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3.50章 ノノの夢

どこからか、声が聞こえる。

私は、そもそも、だれなのだろう。

第一のプランとして、現状維持が挙がった。
それは、無難ではあるが衰退をたどる可能性があった。
第二のプランとして、新たな方法を採用する案が挙がった。
それは、挑戦的で問題を打倒するようにも見えたが、一方的過ぎた。
だから、我々は、第三のプランとして、まず、生きている彼らも含めて現状を反映しようと思った。
dappsの集合無意識、その総意として、ここにコアの無い意識体を誕生させる。
No Named お前の名前はゼロだ。
イーサリアムに息づくdapps、そしてお前以外のフォーク体をよく観察してこい。

謎の声がそう言い終え、目を覚ますと私は、野原の中心にいた。
多分そうだ。
ここは『野原』だ。
だって、『草』の香りがとても強いのだから。
イーサリアムのブロックチェーンに書かれていた情報に、野原は『草』の香りが強いと書いてあったのだから。
足があり、手があり、体がある。
目を開きあたりを見回す。
草と背丈の小さな木がちらほら生えているだけだった。
やっぱり、野原だった。
私の予測は正しかったようだ。
だからといって、何か得たかと言われるとそういうことではない。
単純に予測が当たったことが嬉しかったのだ。

ゼロとして、得た肉体で初めて深呼吸する。
生き物が息づく自然の香りがした。

「いい空気」
「ここがイーサリアムの大地なのね」
「私の名前、ゼロっていうのね」
「イーサリアムに生きるもの達の声を集めてこいか、、、、」
「何をすればいいのよ!?」
イーサリアムの集合意識からの命令が漠然とし過ぎていて何をすればいいかわからなかった。
おまけに、与えられたのは、小さな力とトランザクションを一切放てない体だけだった。
腕と足まわりを持て、ブロックチェーンから得た知識と意識体やdappsの特徴と照らし合わせる。
設定年齢は、6才位だった。
「どうしろと?」
無力な体を与えられて、この世界を回れと?
集合意識は一体何を言っているんだ?
策かギフト位欲しかった。
だから、与えらた体に何かないか探すために目を閉じ、意識を集中してみる。
ネームドは、生まれながらにして自分の使命を知り、幾つかの絶対的な特殊能力を使えるのだ。
使命はわかるからいいけど、特殊能力無しなんて、どんなムリゲーかしら。とゼロは思ったのだ。

(特殊能力、ぜったいあるはず!)
(あった!)
(でも、これ、ダメなやつでは?)
意識を集中し自分の内面に向けた結果、大理石の上に大きなボタンが置かれていたのだ。
それには、大きな文字で『全て消します。ここからスタート、大丈夫、恐れないで』と書かれていた。
(明らかに怪しすぎる)
怪しすぎるが、それが特殊能力なのは一目瞭然だった。
なすべき目的がある彼女に残された道は、その怪しげなボタンを押すことしかなかった。
意識を表面に浮かべ、あたりを見渡す。

自分以外、誰もいない野原の真ん中
しかも、自分は全裸
「、、、、はぁ」

もう一度、意識を集中する。
スイッチが目の前に現れ、そこには『お帰り!』と書かれていた。
(はらたつわーーー)
(もう、なんとかなるでしょ!というかなんとかしてよ!)
そう思い、彼女は渾身の力でスイッチを殴りつける様に押した。
(えい!!)
とたん、あたりが暗闇に包まれ、意識の中の自分が消え始める。
(やば!やっぱり、まずい奴だったんだ)
後悔したところで、遅かった。
ゼロの初期化は、完了したのであった。

「、、、」

「やっと、目を覚ましたのね!」
「あなた、野原で倒れていたのよ。しかも、全裸で!」
「びっくりして、家まで運んじゃったけど、迷惑だったらごめんなさい」
「うん、この反応は、、発生したばかりの意識体?でも、今まで気づかなかったし」
「あなたの波動、凄く小さいのね」

「、、、、」

「ごめん!傷つけるつもりはなかったの」
「それに、私もそんなに波動、大きくないから。むしろ、小さい方から数えた方が早いというか」
「ひょっとして、あなた、話せないの?」

「tsxsssxs ssrss errresvvee」

「言語学習がされていないのね!」
「それならば、こっちの本を読んで。あと、こっちも」
「私も、生まれたとき、みんなと違って直ぐに話せなかったから同じだね」
「食事と場所はここ。使っていいから」
「私と共同になるけど」
「あっ!名乗ってなかったわね。私の名前は、ノノ」
「生まれたときに弱い力しか持たなかったから、ナンバーを貰えなかったんだけど、それがどうしたって感じで、自分で名乗ったわ!」
そいって、ノノは自己紹介をしたのだった。
彼女は、トランザクションは打てるもののコアとイーサリアムの共振が余りにも少ないことから使用できるリソース量が少なかった。
だから、主要dappsによるナンバー交付で、基準を満たさず番号を貰えなかったのだ。
だが、彼女はたくましかった。
使用できるリソースが少ない分、自分の体力を鍛え、やれることは何でもやってきた。
言語取得も普通なら、生まれたときに完了しているものを彼女は出来ていなかった。
だから、努力して後付けで体得したのだ。
そんな彼女に習い、野原で拾われた童女は、言葉を覚えていった。
彼女の学習能力は、凄まじく一週間足らずでノノと同じように話せるようになっていた。

「凄いわね!あなた、たった一週間で言葉をマスターするなんて」

「そう?だとしたら、ノノの教え方が上手かったおかげかな」

「そう言われると悪い気はしないわね」
「でも、トランザクション、全然打てるようにならないわね」

「うん。何故か、とんでいかないの」
「こうやって、纏うまでは出来るのに」
そう言いながら、火を放つトランザクションをリソースを消費して発生させる。
彼女の場合、使えるリソースをイーサリアムから取り出せないからリソース袋を取り付けて行う。
すると、腕の表面が燃え上がる。

