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読解力をつける(7) 小学校の国語教育の例

「お母さんといっしょの読解力教室」(二瓶弘行 新潮社 2014年)を読んだ。
副題に,「子どもの学力がどんどん伸びる」とある。
著者は筑波大学付属小学校教諭である。小学校の先生の目線で書いた本だ。

まえがきを見てみよう。

小学生の子どもに,最も大切な力は「読解力」です。
「読解力」と言ってもピンと来ない方もいるかもしれません。端的に言えば,読解力とは文章を読み取る力のことです。
〜中略〜
読解力を身につけるためには,文章の読み方を学ぶことが必要なのです。
本書では,文章を読む二つの方法,「三つの大部屋読解法」と「クライマックス場面読解法」を紹介します。
これらの方法は,現在勤務している筑波大学付属小学校の私の国語教室で実践している内容です。

 では,「三つの大部屋読解法」と「クライマックス場面読解法」とはなんだろうか。
 それを見る前に,「第1章 子どもに必要な力は,読解力」で,著者が考える「読解力」とは何か,と読んでおこう。

「私の国語教室では「読解力について,次のように捉えています。」として以下のことを挙げている。

・文章の内容を正確に読み取る力
・文章の内容を想像する力
・自分の意見や感想を持つ力

「自分の意見や感想を持つ力」を読解力に含めるかどうかは異論があるだろう。それは,読解力があって,文章が読めた後の話だから,読解力に含めるのはおかしい,と。しかし,PISA型読解力ではこれも含めている。(PISA型読解力については別稿で論じることにする。)
 その上で,教科書に載っている文章を「説明文」と「物語文」に分け,それぞれに対して,「三つの大部屋読解法」と「クライマックス場面読解法」を示しているわけである。
これで,本書の方向性がつかめただろう。

ところで,この章の中に,次のような一節がある。

「AERA」(2013年12月9日号)に,小学校までは成績優秀だったのに,中学一年の夏休みを越えたころから,どんどん成績が下降し,勉強嫌いになるケースが増えているという記事がありました。
原因のひとつとして「自己分析力」不足があげられ,このような子どもたちは,たとえば数学でわからないところを尋ねられると「全部!」「数学!」「方程式!」と大雑把にしか言えないと書かれていました。そして,そのような子どもへの対応策として,「学習したことを自分の言葉で言わせてみる」,「自分で思考する習慣をつけさせる」,「知らないことの調べ方を考えさせる」という専門家の助言もありました。

 そのためには読解力が必要だ,としているのだが,上の原因の捉え方は充分とは言えない。「ひとつとして」だから,必ずしも間違いではないのだが,「「お母さんは勉強を教えないで」(見尾三保子 草思社 2002年)」に書かれているように,それまで「やり方」を覚える,という学習をしてきて,「理解する」ことをしてこなかったのが原因とも考えられるからである。むしろ,この可能性が大きい。残念ながら二瓶氏にはそれが見えていないか,見えていても書かなかったようだ。だが,どちらかというと,「見えていなかった」のではないかと思われる。それは,「三つの大部屋読解法」と「クライマックス場面読解法」を読解の2つの柱としているという国語教師だから,と言ったら失礼にあたるだろうか。
 では,その2つの柱を見てみよう。

三つの大部屋読解法
 これは,説明文の要旨を捉えるために,次の図を使って行く方法である。

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 ここで,「いろいろなふね」は,文章のタイトル。いろいろな船について,どんな役目をするのかを説明をした文章だ。
「はじめの部屋」は序論,「終わりの部屋」は結論に相当する。
このように全体の構造を考えてから,「小部屋」について要約していくのである。

クライマックス場面読解法
 これは,物語文を読むときの読解法で,「物語をしっかり読むことで,自分なりに物語の世界を作り上げることができる」という考え方が基本になっている。「感想の根拠となる言葉を物語の中から見つけ出す」方法が「クライマックス場面読解法」である。
「クライマックス場面読解法」も「三つの大部屋読解法」と同様に,まず全体の構造を捉える。ここでは「前ばなしの場面」「出来事の展開場面」「クライマックス場面」「後ばなしの場面」の4つに分ける。このうち「クライマックス場面」では,「何が」「どのように」「どうして」変わったのかを考える。こうして,「作品の心」をまとめ,文章化するのである。

以上,要約の方法という点では,「読解力を身につける」(村上慎一 岩波ジュニア新書 2020年3月)と似ているといえよう。

第7章では,「読解力」について改めてこう書いている。

読解力とは一つには言葉や文章を論理的に読む力,論理的思考力です。論理的に読むというのは,筋道立てて,言葉と言葉のつながりを正確に捉えられるということ。

確かに,「三つの大部屋読解法」や「クライマックス場面読解法」では,全体の構成を考えたり,小部屋の要約をしていくときに,筋道立てて考えることができるだろう。しかし,「言葉と言葉のつながりを正確に捉える」はどうだろうか。必ずしもそれができていなくても「要約」はできてしまうのではないだろうか。そんな危惧をぬぐいきれない。

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今までの流れは「読解力を追って」にまとめてあります。