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5.8章 全力

「その程度なの!?」
ソラナは、シールド型のライフルを振り回す。
それが、イーサに叩きつけられる度に彼女を弾き飛ばす。
単純な重量と衝撃で。
ソラナが踏み込む度に彼女の足元が地面にめり込む。
コントラクトで超重量の武器を顕現させ、それを自由自在に振り回す彼女のパワー
高濃度のリソース塊である銀のNFTを持ち、速いトランザクションを打つことができる彼女の真骨頂。
単純なパワーでの制圧だった。

(一撃一撃が重い)
攻撃を捌こうにも、重すぎる一撃に衝撃を逃がしきれず受ける形となるイーサ。
彼女の手の内側がピリピリと痙攣していくのが分かる。
(これ以上もらうと、ダメね)
そう考えると同時にガントレットで弾くような一撃をソラナへと放つ。
当然、彼女も迎え撃つ。

「遅いですわ!!」

ただ、それはイーサの計算内。
振るわれたシールド型のライフルにぶつけ、発生した衝撃を利用し後方へと飛ぶ。

「甘いっですわ」
そういうと、ソラナはライフルをイーサの両肩目掛けて発砲
ガトリングガンの様に発射された弾丸の雨をイーサは、躱す。
それに合わせる様にソラナも射線をずらしていく。

イーサも遠距離の攻撃手段がないわけではなかった。
小さなリソース塊をカートリッジから取り出すと、それを指先で弾く
高速で弾かれた塊は、極限まで加速されソラナへと着弾するかに思えたが、彼女の前で見えない壁に阻まれる。

(見えないシールド)
(力場に違和感があったから、もしかしてと思ったけれど)
(なかなかの反則技ね)

「どうしたのかしら?イーサともあろうお方がその程度なのかしら?」
その口上には、どこか尊敬を内包したような挑発が含まれていた。
手を合わせた上で言っているのだ。
彼女が積み上げてきた技や思いを汲んだうえでのソラナの挑発。

まるで、『あなたの全てを持って、思いを通してごらんなさい』
そんな言葉を含んだ挑発だった。

(いいわ。見せてあげるわ)
イーサは、弾丸を回避する。
しかし、それは、射線の外側に回避するのではなく、内側。
ほんの僅かに開かれた空間を用いた回避だった。

線対処に発射される弾丸の雨、その合間を縫う様にイーサがソラナへと回避行動を取る。

とりながらも、ソラナへと接近を試みる。
イーサが接近戦に持ち込むのを見越したかのようにソラナは、弾丸の雨の真ん中にロケット弾を発射する。

弾丸の雨に挟まれる形で襲い掛かかる猛威。

(こんな近距離でっ!!)

イーサとソラナの距離は、3人分の間合い。
着弾からの爆風を前提とする攻撃をその距離から放つソラナ。

(常識外にも程が、あるでっしょ!!)
拳のトランザクションを一時的に解除し、ロケット弾の側面へと手を回し一瞬で投げ飛ばす。
ロケット弾は、イーサの手から放たれた様に明後日の方向へと飛んで行き着弾。
大きな爆発音とともにエントランスの硬質な素材を破壊する。

大きな一撃を避けることが出来た。
彼女の天性のものというより、積み重ねてきた基本の型の力だった。
しかし、大きな対象を投げ飛ばす以上、隙が生じるのは避けられない事だった。

「捕まえましたわ」
イーサのゼロ距離をソラナが踏破していた。
シールド型ライフルを放り出し、格納されたリボルバーを引き抜く形で接近した彼女は、イーサを抱きしめる様な形で発砲する。
発砲音が響き渡り、放たれた弾丸が全て、イーサを貫通する。
彼女の背中から赤い飛沫が舞う。

「イーサさん!!」
思わず、エブモスが声を上げる。

「エブ、子」
そう言うと、イーサは、胸元からしたたり落ちる赤い液体をそのままに倒れる様に冷たいタイルの床へと崩れ落ちた。

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