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0.12-1 レッスン

「はぁはぁ」

「はい!アヴァリアちゃん」
エブモスが差し出した冷たいドリンクを一気飲みするアヴァリア
そこに歌姫としての余裕は、なかった。
もっと、響くように。
想いを届けられるようにと、苦手なダンスも、全力で行なっていたのだった。

「アヴァリア、体力鍛えなきゃね。私と一緒に稽古する?」

「イーサ、あなたのは武術の型でしょ!」
「でも、するわ。あなたの足を引っ張る訳にはいかないから」

「いい感じにまとまってきているね。でも、まだまだだよ」

「シークレットくん!」

「やぁ、エブモス。上手くやっているようだね。2人も」

「うん!」

「さぁ、ここの会場が終わったら、今日の外回りは、終わり。後は、稽古場に戻ってレッスンだ!残りの日にちも少なくなってきているんだ。仕上げにかかるよ」

「「はい!」」

—————
「ふぅーーー。今日も、やりきったわね」
湯船につかりながら、イーサがつぶやく。

「まだまだよ」
「まだ、もっと。私たちは、シンクロできるはず」
イーサの言葉を引き取る形で、アヴァリアが決意を静かに言葉にする。

「そうね!」
「頑張っていきましょう!」
「まだまだ!」
「でも、そうね。まずは、今日の疲れ。流し切っちゃいましょっか!」
「アヴァリア、肩上がる?」

「肩?んーーー」
肩を回し、腕を上に伸ばすアヴァリア

「いたたたた」

「やっぱり」

「?」

「ほら、私との鍛錬。その後に激しいダンスをしたじゃない。あの時に無理しすぎたのね」

「どうして、わかったの?」

「あなたの体のバランス。朝と比べて、歪だったのよ」

「そんなこと。目で見てわかるの?」

「わかるよ」

「すごいね。イーサ」
「エブモスが『達人』っていうわけね」

「エブモス、そんなこといってたんだ」

「うん。あの子。あなたのこと、すっごく自慢してたよ」
紅玉の様に頬を染め、イーサが顔をぶんぶん振るう。

「何事?」

「ううん。なんでもない」
「ねぇ、アヴァリア」

「なに?」

「体、洗い終わった?」

「ええ、終わったわよ」

「よーし!なら、マッサージするからそのままでいて」

「マッサージ?」

「そう」
「ほら。手が上がらなくなっちゃっているでしょ?早めに体をほぐして、動く様にしなきゃ。明日もあることだし」

「そうね。じゃあ、お願いできるかしら」
そう言って、アヴァリアは、イーサに背中を向けた。

————-
「んん!ん。はぁ」
「すごいよぉ、イーサ」
息も絶え絶えに、イーサを呼ぶアヴァリア
イーサの手がアヴァリアの肩から脇をなぞる。

「温かくて。きもちいい」

「でしょ?」
イーサの手は、コントラクトにより温かくなっていた。
人肌より、少し温かい。
血流を促進するのに丁度良い温度。
アヴァリアの肌をこする度に凝り固まった筋肉をほぐしていく。

「アヴァリア、ちょっと、足を開いてくれるかな。体のバランス。下の方も整えないと」
そう言って、アヴァリアに開脚を促すイーサ

「え、えっえーーー」

「ほら、はやく!血流が良くなっているうちにやっちゃうから」
そう言って、「えい!」とアヴァリアの足を広げる。
彼女の太腿の付け根に沿って、先ずは、手を当てる。
ほんのりと温かな手は、心地よく、アヴァリアの血流が更に良くなったのか、頬が紅潮していくのがわかる。

「イーサ」

「なに?」

「もう、終わりにしない?」
涙目になりながら、イーサへと訴えかけるアヴァリア

「どうしたの。痛いの?」

「そ、そうじゃない、けど!」
ぷるぷると首を振って、答えるアヴァリア
必死なその目は、何かを訴えていた。

「じゃあ、どうして?」 
「ほら、まだ、ここほぐれてないよ」
「それにリソース溜まりも出来ちゃってるし」
ストレッチの様なポーズになって、次の箇所をマッサージしはじめるイーサ」

「ちょ、ちょっと!まっ、あ」
急にへにゃりと、アヴァリアの表情が緩む
丁度、アヴァリアの前へと回り込み、首周りをほぐしていたイーサの足に温水があたる。

「ア、アヴァリア。あなた」

「だから、言ったじゃない!」
「体の中の循環が良くなっていたの!」
真っ赤な顔をしながら、抗議するアヴァリア
しかし、イーサは、何食わぬ顔で元の位置へと戻るとマッサージを再開した。

「えっ、ちょっと。私の話し聞いてた?」

「悪いものが排出されたでしょ?」
「このまま出し切ってしまうわ」
そう言って、イーサは、マッサージを再開したのだった。


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