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4.27章 GNOシティ-3

爆炎が上がり、黒い煙が立ち込める中、そいつは立ち上がった。
トノサマバッタの様な頭部、痩身ながら忍者の様に無駄のない肉体を昆虫の甲殻の様な黒いメタリックな何かが覆っている。
銀色に光る複眼からは感情というものを一切感じなかった。

(何なんですの?あの生物は?いえ、生物なの?ううん。そんなこと今はどうでもいいですわ)

「各員、上陸艇A-7の状況を報告なさい!」
「救護対象がいる場合は、速やかに救護班に回すこと!」

「そして、そこの真っ黒なあなた。なんてことをしてくれたの!」
ソラナの呼びかけに答えず、そいつは手を振り上げそして、くだした。

刹那
金属と金属がぶつかり合う音がする。
「間に合った!」

「フィー!あなた!」
フィーの巨大剣がバッタの頭部をした怪人からの一撃で軋む

(何があったというの?)

「不思議な攻撃をするんだね。あなた」
「でも、私の友達に手を出すなんて許せない!」
そういって、フィーは怪人と距離を詰め、歪んでしまった巨大剣を横に薙いだ。
静かに呼吸するように怪人は巨大剣へと右の拳を放つ。
歪んで破損していた巨大剣は、粉々に砕け散ってしまった。

空いた左手で空気を掴むようにフィーの顔面へと向けてアイアンクロ―を放つ。
フィーは、砕けた巨大剣の柄を放し、体を勢いよく斜めに倒して怪人の一撃を回避する。
空気を掴むような一撃が空を切り、地面には真っ赤な液体がしたたり落ちる。

避けた上で、尚もその衝撃は、フィーの肩を切り裂いていたのだ。

「なんて鋭い一撃を放つのよ!あいつ!」
そう言いながら、手元にある武器をフィーへと投げる。
見事な投擲であり、それは怪人の攻撃中に行われた。
フィーが受け取れるであろう絶妙なタイミング

「さんきゅー!ソラナちゃん」
それをキャッチしようとして手を伸ばすも、同時に怪人の蹴りが武器へと放たれ粉々になる。

「あなた!なんてことしてくれるの!?」
そう言いながら、怪人の弱点はないものかと探りを入れるソラナ

「そんなに自分に投げて欲しいなら言ってくださればよろしかったのに」
そう言って、ERC-20と書かれたメカニカルなボールを怪人に投擲する。
フィーは、それが『どういうもの』か知っていた為、高速で戦闘から離脱し、遠回りにソラナのもとへと駆け寄った。
怪人は、最短距離でボールを回避し接敵を試みて、その体の一部がはじけ飛んだ。

ERC-20と書かれたボールは、投げる者が予め頭で決めた起動を逆行するように必ず貫通する兵器だった。
クレセントがセンチネルの為にプライベートで開発した最新鋭の兵器
完全な隠し玉のそれ
フィーは予め、前線基地でソラナとともにセンチネルからレクチャーを受けていたので、どういう仕様かわかっていたのだ。

「ソラナちゃん!結構危ないことするときあるよね!」

「あら、あなたなら特性が分かっているからきっと避けてくれると信じていたから使ったわ」
「ほら、ごらんなさいな。相手にも致命傷を与えられたでしょ?」
万が一にもフィーを巻き込まない軌道を瞬時に思い描けたからこそ出た言葉だった。
それは、水球競技のエースとしての彼女の側面だった。

体がはじけ飛んだ怪人を見ると、何事もなかったかのように吹き飛んだ体は元へと戻っていた。

「なんて、デタラメな体しているのよ!あいつ!」
「まぁ、見た目の時点でまとめじゃないってことは、わかりますけど!それにしても、酷いんじゃありませんこと?」

怪人は、先ほどの一撃などどこ吹く風、再びソラナへと走り近づいてきた。
そのスピードは、刹那。
そして、繰り出される拳は、ソラナの頭部を完全に破壊する為に放たれた。
しかし、拳はいつになってもソラナに到達することはなかった。

