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4.89章 証明

串刺しにしたフィーを見上げるジノ、ふと思ったのか左手を掲げる
そこに銀色の光が集まり圧縮され、巨大な球体となっていた。

「念入りに止めは刺しておこう。万一ということがあってもあれだからな」
そういって、巨大な水銀の水滴の様なそれを投げ放つ。
緩慢な動作で投げられたそれは、瞬時にフィーへと着弾した。
着弾と同時にプラズマを放ち拡張される球体。
その中にとらわれたフィーと武器を一気に外圧で破壊しようと球体は爆縮した。

「これで、不安の種は完全になくなったというわけだ」
そういって、念入りに周囲を観測する。
万一にも見逃しが無いように。

しかし、それは、現れた。
何もない虚空から。

緑色のドレスをはためかせ、銀のティアラを身に着けたサテンの様な黒の長髪に銀のメッシュの女性だった。
「あなたを打倒させてもらうわ」
「このチェーンに生きたものすべての総意として!」

「その姿は?フィー、おまえなのか?」
念入りに消したはずの相手が無傷で立っている。
しかも、その手には計測不可能な何かをもって。
剣の様にも見えるし、銃の様にも見える。
もやもやと歪んだ陽炎みたいな細長い何か。

予想外の相手に対し、同対処したらよいものか確定できない。
(ならば、加速し先制攻撃を決めて、また消すだけだ)

左手に中途半端な長さの刀を顕現させ、甲殻を構成
銀色の粒子をまき散らして自らの存在を加速させるジノ
彼女が焦りから垂らした汗が空中で静止する。

自らだけが動ける空間で更に俊敏にフィーへと近付き、幾重にも斬撃を放つ。

「なんで?冗談でしょ?」

「事実よ」
すべての斬撃は、彼女の持つ不定形な長物で弾き返されていた。
加えて。

「っっつ」
ジノの腕から血が滲んだ。
甲殻を切り裂き本体へといたる一撃だった。

(どうしたんだ?先ほどまでのフィーではない?どうする?)
「いや、やることは変わらないがな!」
そう叫ぶと高速でコントラクトを紡ぎトランザクションを放つ。
部屋の壁から、銀色の粒子がジノに向かって集中する。
豪雨の様に降り注ぎ、周囲の機器を圧力で押しつぶしながら、ジノへと集中する。
ジノの体も銀色の雨を受けて、細く圧縮されていく。
圧縮された場所から、銀色の雫がそれを補う様にくっつきジノの体を変質させていった。

近くにいたフィーも、銀色の雨に巻き込まれるが彼女に着弾した雨は溶ける様に蒸発していった。

ひとしきり振った雨は、急に止み。
そこには、一回りシャープになった銀色の人型、カブトムシの頭部をしたものが姿を現した。

甲殻だが甲冑の様に中空があることを予想させていた外郭は、まるで人機一体といった様にそのなかには何もない生物の様なフォルムに落ち着いていた。
甲殻の様なものは、細身の筋肉質な物へと換装され、その体を構成する全てが完璧なレベルで融合していた。

まるで、はじめからそういう生き物だったかのように。
ジノは生まれ変わったのだった。

「仕留める!」
機械音の様な声で放たれた言葉を置き去りに彼女は加速する。
全てが止まった世界、その先へと進みうる位の加速。
ジノの持っていた刀は、彼女が元居たところにとりのこされ、その構成成分の濃淡が目視で確認できる不安定なものへとなっていた。
その代わりに鋭利になった彼女の手が貫手を放った。
躱せることのない、反応すら許さないそれに予備動作もなく躱すフィー
空を切ったジノの手を手に持った不定形な何かでなぞる。
分子同士の結合が切れたかのように、はじめから切り離されていたかのように自然と切り離され宙を舞うジノの腕。

「まだぁ!!」
そういうと、ジノは腕に銀色の粒子を集め腕を再構成して切りかかる。

切りかかった腕は、再びフィーに切り飛ばされ虚空へと舞う。
腕が切られる度に再構成させ、切りかかる。
切られる度に再構成する。
その繰り返し
それも、切られる範囲は回数が経過するほど広くなっていく。
初めは、腕の部分だけだったが、次第にもう片方。
足、首、胴。
次々と切り飛ばされる部位が増えていく。
しかし、その都度、丸ごと再構成して立ち上がりジノは向かって来るのであった。

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