)

(まだ、やるかしら。ねぇ)
(大体、余裕なんだよっ、お前!)

(時間かかっちまった。でも、スラッシュの嬢ちゃん。ナイスな一番槍だったぜ!)
(おかげで、みんなはらー決まったからな!)
思念体の集合、そのモヤが晴れ、そこから現れたのは、いつか見た超巨大剣
それを担いだ赤いベリーショートの髪の小さな女性
そして、周囲には、各々、獲物を構えた意識体達だった。


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