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5.1章 エブモス

「うーん、ソラナちゃん。VMは絆なんだよ。むしゃむにゃ」

「エブ子ちゃん。そんなところで寝ていたら風を引くわよ」
そういって、彼女をゆすり起こすオズモ
イーサの集中治療を終え、回復用の機器を使用しベッドで休ませている間、エブモスはずっと一緒にいたのだった。
ただ、急な眠気に襲われて寝落ちをしていたようだったのだ。


「ん?クレセントさん?」

「クレセント?だれそれ?私はオズモお姉様よ」

「あーー、オズモさん。おはよう」

「おはよう。エブ子ちゃん」
「イーサさんのことが心配なのはわかるけれど、そんなところで寝ていたら体調を悪くしてしまうわ」
「いつ、襲撃があるかわからないし。ベストなコンディションで挑むのも大切よ」

「うん。わかったよ。オズモさん、ありがとう」

「どういたしまして」
「ところで、さっき言っていたソラナって。ひょっとして、あのソラナ?」

「うん、そうだよ」

「どうしてまた、敵の親玉の名前が出て来たのかしら?夢の中でも戦っていたの?」

「ううん。ソラナちゃんとは戦っていないよ」
「むしろ、一緒に戦っていた」

「?」

「夢ってあんなにリアルなものなのかなぁ?」

「どうかしらね。ある説ではパラレルワールドへのアクセス手段とも言われているから、なんともいえないわね」
「ただ、その中でエブ子ちゃんは、何か感じたみたいね」

「わかるの?」

「わかるわよ」
「だって、あなたが呼んでいた名前。響きからは全然敵意が感じられなかったから」
「むしろ、親しみ。ううん。友達のような響きがあったわ」
ふしぎねーと、付け足すオズモ

「うん。友達だった。それに、ソラナちゃんはあんなんじゃないっておもった」

「それってどういうこと?」

「本当は、わたし達と同じ、ただ大切なものを大切にしたい人なんじゃないかなって思ったの」

「そう。なら、その気持ちは、大切にした方がいいわ」

「なんでそういう風にいってくれるの?」

「私ね。エブ子ちゃんには不思議なところがあるって思っているの」
「だれとでも仲良くなれる」
「でも、それだけじゃなくて。きっちりと本質を見据えているというか。そういう力を持っていると思うわ」
「だって、そうじゃなければシークレット君を助られたことも説明がつかないでしょ?」
記憶を消されたこと自体を飛び越して、違和感を感じるなんて。
と、補足するように続ける。

「やった。オズモさんからお墨付き頂いちゃった!」

「お墨付き?」

「直感のお墨付き!」

「直感のお墨付きって、また、閃きにものを言わせてきたわね」

「うん!」

「まぁ、今日はこの辺にしておいて、自室で早く寝ることをお勧めするわ。体力だって有限だしね」

「わかった」
そういって、エブモスは素直に自室に戻る。
コスモス研究棟に構えられたオズモの研究室付近に借りた仮の自室へと。

(でも、夢の中のソラナちゃん。すごく立派だったなぁ)
(だけど、少し寂しそうな)
(だから、もしかしたら、わたしが今まで見て来たソラナちゃんの本当の姿。もっと違うものなのかもしれない)

ふと、彼女がFTTというエキゾチックマテリアルを使用していることを除けば、本来ある人格は異なるのではないのか。
と考えてしまった。

今まで、散々、苦しめられて。
エブモスも死にかけたことが何度もあったというのに。

(それでも、『ニトロ』と呼ばれソラナちゃんと駆け抜けた世界。信じてもいいよね)

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