「熱くないのに燃えている。不思議」

「不思議!じゃなくて、早く消して!部屋が火事になるから部屋の中で火のトランザクションは禁止って言ったでしょ!」

「暖かくて気持ちいのに」

「だめよ。他はいいけど。それは、危ないからやっちゃだめ」

「はーい」
そういうと、彼女はトランザクションを中断し火を消した。

「こういう時は、どういうんだっけ?」

「ノノ、ごめんね。もう、やらないわ」

「うん。何度目かしらないけど。いいわ。って、根本的な解決にならないわね」
「そもそも、温かくするならば、他のトランザクションを使ったらどうかしら」
「例えば、体表面体温を上げるトランザクションよ」

「?それってどうやるの?」

「お日様ってあるでしょ」

「あるー!」

「お日様にあたると温かいでしょ?」
「そのときに、光が当たっているから温かいの」
「オレンジ色、赤い色。そういった光が暖かいのよ」
「それが自分の腕の表面をなぞるようにイメージしてトランザクションを打ってごらん」
「こんな風に」
ノノの掛け声と同時に、トランザクションが打たれノノの腕から暖かそうな光が放たれる。
そこにゼロは手をかざす。

「ノノの腕、あったかーい!」

「でしょ!」
「これなら、火のトランザクションみたいに危なくないからやってみて」

「うん!」
「まずは、あたたかな光、おひさまをイメージして、おひさま、おひさま」
「できたー」
そういうゼロの腕から、光が放たれることはなかった。

「失敗?」
泣きそうになっているゼロ

「ちょっと待って!まだわからないわよ」
そういって、ゼロの腕を触るノノ
「うん!上手くいっているわ」
「ほら、ゼロも自分の腕、触ってみなさい」

そう言われて恐る恐る自分の手を触るゼロ
「あっ、あったかーい」

「でしょ?」

「成功よ!」

「でも、ノノみたいに光が出なかったよ」

「それは、他のトランザクションと同じね。今回は光を放つのだから、その光が放たれなかったから私達の目ではわからなかったのよ」

「それじゃ、失敗じゃなーい」

「そうでもないわよ。いい、それは温める為に使えるトランザクションなの。だから、あなたが温めたその腕で寒そうにしている誰かや自分を温められたら目的は達成できるの」
「要は考え方次第なのよ」

「それは、ちょっといいなぁ」

「でしょ?」

「だから、トランザクションが放たれなかったからといって落ち込んではいけないわ」
「寧ろ、ゼロは、トランザクションをイメージで組み立てるのがとても上手いわ」

「そう?」

「そうよ。だって、私が今のトランザクションを打てるようになったのは、専門書を読んで、何回も練習してやっと一年は掛かったわ」
「それをあなたは一瞬で出来たの」
「ネームドだって、一瞬で体得するなんてことは出来ないわ」
「だから、それはあなただけの才能よ」
そういって、ゼロの頭をノノは撫でた。

ノノの教えてくれる勉強は楽しかったし、彼女がくれたゼロという名前も好きだった。
『あなたは、自分の名前がわからない』
『そして、言葉を話すことが出来ない』
『だから、ゼロって名前にするわ』
『でも、悪い意味でつけるんじゃないからね』
『今、ここから始まる。前に進むしかない』
『そういう意味を込めて付けたわ!』
そういって、ゼロよりも誇らしげに名前を叫んだノノを今でも覚えている。

『ゼロ』
それは、奇しくも彼女が記憶を失う前にイーサリアムの集合意識から名付けられた名前と同じだった。
全てを集約する為のゼロ地点

「ゼロっかぁ」

「どうしたの?改めて自分の名前を呼んで?」

「ううん。ノノがつけてくれた名前、好きだなぁって思ったの」

「嬉しいこと言ってくれるわね!」
「よし!今日は特別に星見をしちゃうぞ」

「えっ!いいの。ノノ明日早いんじゃないの?」

「大丈夫、大丈夫!気合いで起きるわ!」
そういって、ゼロを家から連れ出し、片手でひょいと持ち上げて肩車をする。
日々、農作業と鍛錬で鍛えらえた肉体は、体の小さなゼロくらいなら簡単に持ち上げられるのだった。
肩車の姿勢で、浜辺が望める丘へと登る。
ノノの家は、海辺の丘にあるのだ。
その更に高い場所へと身を置いた。
ノノの長身で肩車をされて、ゼロは遠くを見渡した。
水平線から垂直に星々が輝いていた。
それらの光に手を伸ばす。
届きそうなばかりの距離感に、思わず目を輝かせる。

「どう?久しぶりの星の海は?」

「素敵!きれいー」
「ねーノノ。あれは何?」
小さな指で示した大きな星団についてゼロが尋ねる。

「あれはね。コスモスっていう星団よ」
「正確には銀河かしらね」
「まだ、解明できてないことが多くて、一説には銀河の一部がこちらの次元に露出しているって言われているわ」

「んー、ノノ、難しいよそれ」

「あー、ごめんごめん。そうよね。そんなこと関係ないわよね」
「うんとね。とても、大きなお星さまの集まりよ」

「おーーー!お星さまの集まり!」
「家族!?」

「そう、家族よ」

「私たちみたいな?」

「そうよ」
そういうと、ノノはゼロの手を握った。
小さな手は、ノノの手を握り返すように動いた。

「あったかいね」

「そうね」

ノノもゼロも、家族二人で星空を眺める時間が好きだった。
遠くに思いをはせながら、近くのものを感じられるから好きだった。

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