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3.16章 農業都市_Compound

意識が遠のいていく。
自分がどんどん細分化されていくような感覚。
丁度、貧血で倒れるようなときのような感覚。
(わたし、貧血になったことないけど)
エブモスが知識で持ち合わせている中では、それに近い感覚だった。
目を覚ますと、そこには緑が広がっていた。
木々を縫うように建物が建てられている。
それも、ガラスの様な建物。
主役は、自然やその恵みにあると言いたそうな街であった。

(自然が中心の街、ここが、農業都市 Compound?)

エブモスが脇を見ると、そこにはノノが倒れていた。
「ノノ、大丈夫、しっかりして!」
手でゆっくりと背中をさすりながら、ノノを気遣うエブモス。

「気持ち悪い」
そして、物陰へと走ると盛大にリバースしたのだった。

「まさか、ノノ、乗り物酔いするなんてね。乗り物に弱いんだね」

「ううん。自動車とかは大丈夫なんだけど。これ、頭がくらくらしちゃって、だめだったわ」

「いつも、空中で回転したりとかできるのに?なんでなの?」

「自分でやるのと、やられるのじゃ違うわ」そういって、青い顔をするノノ。

「で、落ち着いた?」

「うん。エブ子が水を汲んできてくれて、多少落ち着いたわ。ありがとう」

「よし!ノノも回復したことだし、まずは聞き込みから開始ね。敵性体?だっけ。どこにいるか調べないと」

「ブリーフィングでは、ファームエリアといっていたけれど。ここがどこかわからないことには移動できないわね。エブ子、近くに何か地図の様なものはないかしら?」
「うん?エブ子、どうしたの?急に青い顔しちゃって。さては、乗り物酔い、遅れてきたわね。あの余裕は強がりだったのね。早く素直になればよかったのに。あなたも私と同じだったのね」
「どうしたの?ぷるぷる顔をふって、吐きたいなら、さっと茂みにいってはいちゃえば楽になるわよ」

「そうじゃなくて、後ろ!後ろ!」

「うん?」
振り返るノノの顔を長いぬめりのある何かがなぞる。
異様な感触のあった方向を距離を取り見る。
そこには、ライオンの頭とヤギの頭の獣がいた。
丁度、彼女の顔をなめていたのは、しっぽにあたる蛇の長い舌だろうか。
ちろちろとその舌を出しては引っ込めている。

「くっ、不意を突かれるとはぬかった」
ここで、悲鳴を上げないのがノノのすごいところ。
どこで、そんな胆力身に着けたのよとエブモスは思ったけれど、それを言っている暇はなかった。
場所は市街地、そして相手の見た目をみればみるほどブリーフィングで説明されたターゲットと特徴が似ている。
だとしたら、被害を最小限に抑える為の行動を開始しなければならなかった。

「ノノ!そいつの相手をお願い!絶対に動かさないように引き付けて。私は、周辺の避難を呼びかけるから!」

「おーけー、エブ子!鉄火場慣れしてるわね。頼りにしているわ」

「好きで慣れたわけじゃないんだけど。了解!」
そういうと、エブ子はノノに敵性体の相手を任せ、トランザクションを紡いでいく。
声量拡張のトランザクションで、自身の声量を上げ街中に伝搬するようになった声で、避難を呼びかける。
市民も初めは何のことかと思ったが、彼女が同時に展開した映像共有のトランザクションで、彼女の話しが緊急であることの真実味が増し人が市外へと非難していく。
市民をパニックにしないように、Juno姉ぇ直伝の誘導話術で話す。
ちんまい見た目によらず結構やるのだ、エブモスは。

「っ!なかなかやるわね。近距離の対応、中距離攻撃手段。ともに持ち合わせているなんて。しかも、上手い!獣にしておくには勿体ないわ!」
獣の連撃を躱しながら、ノノは呟く。
実際、ライオンの様な胴体から繰り出される前足パンチとかみつき、蛇のしっぽによる連携は、熟練した戦士3人が連携を組んでいるかのようにたくみだった。

「ホントの意味で三位一体ね。やっかいすぎるったりゃありゃしないわ。はっ!!」
そういいながらも、どこか楽しそうな笑みを浮かべながら、腕にトランザクションを纏い攻撃を次々とさばくノノ。
一歩も引かず、そして、相手をくぎ付けにしながら、時には挑発して自身に全ての攻撃と注意がいくように仕向ける。
その技は日々の鍛錬の賜物か。一部の隙もなかった。

「しかし、固いわね。いえ、何か得意別な被膜みたいなものがあるわね。ダメージが一向に通らないわ」
分析するように独り言を言いながら拳を振るう。
獣の表面をよく見ると、うっすらとした光の膜が見えた。
それらが、ノノの攻撃を無力化しているのは想像にかたくなかった。

「ならば、アプローチを変えるだけってね」
スピードアップのトランザクションを自分に作用させると獣の懐に入りこむ。
そして、相手の重心を崩すように自身の体を作用させる。
巨大な相手に対するノノの開発した、投げ技だった。
「おちろ!!」
気合を込めて作用させたそれは、獣を自身の身長から地面に叩き落した。
獣が落ちた箇所から衝撃が迸り、大気を振るわせえる。
しかし、獣自体にダメージは与えられなかったようで獣は、何事もなかったかのように飛び起きる。
(固すぎるどころの話しではないわ。物理攻撃事態が効いていない)
(仕切り直すとしても、突如あらわれた理由がわからないことには仕切り直しが出来ない)
(無の気配から、有が発生した。私が酔っていたとは言え、感知できないスピードで)
(少し推論させてもらうとするわ)

