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国語教育とは何か(7) 「論理的に考える力」は看板だけか

 高等学校の国語科の学習指導要領解説には,国語科の目標として「論理的に考える力や深く共感したり豊かに想像したりする力を伸ばし」(現代の国語,言語文化)や「論理的,批判的に考える力を伸ばすとともに, 創造的に考える力を養 い」(論理国語)が掲げられている。
 中学校の学習指導要領はどうかというと,
第2学年の目標として
 論理的に考える力や共感したり想像したりする力を養い
第3学年の目標として
 論理的に考える力 や深く共感したり豊 かに想像したりする力を養い
となっている。
高等学校とほとんど同じである。
ひとつ前の学習指導要領でも似たようなものだ。
 では「論理的に考える力」は本当に養われているのだろうか。

 次の問題をやってみてもらいたい。

銀行などの窓口に客が訪れたときの待ち時間について考える。
窓口は3つあり,窓口の処理時間はいずれも7分,客の到着間隔は0〜4分でランダムに到着するものとする。
客が到着したとき,空いている窓口で処理を行う。複数の窓口が空いていれば番号の小さい方の窓口で処理する。次の待ち時間表の例で,窓口1,窓口2,窓口3は,それぞれの客を受け付けた後の窓口の処理終了時刻を表す。

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 たとえば,2番目の客は2分に到着したので,空いている窓口2に行く。窓口2の終了時刻は9分になる。
 3番目の客は6分に到着して,空いている窓口3に行く。
 4番目の客は3番目の客と同時に到着したが,3番目の客に順位を譲ったので,窓口1が空くのを待って,窓口1に行く。ここで待ち時間が発生する。以下同様である。
(ア)〜(オ)に入る数を答えなさい。

 これは,高等学校「情報」の教科書にある「シミュレーション:待ち行列」の内容である。教科書では,窓口が1つの場合について,表計算ソフトを用いてシミュレーションを行う。窓口が2つ以上になると表計算ソフトでは難しくなるのでプログラミングをするのだが,そのためには,条件と,どのように状況が変わっていくかがわかっていなければならない。上の表の空欄を埋めることができれば,それはできたと見なしてよいだろう。
 正解は,(ア)から順に,14, 20, 13, 20, 4 である。

 どうだろう。「簡単だ」という人,「あれ? あ,そうか」という人,「え? なんで?」という人,「さっぱりわからん」という人の4通りがいることが想定される。「あれ? あ,そうか」という人は,わかっているけどちょっとしたミスだった,という人だ。

 なお,これは窓口が3つの場合だが,窓口が2つの場合については授業でやっている。
 定期試験に出題したのだが,5つとも正しく答えられた生徒は60%程度であった。これは想定より悪い。そういう場合は,出題に問題がある場合もある。
 しかし,上から丹念に追っていけばわかると思うのだが,何がわからないのだろう。考えられることは

(1) 上から丹念に追っていく ということをしていない
(2) 条件の意味がわかっていない
(3) たし算や引き算を間違えた

くらいだろうか。(1) は取り組む態度の問題といえる。(2)が,国語の理解力の問題である。
 だが,(2)だとして,この程度の問題で何がわからないのだろう,と思ってしまうのである。「何がわからない」のかがわからない。
 間違えた生徒に「なぜ間違えたと思うか」とアンケートをとればよいかもしれない。いわば「テストの反省」である。残念ながらそれはしなかった,というか,日程的にできなかった。

 そこでふと思う。テストの反省をさせ,アンケートをとり,それを分析すれば今後の授業に生かせる。それはそうだが,現実にはほとんど無理だ。そんな時間的余裕は今の教員にはない。今回のことで言えば,テスト後のスケジュール上,「アンケートをとって・・・」はほとんど無理だった。小中学校の先生や,高校でも正規の先生の場合,「スケジュール上」でなくても,時間的に無理だ。
 これは「国語」の試験問題ではない。しかし,国語(日本語)を読んでいけばわかるはず。「論理的に考える力や共感したり想像したりする力を養い」という学習指導要領の目標は,ほとんど看板倒れに終わっているということになる。
 ではどうすればよいか。
 毎回,授業の理解度をアンケートなどでチェックし,読解についてこまやかに指導していく。
 言うことはかっこいいだろう。しかし,90%以上の教員が,「そんなことは画餅に過ぎない」というだろう。それが,いまの現実である。