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1.5-33 追跡/逃走

「はぁはぁ、っはぁ」
息が上がりそうになるのを抑えながら走る。
少しでも、遠くに逃げられるように。
少しでも、確実に逃げられるように。

追手の気配は、まだ無い。
しかし、相手はコスモスだ。
複数の人員を動員し、人海戦術になればせっかくの撹乱も長くは持たない。

人影は、走る。
夕日の沈む通路をひたすら。

逃げるだけではなく。
何かを求める様な横顔で。

—————
「うーん。こちらは、違いそうですね。しかし、ゼクスさま。いえ、ゼクセルさま『慣れ』が早い」

「それは、施術した者の腕が良かったからだろ?」
そう言って、リックを見上げる白髪の美人。

「はぁ。だとしても、目の換装を終えて直ぐにその体に慣れるのは。まぁ、さすがというか」

「こちらの方が、長くいるからな!0xLSDにいた時もあの姿ではなかっただろ?」
そういって、ヒラヒラとしたシースルーのシルク性と思われる艶やかな素材で出来たローブをはためかせながら、言う。

「それに、ほら。こちらの姿の方が可愛いだろ?」
そう言って、リックの腕に抱きつくゼクセル。

平だが、僅かに。
ほんの僅かに膨らみを帯びた胸部がリックの腕に当たる。
白く、幻想的な印象を与える肌の色とは裏腹に確かな体温が彼にまとわりつく。

「っつ」

「どう?ときめいた?」

「何を言っているのですか、全く」
「時間が無いんですよ?ちゃっちゃと片付けてしまいましょう」
「いちゃいちゃは、いつでもできるでしょう?」
違いますか?
そう、手をヒラヒラとさせておどけるリック

「リック、おまえ。説得力皆無だぞ?」

「何を言っているんですか?ゼクセルさま?」

「だって、お前、脈拍がはやく、」

「あーー!それ以上言わないでください」
「ほら、バカなこと言っていないで、追いますよ。ゼクセルさま!」
ゼクセルの腕を柔らかくほどき、先を急ごうとするリック。

(むっ)
がしっと、リックの手首を掴み逃がさないゼクセル

「私の事、忘れていただろ?」

「それは、」

「忘れていたんだな?」

「ゼクセルさまっ!」
さっきまでの余裕はどこへやら、ガシッと手を握り返して謝ろうとするリック。

「いや、いいんだ。リックのその顔でわかったよ」
そう言って、クスっと笑みを浮かべるゼクセル。

「すまなかった。『トロン』の業の所為だからな。私も、対処する事が出来なかった。許せ」

「あなたが、謝らないでください」
ゼクセルの手を握った自身の手を緩く包む様な形に変えて、再度、手を握り返す。

「甘えん坊だな」

「どちらがですか?」

「復帰も早いようだな。なら、いくぞ!時間がないのだろ?」
そう言って、彼の手をするりと解いてゼクセルは駆け出した。

—————
「いったん、ここまで来たら大丈夫」
そう、話しかけて座り込む。

貨物輸送用の無人列車
輸送物資の合間に、身を潜める。

「ごめんなさい。窮屈な思いをさせてしまって」
「でも、ここなら。少しゆったり出来るから」
割れたコアに向かって話す女
コアは、中央部が砕けており、時折、赤い光を彼女に向けで返していた。
しかし、それは、日の光を受けてのもの。
自然の現象に過ぎなかった。

「そうね。トロン。ゆっくりしている場合じゃないわね。でも、貴女はとても頑張ってくれて。疲れているわ。ひとまず、休んでから行きましょう」
そう言い終えると、女は目を閉じて眠ってしまった。
大切そうに、その腕で砕けたコアを抱きしめて。


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