そう考えるや否や、ノノは周りに住人がいないことを確認すると獣をほって走り出す。
それは最速跳躍の速さ。
あっという間に、見えなくなった。
(っと、ここが分岐点ね)
何かを試すような目線で、建物の中から獣の気配に集中する。
獣は、ノノがいなくなったのを感知すると、体を纏う光の被膜から文字を編み出しトランザクションを発動させる。
光の環が獣を包み込み、姿が消える。
(きた!推論はあたりのようね)
ノノは、振り向くと構えを取り無数の拳を振るい拳閃を放つ。
光の輪を抜け出現した獣にそれらが当たり、壁まで吹き飛ばす。
立ち直りまでのわずかな時間で、広場へと跳躍し、わざと自身が見えるようにして挑発する。
獣がノノに向かって突進してくる。
(エブ子には向かなかったところを見ると、フォーク体の気配を感知して、ワープのトランザクションを打ってくるのね)
(これじゃ、このままだと、私は、撤退できないわね)
(ここは、あれをつかって時間を稼がせてもらうしかないわね)

「エブ子!住民の避難は!?」

「こっちは、大丈夫!終わったよ」

「なら、こちらを手伝って。あれをやるわ!」

「あれって?」

「あれよ。鍛錬で編み出した『拘束技』よ!」

「!?あれね。りょうかいだよ!」
そういうと、エブモスは詠唱に入る。
長い詠唱になるが、問題はない。
なぜなら、標的の目にはノノしか映っていないのだから。
詠唱の間、ノノは時間を稼ぐ。
両手にトランザクションを纏い、拳と体捌きで、獣の追撃を躱す。
防戦に集中したときのノノに、獣の連撃は通用せずその悉くを打ち落としていった。

「できたよ!ノノ!!」

「おっけー!エブ子、合わせるわ」

そういうと、ノノは、腕に張り巡らしたトランザクションを一時的に解除する。
それに合わせエブモスが、イーサリアムの手順でコスモスのトランザクションを作用させノノの腕には、赤い文字が浮かび上がるように展開された。
獣も待ってはくれない、左右の腕を振るいしっぽの薙ぎ払いまで含めて追撃してくる。
それをノノはステップで躱し、真っ赤にそまった拳を叩き込んだ。
「-TX NoNo Bind Exitence /ALL -PW EXD」

拳から赤い文字が獣を侵食し、染め上げる。
染め上げるとともに、獣は活動を停止する。
凍らされたようにその動きを止めたのであった。

「やりきったわね」

「いぇい!!」
パン!!お互いに手をハイタッチする。

ノノの放ったものは、イーサリアムに存在するものを強制的にコスモスの動作原理へと書き換えて、機能不全に陥らせるトランザクションだった。
イーサリアムとコスモスの両方に干渉することが可能なエブモスがいたからこそ放てた技。
もっとも、エブモスが放ったところで、トランザクションの作用スピードが遅い為、標的によけられてしまう。
それを、内向きにはイーサリアムの原理、外向きが作用点としてのコスモスの原理で書き、ノノに纏わせて標的に当ててしまうという荒業だった。
相手がイーサリアムの法則で動いていない場合には、作用は期待できなかったが、どうやらその心配はなかったようだ。
標的は、完全に沈黙していた。
しかし、生体活動自体を止めたわけではない為、トランザクションが切れ、イーサリアムの法則が相手に戻った時には、動作を再開してします。
とは言え、時間稼ぎには成功した。

「物理攻撃が全く効かないのよ。こまったわ。どうしてくれようかしら」

「んー、わたしは、そっち方面の専門家じゃないからなぁ。こういうときは、キャップに相談してみたら?」

「どうやってよ?連絡先なんて!あれね」

「そう、あれ」
そういって、エブモスが名刺を取り出した。

街中にあった端末を拝借してトランザクションを打ち、活性化させる。
「もしもーし。どちらかな?」
とぼけたような声が聞こえる。間違いない。キャプテンだ。

「キャプテン、私よ。ノノよ。標的と交戦したわ。物理攻撃が全く効かないの。どうすればいいか、わかる?」

「うーん。僕もそういったことの解析は苦手だからなぁ。ちょっと待ってね。ボットで撮影した映像を解析班に解析させるから、しばらくまってね。解析が終わったら、僕から連絡するよ」
「あっ、現地の協力者。いるからここ、訪ねてみてくれるかなぁ。または、ここに連絡してみて」
そういうと、キャップは通信を切ろうとして、付け足すように現地協力者の連絡先を渡してきたのだった。

「一子?って読むのかな?」

「そこの二人!動くな!」
後ろから、女性の声がする。
振り向くと、ノノとエブモスに銃口を向けた女性がいた。
黒髪のサイドテール、気の強そうな目元で獲物を狙うような目線で銃を向ける女性。
その手と足は、震えておらず落ち着き払っており、その胆力がうかがい知れる。
その佇まいは、どこかの誰かさんが語っていた内容と一致した。
(絶対この人、ゼンさんの元奥さんだ!!)

2重の意味でホールドアップした2人と、ゼンの元奥さんとの出会いだった。

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