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4.11章 GNOタワー

「おっはよー!ソラナちゃん!」

「朝から元気ね。クレセント」

「そりゃーもうね。 ソラナちゃんと同じ空気を吸いながら寝たのだから、体中の細胞が喜んでいるのよ」

「よかったわね」

「あれ!?ソラナちゃんは朝から元気がないわね」
「いえ、元気ではあるけれど。不思議な感じ」
「これは、そう!ロマンスの予感ね」

「頭沸いているのかしら」

「頭が沸いている!ふふふ、そうよ。私、今日は頭の回転が絶好調なの!」

「しかも人の話しを聞いていないと来たわ」

「二人ともー、話し込んでないでリビングに来て一」
「朝ごはんにするよー」
ニトロの声が、キッチンから響く

「今行くわ」
そういって、上着を羽織り部屋を出るソラナと

「ちょっと、まって!まだ準備が」

「手際が悪いのね」
「わたくしより早く起きていたのに」

「ソラナちゃんの寝顔を見ていたら、あっという間に時間がたっちゃってた」
屈託のない笑顔でほほ笑むクレセント
そこだけを切り取れば、美女そのものなのだが、理由が理由だけに残念な美女だった。

「朝っぱらから、残念な発言していないの」
「あなた、ぴしっとしていれば、美しいのだから」
「勿体ないわ」

「美しいだなんて!ソラナちゃんに褒められた!」
晴れやかな笑顔になり、目を細めて天井を見つめるクレセント

「とんでないで、もう、行くわよ」

「ちょ、ちょっと髪の毛の癖をまだ直してない」

「後で直しなさいな」
「ニトロを待たせないの」

「二人ともおそーい!」

「ごめんなさいね。ニトロ」
「ところで、ネルは?見かけないけれども」

「ネル姉ぇなら、仕事で朝早くに出かけたわ」

「わかったわ」

「何か、用でもあったの?」

「いえ、大したことではないのだけれど気になったことがあったから確認したかっただけ
よ」

「私でも確認できることかな?」
力になれるかしらと、たずねるニトロ

「ううん、大丈夫。帰ってきたら聞くから。そんな急ぎの用事でもないのだから」

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「さて、朝食も食べたし!元気いっぱいね」
「さぁ、今日は、私の家へご案内」
「楽しみにしていてね」
そういって、車の用意を始めるクレセント

ニトロが運転席に座り、車を出す。
「えっ!ニトロが運転するの?」
「そうだよー。って、ソラナちゃんは知らないっか」
「クレセントさんは運転しないんだよー」
「いつもは、私か、”ネル姉覚が運転しているんだ」

「それじゃあ、来るときはどうやって来たの?」
素朴な疑問が頭をよぎる。

「それは、運転してきたわ」

「?」
おかしい。
運転は出来るのに、しないというクレセント。

「ほら、自分より運転がうまい人がいたら任せてしまった方がいいじゃない」
「だから、自分以外の人と車に乗るときって、人に任せてしまっているの」
どうやら、クレセントはあまり運転が得意ではないらしい。

実際、任されたニトロの運転は上手く、動いていることすら感じさせないほどのスムーズ
な運転だった。

なんというか、丁寧というか。
本人の性格が出ているというか。

「ニトロって、器用ね」
色々出来て凄いわ。
そう、ソラナが付け加える。

「そんなこと無いよ」
「寧ろ、私、特化したことがなくてさ」
「幅広く出来るのはいいけど、これだって私がやらないでも出来ちゃうことだし」
「私もネル姉ぇゃクレセントさんみたいに特化したことが出来たらいいのだけれど」

「そんなこというものではありませんわ」
ピシりとソラナが言い放つ

「わたくしは、付き合った時間こそ短いですけれども」
「それでもあなたの細かな機敏、そして心遣いに救われましたわ」

「それに」

「あなたの作ってくれた食事、あれはあなたしか出来ないものでしたわ」

「そんなこと」

「ありますわ」

「わたくし達、それぞれの好みを知らなければあの配置で、あの品を揃えることはできなかったはずです」
「まだ、あっていないはずのわたくしの事をネルからの事前情報だけで推測して、用意する」
「それは、もはや職人芸です」

「ありがとう、ソラナちゃん」
「そういってもらえると自信が持てるよ」

「ニトロは、自己評価が低すぎますわ」
「あなたは、すごく出来る人だとわたくし、思っています」

「ねぇねぇ、私のことは?どう?どう?」

「そういうところで、乗り出してくるところが子供っぽいとか、言われたりしないかしら?」

「んー、そうね!少女の心を持っているっていつもネルには言われているわ」

「よかったわね」
(ソラナちゃん、クレセントさんに塩対応すぎるわ)

「そんな塩対応なソラナちゃんも、いいわ!」
震えながら、『くぅーーー!』 というクレセント

「そこの変態、少し黙りなさい」

「ふぁい!」
敬礼の真似事をして、返事をする。
正直、ふざけているのだか、なんだか区別がつかない。

「あっ!そろそろよ。そこ」
都市部のゲートを通るときにスキャンがかかる。
遺法な存在が紛れていないか確認する為のセキュリティだ。
都市部に出入りする意識体は、全て登録済みの為、問題なく通過できる。
登録が無いものがいた場合は、警報が鳴り警備隊にピックアップされる仕組みだ。
事前にセンチネルに聞いていたものだった。