代わりに真っ赤な飛沫がソラナの視界を埋め尽くす。
ソラナの代わりにフィーが両手で怪人の拳を受け止めたのだ。
ただ、彼女もされるがままではなかった。
両手に装着したERC-20の球体を至近距離から放っていた。

だが、その為、丈夫だと自称していた彼女のからだは、手が真っ二つに裂けて、そこを起点として全身へと罅が割れるような亀裂が走っていた。

「そらなちゃ、逃げて」

そう必死になって声を振り絞る彼女を見捨てて逃げるなど、ソラナにはできない選択だった。

(全力で助けてくれた友達の命が消えようとしている)
(どうしたら助けられる?)
(とはいえ、今のわたくしにはトランザクションを操る力も肉体的な力も無い)
(ならば、頭を使いなさい!ソラナ)
(考えるのよ)
(何かないの!この状況をどうにかする何か!)
(私の友達が倒れているのよ!)
(ソラナ!なにかないの!)

全力で思考するも回答は得られず。
目の前の怪人を睨みつける。
(あいつは、ちからが無いくせに私に立ち向かって来たわ)
(全力で向かってきて!友達と一緒に。なんの根拠があったかしらないけれど右手を掲げ奇跡を起こしてわたくしを追い詰めた)
(最後まであきらめなかったあいつ)
そういって、XXXXの姿を思い出す

(名前も姿も思い出せないけれど、その在り方は、とても温かく、そして鮮烈だったわ)
自分が過去に受けたことを思い出し、その勇者の行いを思い出し、こんなところで自分が心折れるわけにはいかないと再度奮い立たせえる。

フィーが攻撃を防いだ時に両手で持ち、直撃させた最新兵器
その一撃を至近距離から食らった怪人は、さすがにダメージがひどかったのか再生までに時間を要していた。
しかし、それも徐々に回復しつつあった。
黒い煙を上げながら、時間を巻き戻すかのように再生していく怪人。
それを睨みながら、瀕死のフィーをかかえ、策はないかと考えを巡らせるソラナ。
フィーを早く、救護班に見せなければ命が危うい。
しかし、後ろを見せれば、直ぐにその両手でソラナごと切り裂かれるという確信があった。

(ふむ、こういうときはどうするかだって?)
(そりゃー、生き延びるのが第一だ)
(そうすりゃ、相手を倒す機会なんざ、巡って来るというものさ)
(大切なのは、次に賭けられる場に自分が『いる』ことだ)

加速される思考の中、懐かしい声が再生される。
かつて、ソラナに無茶ぶりばかりをしてきた義理の兄にして上司の言葉だった。

(なんで、こんなときに限って思い出すわけよ!)
今みたいのは走馬灯ではなくて、解決策なのよ!と苛立つソラナ

(使えるものは、なーんでもつかってみろ。そうだ。例え道端にころがっている石ころだってお前がピンチを打開するときの策になるかもしれないだろ?)

(道端!?)
ふと思い出したかのように、ポケットを漁る。
そこには、センチネルから返してもらったNFTが入っていた。
超巨大ボットのコアに取り込まれていたNFT
これが組み込まれたボットは、とんでもないスピードで再生して襲い掛かってきたとのことだった。
(一か八か)

「フィー、あなた、コアがあるのは右胸で間違いないわね」

「そうだけれど」
息も絶え絶えに答えるフィー

「許してもらおうとは思わないわ。ただ、あなたが助かれば!」
そういって、NFTをフィーのコアへと打ち込む。

(もし、再生の能力があるのなら、きっと)
(そうでないのなら、わたくしは、助けてくれた友達にとどめを刺した悪者でかまわないわ)
コアは、NFTを取り込み、フィーの体が黄金色に包まれた。

かくして、ソラナの読みは当たっていた。

「ソラナちゃん!ありがとう!」

「あなたがお礼を言う必要はないわ。むしろ、私に謝らせて」

「そんなこと。あっ、でもその前に」
「あいつを打ち倒すのが先」

仕切り直しとなった戦いを目の前に、再びファイティングポーズをとる二人。
その瞳には諦めというに文字はみじんも浮かんではいなかった。

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