「反応しないわね」
そう漏らすソラナ

「そりゃそうよ、だってあなたの情報は登録してあるもの」

「登録した覚えなんてないのだけれど」

「昨日、やっておいたわ」

「やられた覚えがないのだけれど」

「当然よ!だってあなたは寝ていたのだから」
「大丈夫、ちゃんと全身をスキャンしてサクっと登録したから、ものの数秒もかからなかったわ」

「心配しているのは、そこじゃなくて無断でされたことなのですけれど」

「んー、細かいことは気にしちゃダメよ」
「それに、こういうことは慣れが重要なんだから!」

「そんなことに慣れたくはないわね」
クレセントの言葉をソラナがあしらいながら、車は都市部へと進む

「うそ!こんなになっているの!?」
ソラナが見た光景は、彼女の想像した以上のものだった。
アラメダリサーチ本社と同じくらいの建物が、そこら中に立ち並んでいた。
そして、中央と思われる空間には、大きな塔の様な建物がそびえたっていた。
その大きさは、周りの建物の数十倍。
高さに至っては、雲がかかっていて最上階は見えないほどだった。
遠くからでも確認できた存在感は、近くで見ることにより、威圧感を放っていた。

「すごい」
ただそれだけだった。
それだけの感想しか言わせないほどの圧倒的な質量をもってしてそびえ立っていたのだった。

「でしょ?私も帰る度にこれはないなーって思うくらい」
「ニトロちゃんも、そう思うでしょ?」

「はい、これはちょっと。というか大きすぎて」
「何のために作ったのか全く分からないくらいで」
「ひょっとしたら、統括のジノさんの趣味なんじゃないかって思うくらいの」 

「ジノちゃんの趣味ね!いい感想してるね!」
「でも、半分はあたりかな」

「ねぇ、ジノってどなたのことをおっしゃっているのかしら?」
不思議そうにソラナが聞く

「そっか、ジノちゃんの事はまだ話していなかったね」
「ジノちゃんって子は、このGNO-LANDの代表みたいなものよ」
「GNO-LANDというブロックチェーンの意識体、それがジノちゃん」
「っていうと難しいように聞こえるけれど、やっていることは街の代表よ」

「でも、統括ってさっき言っていたような気がしますわ」

「そうそう、本人は代表って呼ばれるのは嫌うのよね」
「『代表じゃなくて、ボクの事は統括と呼んでくれ』ってね」
「だから、いつも、彼女の事は、統括と呼ぶのよ。みんなは」
「まぁ、私とかネル、ニトロは名前で呼んでしまうからあまり意味ないんだけれどね」

「と、話している間についたわね」
「ここの検問も抜けないといけないから、ニトロちゃん、そこで止めてもらえるかしら」

「はい」
車が一台分通ることが出来る通路、その端に車を止める。
そこには、シールドが展開されており、通ることが出来ない空間になっていた。

「ここで、こうしてっと」
そういうと、クレセントは、近くにあった装置を起動させて自らをスキャンさせる。

スキャニングは、数十秒ほどかかり完了し、
シールドが解除された。

「さぁ、いきましょ!」
再び車に乗り込み、進むクレセント達

「ねぇ、なんであの大通りから行かなかったの?」
クレセントがスキャンを受けて進んだのは、塔の中央から外れた右側にある細道の先だった。
中央には、大型車が何台も通行できる通路があり、検問も設けられていなかったのだ。
わざわざ端に行き検問を受けて進むというのが、疑問だったのだ
疑問というよりは、答え合わせに近いかもしれないのだが。

「それはね。ここからじゃないと中央にはいけないからよ」
「中央の大きい道、あったでしょ?」
「あそこは、第5階層までしかアクセスできないのよ」
「私のラボはその上、第六階層の一番上にあるの」

「いったい何階層あるのよ?」

「上が7層、下が7層の計14層構造よ」
「それぞれの層は、24の細かな階にわかれているわ」

「すごいわね」

「ええ、GINO-LANDが誇る英知が結集された場所、GNOタワーよ」

「ネーミングは、センスないわね。そのままね」

「そうね。そこは私も思うわ。もっと、バベルとか付ければよかったのにと思うわ」

「バベルじゃ、崩れちゃうでしょ」

「ソラナちゃん、するどーい!」

「まったく」
「で、この塔の内部、かなり広いけど、どうやってラボまで行くの?」
「このまま走っても地平線しか見えないんだけれど」

「そこは、これに乗ればいいのよ」
「ニトロちゃん、いつものルートでお願い」

「了解です」
そういって、ニトロがハンドルを切ると透明だったはずの空間に色が現れる、車一つ分を包みこむ空間、クレセントはそこでトランザクションを放つ。
放たれたトランザクションが空間へと作用すると、車が空間に固定される。

「何?これ」

「まぁまぁ、見てなさい」
クレセント達が乗った車を包みこんだ空間が加速されていく、そのスピードは余りにも早く、窓から見える風景は、線の様に引き延ばされたものに見える。
しかし、慣性の法則が働いていないのか、体には全く負荷がかからなかった。
加速されること、数十秒、1分にも満たない時間が経過しあたりの風景が移り変わる。

そこは、実験資材や測定用の装置といったものがいたるところにある。
まさにラボというのにふさわしい雰囲気の場所だった。

「着いたわ」

目的地に到着すると同時に空間の包みはほどけ、車から降りる。

一番近くの扉を空けると大きなリビングの様な空間に出る。

そこのソファーへとクレセントが座る。

「ふぅーー、やっと着いたわ」
「と、ちょっと待っててくれる?」
「ソラナちゃんは、コーヒーでいい?」

「ええ、それでいいわ。ブラックで問題ないから、ミルクと砂糖はいらないわ」 

「ニトロちゃんは、いつものでいい?」

「はい」
「じゃあ、ちょっと淹れてくるから待っててね」
そう言って、クレセントは部屋の奥へと引っ込んでしまった。

(それにしても)
(広い部屋ね)
(きっと、応接室だとは思うのだけれど)
(無駄に広いわね)
(それに)
窓の方を見るソラナ
その外には、GNO-LANDの全貌が広がっていた。


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